荒木電事連会長定例記者会見発言要旨



( 1998年7月24日 )




◎本日は、最近の電力需要からみた景気動向と、7月に入ってからの最大電力の動きについて申し上げたい。

◎ 景気動向については、皆さんのご関心も高いと思う。この第1四半期の販売電力量(速報)がまとまったので、景気の現状を知る手かがりとして、その特徴をまとめてみた。お手許資料の1頁の(1)をご覧いただきたい。
○ 10社の第l四半期の販売電力量は、産業用需要の伸び悩みなどから、電灯・電力合計で、対前年比1.4%の低い伸びにとどまった。
○ 生活関連では、3月上旬・4月上旬などに、気温が前年に比べて低めに、また、4月中旬以降には、一転して高めに推移したことなどから、冷暖房需要の増加が見られ、電灯は、対前年比4.0%増、業務用電力が、対前年比6.3%増と堅調な伸びとなった。
○ 一方、景気動向と関連の深い産業用の大口電力については、景気後退による鉄鋼、自動車などの輸送用機械、化学など、主要業種の生産調整を反映して、対前年比▲3.0%と前年割れとなった。この▲3.0%という数字は、バブル崩壊後の景気後退期で、かつ冷夏であった93年の第2四半期(▲3.3%、9社計)以来、約5年ぶりの低い水準。ちなみに、月別の推移を見ても、今年1月以降、6か月連続で前年実績を下回っており、特に6月は、対前年比▲3.7%でマイナス幅が拡大している。これを上回るマイナスの伸びとしては、円高不況であった87年2月の▲5.7%(9社計)であり、それ以来(11年4か月ぶり)の落ち込みとなっている。
○ この第1四半期の産業用大口電力を、各社別にみると、2頁の(l)にあるとおり、設備増設のあった紙パルブなどの影響で堅調な伸びとなっている四国を除くと、9杜全てで対前年比マイナスとなっている。
〇 また業種別でも、2頁の(2)にあるとおり、電子通信機器の生産が堅調な「電気機械」を除き、主要業種の全てで前年の実績を下回っている。産業用の電力需要の落ち込みは、ほぼ全地域、全業種に亘っており、しかも深刻化してきていることがわかる。
○ ところで、4月にもご紹介したが、産業活動の実態は、電力会社の販売電力量に自家発分を加えた「自売計」に、より的確にあらわれる。私どもは、この自売計の動きから景気の現状を判断する方法として「大口電力カーブ」というものを使っている。
○ 3頁の大口電力カーブをご覧いただきたい。現在まとまっている自売計の統計は今年の5月までだが、大口電力カーブは、昨年の11月以来、自売計電力量の伸びが、契約電力の伸びを下回るという「景気後退期」の特徴を示している。しかも、両者の伸び率の格差が次第に広がってきており、この面からも、景気の厳しさが増していることがうかがえる。
○ 電力需要から見る限り、残念ながら景気後退はほぼ全体に及び、しかもかなり深刻な状況になっているようだ。

◎ つぎに、7月に入ってからの最大電力需要の動きについて若千申し上げたい。
○ 今年は、7月に入って、一時的に太平洋高気圧の勢力が増し、前線を北に押し上げたことから、九州や四国で梅雨が明け、ほぼ全国的に猛暑となった。このため、各社とも冷房需要が伸び、中部、四国、九州、沖縄の4社で、日電力量、すなわち1日のkWhが、過去最高を記録。また10社合計でも、7月9日に30億9,123万kWhとなり、過去最高の95年の記録(H7.8.25, 30億7,130万kWh)を3年ぶりに更新した。
○ 一方、最大電力、すなわちkWは、沖縄を除いて、各社とも記録更新には至っていない。
○ 通常、最大電力と日電力量は、同時に記録を更新するが、この夏のように、各社、10社計ともに、最大電力が更新せずに日電力量が更新しているのは、やや意外な感じがする。
○ 夏もこれからが本番であり、まだ詳細な分析も行っていないので、断定的なことは言えないが、これらの要因のひとつとして、世帯当たりの家庭用ルームエアコンの保有台数の増加が考えられる。
○ 4頁の上の表は、過去に最大電力と目電力量の記録を同時に更新した日の気温と、今年の日電力量のみを更新した日の気温とを比較したもの。最大電力は、最高気温に大きく左右されるが、日電力量のみを更新した今年の7月9日の「最高気温」は、過去に最大電力を更新した日の最高気温に比べて、9社平均で2℃近く低かったことがわかる。
○ 一方、「最低気温」については、9社平均で▲0.5℃で、最大電力と日電力量を同時に更新した日の気温と、ほぼ同じとなっている。
○ 4頁の下のグラフをご覧いただきたいが、経企庁の「消費動向調査」によると、l00世帯当たりのルームエアコンの保有数量は、88年頃を境に100台を突破し、今年3月の調査では、191.7台(前年度に比べ12.4台の増)と、一家に1台から各部屋にl台へと急速に普及が進んでいる。最低気温が変わらないにもかかわらず、日電力量が伸びた背景には、こうした2台目、3台目のエアコンが、昼間より、むしろ家族の揃う夜間に稼働しており、夜間需要を押し上げたことが影響しているのではないか。
○ 先週の初めからは、それまでの暑さから一転して低気温となってしまった。5頁のグラフをご覧いただきたいが、そうした気温の変化と相関して、最大電力需要も、暑かった先々週の水準に比べて3,000万kW以上も落ち込んでいる。来週にも、関東地方などでも梅雨明けし、暑さも戻ってくるようだ。今年は、夏らしい暑さが続いて、クーラーや夏物商品が売れ、落ち込んでいる景気によい刺激を与えることを、ぜひ期待したい。

○私からは以上。