荒木電事連会長定例記者会見発言要旨


(1998年12月18日)






◎ 早いもので、今年も余すところ後2週間となった。 エネルギー記者会の皆さま方には、この1年大変お世話になった。この場をお借りして、心からお礼を申し上げたい。
○ 本日は、今年最後の会見となるので、いろいろあったこの1年間を振り返ってみたいと思う。
○ 今年は、金融機関の相次ぐ破綻、経済の失速による倒産や失業率の増加など、社会全体に閉塞感が深まる一方で、金融ビッグバンの始動や中央省庁改革基本法の成立をはじめ、エネルギー分野でも、大手石油会社が合併に合意するなど、21世紀への生き残りと発展をかけ、戦後の経済社会を支えてきた枠組みの見直しが、大きく動きだした年であったと思う。また、ここにきて、イラクの空爆、北朝鮮の潜水艦など、騒がしい1年だった。
○ お手許の資料-1に、電気事業を巡るこの1年の動きをまとめてみた。ご覧いただくまでもなく、電気事業にとっても、この1年は、21世紀の日本が健全に発展していくための基盤となる電気事業を、さらに効率的で競争的なものにしていこうと、真剣に取り組み、議論した1年であった。
○ 私ども電力各社は、今年の2月から、10社平均で 4.67 %、額にして年7,118億円の料金引き下げを実施した。
 これは、ここ数年来、各社が真剣に取り組んできた効率化努力がようやく実を結びはじめ、その成果をお客さまに還元させていただいたものだ。
○ 一方、電力供給システム全般の見直しについて、電気事業審議会基本政策部会で、昨年7月以来これまでに14回、専門委員会を入れると20回もの審議を積み重ねてきた。先週11日には、「送電ネットワークの利用拡大により、特別高圧需要家への供給を自由化する」という報告案が取りまとめられた。
 ここに至るまで、サンクチュアリを設けずに真剣な議論が行われ、その結果、委員をはじめ多くの方々の間に、無資源国であるわが国のエネルギー事情や日本の電気事業の特色、経済性の追求と公益的課題を両立させることの必要性などについて、共通の認識が深まり、今後の進路について大枠を固めることができたことの意義は大変大きい。
○ 今後、託送料金や区分経理のルール、長期卸供給入札のあり方や独禁法の扱いなど、詳細な詰めが残ってはいるが、部分自由化とはいえ販売電力量の約3割に相当するお客さまへの供給自由化がほぼ固まったことは、わが国の電気事業にとって大きな転換点であり、新たな時代へと一歩踏み込んだという感じがしている。
○ 来年は、各社とも、自由化本番に向けて備えを固める重要な年となる。私どもは、今回の審議の過程でも前向きに規制緩和に臨んできたつもりだが、新たな制度の下でも、お客さまをはじめ、株主・投資家の方々から選んでいただける企業であり続けられるよう、設備のさらなるスリム化や、料金・サービスメニューの多様化、財務体質の強化などに、前向きにチャレンジしていまいりたい。

◎ つぎに、今年の原子力をめぐる状況だが、明と暗が相半ばする1年となった。
○ 明るいニュースとしては、多くの関係者の地道な努力の積み重ねによって、日本原燃と地元との間で安全協定が締結され、10月に東京電力福島第二原子力から六ヶ所村再処理施設へ試験用使用済燃料の一部を搬入することができた。 また、プルサーマルについても、今週16日に、関西電力の高浜3・4号機でのプルサーマル利用について国から許可が下り、東京電力の福島第一・3号機についても、現在、安全審査が進められている。
 立地面でも久々に進展が見られた。8月に新規立地点としては10年ぶりとなる東北電力東通1号機の設置許可が下り、中部電力の浜岡5号機についても、今週、原子力安全委員会と原子力委員会の審査が終了した。このほか、中国電力の島根3号機、北海道電力の泊3号機についても増設に向けて手続きが進められている。
○ その一方で、10月に使用済み燃料輸送容器のデータ改ざんが明らかになり、再び原子力事業全体に対する社会の不安や不信感を呼び起こすこととなった。
  社会の方々からご信頼をいただくには、大変なエネルギーと時間を必要とするが、それらはいとも簡単に失われてしまうものだと、改めてその怖さと厳しさを痛感した。
○ 今月3日には、技術的な見地からキャスクの遮蔽能力に影響がない旨の国の検討委員会の報告書がまとめられ、電気事業者に対しても再発防止策の実施と原子力の信頼回復に業界を挙げて取り組むようご指示をいただいた。
○ 私ども事業者は、今回の問題を業界全体の責任と考え、私を含めた関係者が自らの判断で報酬の一部を返上したが、私どもに課せられた本当の責任とは、こうしたことが再び起こらないよう、再発防止策や体質改善に全力で取り組むことだと考えている。
 今後、関連企業、関連業界と協力し、立地地域や国民の皆さまの信頼回復に業界をあげて取り組んでまいる所存であるので、ご理解をよろしくお願いしたい。
○ 来年も、プルサーマルの実施が予定されているほか、使用済燃料の中間貯蔵や高レベル放射性廃棄物処分などのバックエンド対策についても、より具体的な検討が進んでまいると思う。
  課題が山積しているが、21世紀に向けて、エネルギーセキュリティー確保や地球環境問題で中核的な役割を担う原子力を着実に進めていくため、国と協力して全力で取り組んでまいるので、ぜひご理解とご支援をお願いしたい。

◎ 最後に、国内景気について申し上げたい。
 今年の日本経済は、昨年来の消費税引き上げや雇用不安などから個人消費が引き続き低迷していることに加え、設備投資も落ち込むなどスパイラルに景気が悪化し、出口が見いだせないままに年を越しそうである。○ こうした、状況は、電力需要にも大きく影響している。本日まとまった、お手許の11月の販売電力量の速報をご覧いただきたい。
○ 景気と関連が深い産業用の大口電力を見ると、1頁の右上のとおり、11月も対前年比 ▲ 4.6 %と大幅な前年割れとなった。 これで、今年の1月以降11か月連続で対前年比マイナスとなった。11か月連続のマイナスは、最近ではバブル崩壊後の93年7月〜94年5月の11か月間と並ぶ長さである。 また▲ 4.6 %というマイナス幅も、円高不況であった87年2月の ▲ 5.7%(9社)以来11年9か月ぶりの落ち込みとなっている。
○ これを業種別にみても、1頁の右下のとおり、主要業種全てで前年の実績を下回っており、また各社別でみても、2頁のとおり、沖縄電力を除く9社全てで対前年比マイナスとなっている。  電力需要から見る限り、残念ながら年末になっても景気回復の兆しは見られず、回復までにはもうしばらく時間がかかりそうである。
○ ぜひ来年は、政府の総合経済対策や第3次補正予算などの効果が現れ、消費者や経営者の心理も好転して、1日も早く景気が回復することを願っている。