「この発電所は絶対に止められない」。プレッシャーを跳ね除け、緻密な点検作業に没頭した。

vol.06

四国電力 火力本部
阿南火力事業所 橘湾発電所 保修課(機械分担)副長

佐々木 圭一さん

徳島県阿南市にある橘湾発電所(石炭火力、70万キロワット)。当初この時期に予定していた定期検査を秋以降に繰り延べた。定期検査の繰り延べは初。電力不足が予想されるこの夏を乗り切るためだ。

津波直後の仙台火力発電所内 しかし、設備の保修を任される佐々木には一抹の不安があった。定期検査の時期を超えた設備で安定運転が続けられるのか。ボイラーは2年に一度、タービンは4年に一度の定期検査が行われ、そのタイミングで交換することを前提に設計・使用する設備もある。例えばボイラーの配管は、中を通る高温・高圧の蒸気によって内壁が腐食したり、摩擦で削れるため徐々に肉厚が減少する。2年という通常の使用期間なら耐えられるが、それを超えた場合はどうなるか。

佐々木をはじめとする保修スタッフは、定期検査に代えて行った中間点検で設備を徹底的に調べ上げた。中間点検は定期検査に比べ25日間と、はるかに短い。点検に伴う停止期間をできるだけ短縮し、一日も早く発電を再開するためだ。点検や交換は2交代による昼夜を徹した作業となった。休日も返上だった。

点検作業は「緊張の連続」だった。消耗が進んだ部品を見落とせば、やがて事故やトラブルの原因になる。橘湾発電所は四国の最大電力の約12%を賄う重要な電源だ。橘湾発電所のような石炭火力発電所は「ベース電源」として電気を送り続ける。暮らしや産業を支える屋台骨だ。それだけにメンテナンスの不備で発電できなくなれば致命的な影響が出る。佐々木はプレッシャーに押しつぶされそうになった。しかし、それを跳ね除け、緻密な点検作業に没頭した。限られた時間の中、全員が心をひとつにして数千点におよぶ機器の点検や交換をやり遂げた。密度の濃い作業だった。

交換や修理すべき箇所を察知するには、長い経験で培われた五感とスキルを必要とする。佐々木でさえ「現場に行けば毎日が勉強。慣れと油断は取り返しのつかないミスを生む」。若手には難しい仕事だが、経験豊かなベテランと一緒に現場をまわることで、これらが急速に養われた。「若手も同僚の仕事まで積極的にカバーするようになった。緊張と集中力を求められる環境で大きく成長した」。

原子力発電のほとんどがストップしている今、火力発電が日々の電力を支えている。「この夏を乗り切るだけではない。ベース電源として、自分たちがエネルギーの安定供給を担う使命感と誇りを持ち続けたい。安定供給はずっと求められているのだから」。
「この発電所は絶対に止められない」。使用量が急増する夏本番を見据え、佐々木は静かに、しかしきっぱりと言った。

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