原子燃料サイクルって何? 石川和男さんが疑問にお答えします

臨時特集号2016

エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼る日本において、エネルギー供給の安定性を確保する観点から、原子力発電は重要な電源です。さらに原子力発電の燃料であるウランを有効活用し、供給の安定性を高める原子燃料サイクルは、わが国にとって必要な仕組みです。そこで、原子燃料サイクルに対する疑問について、エネルギー問題に詳しい石川和男さんに解説をお願いしました。

石川 和男さん
石川 和男さん
(いしかわ かずお) NPO法人社会保障経済研究所代表

1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁、環境立地局などで、電力・ガス行政などエネルギー政策や産業保安政策などに携わる。また、産業金融政策、中小企業政策、消費者政策、物流・流通政策などにも従事。2007年退官後、内閣官房企画官、内閣府・規制改革会議専門委員をはじめ、政策研究大学院大学客員教授、東京財団上席研究員などを歴任。現在、政策アナリストとして積極的に政策研究・提言を行っている。

日本はエネルギー資源に乏しいっていうけれど…?

日本のエネルギー自給率はわずか6%しかありません

資源に乏しいわが国のエネルギー自給率はわずか6%。日本のエネルギーセキュリティは世界の主要国と比べ極めて脆弱で、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国中、2番目に低い水準です。こうした状況に対応するためには、リスクを分散しながら多様な資源を安定的に確保し、大切に使う必要があります。

わが国は過去2度の「オイルショック」の経験から、脱石油を推し進めながら、原子力発電を含めた電源の多様化に努めてきました。

しかし、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故後、多くの原子力発電所が長期停止し、その結果、必要とする電力の約9割を火力発電に依存していることを、ご存知ですか?
このように特定の電源に偏ることは、好ましい状況ではありません。

しかも、その燃料となる原油の8割、天然ガスの3割を中東から輸入しています。もし中東で紛争や海上の輸送ルートの封鎖などが生じれば、まさに深刻な影響を被るリスクが高まるのです。

政府は長期的なエネルギーのあり方として、2030年度時点で望ましい電源構成(エネルギーミックス)の姿を示しており、S(安全)+3E(安定供給確保、経済性、環境保全)を基本に、バランスよく電源を組み合わせる方針です。具体的には、再生可能エネルギーの導入拡大を目指すとともに、火力発電は50%台、原子力発電は20~22%としています。

すべてにおいて完璧なエネルギーというものはありません。その現実を踏まえ、これからの日本は、特定のエネルギーに偏ることなく、バランスよくエネルギーを利用する「多様性」を追求すべきです。

※ヨーロッパ諸国を中心に日本や米国を含め、先進国が加盟する国際機関。

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原子燃料サイクルって何?

ウラン資源を一層有効利用できる仕組みです

石油や天然ガスなどの化石燃料は、火力発電所で一度燃やしてしまうと二度と燃料として利用することはできません。
しかし、原子力発電の燃料であるウランは、発電で一度使った燃料(使用済燃料)から、まだ資源として使えるウランやプルトニウムを取り出して、再び利用することができます。このリサイクルの流れを「原子燃料サイクル」といいます。

原子燃料サイクルを日本で確立すれば、資源に乏しいわが国において、貴重なウラン資源を一層有効利用できます。この原子燃料サイクルの要となる再処理工場について、これから詳しく紹介します。

※「原子燃料サイクル」は「核燃料サイクル」とも呼ばれます。

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再処理工場ってどんな施設?

原子燃料サイクルの要の施設です

日本原燃 再処理工場

今回訪れたのは、青森県六ヶ所村にある日本原燃の施設です。ここには、わが国が誇る最新鋭の再処理工場があります。この再処理工場には、全国の原子力発電所から使用済燃料が運ばれ、まだ使用できるウランやプルトニウムを回収するための作業が行われます。

再処理工場の意義を考える時、重要な視点は主に二つあります。

ウラン資源の有効活用

一つはウラン資源の節約につなげることができる点です。使用済燃料は実に9割以上をリサイクルできることは、ご存知でしたか?再処理して回収されるウランやプルトニウムを再利用すれば、ウランの利用年数を数倍~数十倍に延ばすことができます。

現在、国内には約17,000トンの使用済燃料が安全に貯蔵されています。すべてを再処理してウランやプルトニウムを取り出し、これを燃料として原子力発電所で再利用した場合、いったいどれだけの電力を生み出すことができるのでしょうか?答えは約15,000億キロワット時です。わが国全体の発電電力量の約1.5年分ですよ。もし、これを原油に換算してどれだけ節約できるのかを試算してみると、約11~23兆円にもなります。

※原油価格の変動により試算値に幅がでる。

高レベル放射性廃棄物の減容化

もう一つの重要な視点は、高レベル放射性廃棄物の量を減らすことができる点です。使用済燃料を廃棄物として、そのまま直接処分する場合と比べ、再処理することで高レベル放射性廃棄物の体積は約4分の1に減容できます。そのため、処分場もよりコンパクトに設計できます。さらに、放射能が天然ウラン程度に低下するまでの期間は、 直接処分の約10万年に比べ、その12分の1の約8,000年まで短縮できます。

つまり、再処理はウランの長期的な安定供給に貢献するとともに、高レベル放射性廃棄物をより安全に処分するために役立つ重要な技術です。

ここ六ヶ所村にある再処理工場は、このような意義のある施設で、2018年度上期の竣工を目指しているところです。現状では再処理の主要工程はもちろん、高レベル放射性廃棄物に関するガラス固化技術の試験もすでに終了しています。

福島第一原子力発電所の事故の反省などを踏まえ、原子力規制委員会により再処理工場などを対象にした新たな規制基準が策定されました。現在、この基準に対応するため、あらゆる事態を想定し、現地では徹底した安全対策に取り組んでいるところです。

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再処理して取り出したプルトニウムはどうするの?

プルサーマルの実施により、確実に利用されます

わが国は「余剰プルトニウムを持たない」という方針の下、原子力の平和利用を推進しています。再処理することで取り出されるプルトニウムは核兵器への転用が懸念されるため、国際的な疑念を持たれないよう、厳格に管理しています。実際、この再処理工場では、国際原子力機関(IAEA)の職員が24時間、監視しています。

日本はいま、約32トンのプルトニウムを保有しています。また、今後再処理工場が操業して、年間800トンの使用済燃料を再処理した場合、4トン強のプルトニウムが回収されます。

原子力事業者は、全国の16~18基の原子力発電所で「プルサーマル」を実施する方針です。この場合、プルトニウムを年間5.5~6.5トン利用することになり、プルトニウムは貯まり続けることなく、確実に利用できる環境が整います。

※核分裂性のプルトニウム

プルサーマル:使用済燃料を再処理して回収したプルトニウムとウランを混ぜてMOX燃料を造り、現在の原子炉(軽水炉)で利用することを「プルサーマル」といいます。

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高レベル放射性廃棄物はどこに処分するの?

科学的かつ冷静に議論を深める必要があります

日本原燃 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター

再処理工場では、使用済燃料からウランやプルトニウムを回収する一方で、放射能レベルの高い廃液も発生します。この廃液は、融かしたガラスと混ぜ合わせ、ステンレス鋼製の容器に入れて固めます。これが高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)です。

ここ日本原燃の施設では、この高レベル放射性廃棄物を30~50年間一時貯蔵した後、最終処分場に搬出します。

わが国は、高レベル放射性廃棄物の処分方法として、生活環境から隔離し、人間による管理がなくても安全に処分できる「地層処分」を選択しました。また処分地選定のプロセスについては、まず国が2016年中に科学的な有望地を提示することを目指します。その上で地域の理解状況を踏まえ、国が関係自治体に文献調査を申し入れ、その後、概要調査の地区を選定するなど段階的に法律で定められた調査を行っていく計画です。

今後、処分地の選定にあたっては、エネルギーのあり方を踏まえ、現在の暮らしや未来を展望しながら、冷静に議論を深める必要がありますね。

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再処理工場はいま

REPORT 「竣工目前を実感 世界も注目するわが国の再処理事業」

東日本大震災後、日本原燃の再処理工場の見学は今回で3回目となります。ガラス固化をはじめ、すでに技術的な試験は完了しています。

一部の報道などから、竣工はまだまだ先という印象を持つ方がいるかもしれませんが、まさに竣工が目前にあることを実感しました。

実際に施設を見学すると、安全対策が徹底されており、現場はきびきびと士気が高く感じられました。

わが国のエネルギーセキュリティや電力の安定供給に寄与するのは確実であるため、本当に一日も早い再処理工場の稼働を望みます。

原子燃料サイクルの始動を全世界が注目しています。

また、日本原燃と地元との関係は、地域産業政策において、雇用や産業集積の面などから、極めて優れた望ましいビジネスモデルです。

竣工すれば、より強固なものになると確信しています。

新たな事業環境下での原子燃料サイクル事業

電力システム改革に伴う競争の進展や、原子力依存度の低減といった事業環境の変化により、原子燃料サイクルが滞ることがないよう、国は事業を着実に実施していくための課題を検討し、今後の方針を示しています。
具体的には、必要となる資金を安定的に確保するため、現行の積立金制度を拠出金制度へ見直すことが示されています。これにより、使用済燃料の発生に応じて、原子力事業者が再処理などに必要な費用を実施に責任を負う主体に拠出することになります。この主体として、国が必要な関与を行うことができる認可法人を設立し、事業の実施を民間事業者である日本原燃に委託することが可能な仕組みとするなど、実施体制の新たな枠組みも示されました。
今後、国において法改正をはじめ必要な制度措置が整備されることになります。

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