福島は復興する低線量で健康被害は発生しない

vol.02

札幌医科大学 教授

高田 純氏

広島大学大学院理学研究科前期修了。シカゴ大学ジェームス・フランク研究所、京都大学化学研究所などを経て現職。専門は放射線による人体影響。チェルノブイリでも長期間にわたり現地調査を行った。福島では住民の内部被曝調査を行い、著書「福島 嘘と真実」(医療科学社)やツイッター(@gatapi21)、主宰する放射線防護情報センター(http://www15.ocn.ne.jp/~jungata/)を通じて意見を発信する。

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3月11日の大津波により冷却機能を喪失し核燃料が一部溶解した福島第一原子力発電所事故は、主として放射性の気体を放出し、福島県と近隣を汚染させた。しかし、この核事象の災害レベルは、当初より、核反応が暴走したチェルノブイリ原子炉事故と比べて小さな規模であることが、次の三つの事実から明らかであった。 1)巨大地震S波が到達する前にP波検知で核分裂連鎖反応を全停止させていた、 2)運転員らに急性放射線障害による死亡者がいない、 3)軽水炉のため黒鉛火災による汚染拡大は無かった。
筆者は30年前の大学院生時代に、黒い雨の研究を行った広島を原点に、チェルノブイリ原子炉事故、米ソ中の核爆発災害、東海村JCO臨界事故などの現地調査を経験する放射線防護学者である。その間に、内外被曝の線量をその場で評価する方法を開発し、結果を現地の人たちへ伝えてきた。今回も、同一手法で、現地の放射線衛生を調査している。結果、低線量の事実が浮かび上がった。(拙著「福島 嘘と真実」医療科学社)
私が検査した浪江町を含む66人の甲状腺年間線量値の最大値が8ミリシーベルトと、チェルノブイリの被災者の1千分の1から1万分の1以下であった。この値では、放射線由来で甲状腺がんにはならない。9月までの乳児、幼児を含む66人の県民のセシウム検査では、年間線量の最大が0.3ミリシーベルト、1人を除き0.1ミリシーベルト以下であった。
私は4、6、8月に個人線量計を胸に装着して福島県内を、それぞれ2泊3日で調査した。4月に2日間20km圏内に入り、福島第一原発の敷地境界まで計測した総線量は0.10ミリシーベルト。6月の福島―飯舘村―南相馬―郡山―いわき調査では、総線量が0.01ミリシーベルト。8月の白河―会津―福島調査では総線量は0.006ミリシーベルト。最初の1カ月間で放射能は4分の1以下になり、その後も減衰している。
こうして、平成23年の県民の多くの年間線量は、5ミリシーベルト以下と私は評価した。しかも来年の年間線量は、特別な除染がなくとも、会津地区などは1ミリシーベルト以下になると予想する。県民に放射線由来の健康被害は発生しないと判断する。
20km圏内等の福島県の一部については、国の責任で効率よく除染すべきである。
目標は、実線量が年間1ミリシーベルト以下、農産物のセシウムが基準値以下とした、当地農業の再建である。世界に日本の科学力と強い意思を示すべし。