電力自由化は理想の世界か

vol.05

富士常葉大学教授

山本 隆三氏

京都大学卒。住友商事(株)地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授に。2010年4月から現職。経済産業省「産業構造審議会」などの委員を歴任。現在(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術委員などを務めている。
『夢で語るな日本のエネルギー』『脱原発は可能か』など著書多数。

昨年3月の震災以降、電力を自由化すべきとの意見が多く聞かれるようになってきた。背景には電力会社が行っていることは信用できないと思う人が増えていることもあるのだろう。

先日テレビの情報番組に出演した時に、電力の自由化を行ったニュージーランドで大停電が起きたことを説明したところ、電力会社に有利な情報を流しているという視聴者がいた。事実を聞いても不快に思うほど、電力会社を嫌いな人がいるということだ。しかし、電力供給という社会基盤を好き嫌いで論じることはできない。事実と理論に基づき、何が社会にとり最善なのかを考えるべきだ。

自由化、即ち規制緩和により競争環境を作り出せば、料金が下がるという主張がある。通信も運輸も規制緩和により料金が下がった、だから電気も規制緩和で料金が下がる筈という。一見もっともらしいが、これは間違いだ。電気は他の商品と異なり、代替品がなく、需要に合わせ必ず供給を行う必要がある。もし、供給が不足すると価格は高騰する。2000年のカリフォルニア州の自由化市場の経験で学んだことは、利益を上げる機会があれば、供給責任がない事業者が市場操作を通し価格を上げる大きなインセンティブを持ち、それを実行するということだ。自由化で新規参入した事業者は競うように電気の供給量を絞り、電気の価格を引き上げた。その結果として供給不足に陥り、最後には停電という危機を引き起こした。

自由化を実現する有力な手法と言われる発送電分離も料金の値上げを引き起こす可能性が大だ。電力会社が送配電部門を売却すれば、新たな資産購入者が要求する利益額は、総括原価主義により抑えられている今の送配電料を上回ることは確実だ。料金値上げが必要になる。

送配電部門の効率化を進めるためには、送電部門を売却するのではなく、サイクルが異なる東日本と西日本でそれぞれ送電部門の運用を一体化するほうが望ましいだろう。一体化により、再生可能エネルギーの導入も促進されることになる。

自由化の目的は効率を上げることだ。しかし、安定的な供給と価格が必要とされる電力では、多少の効率を犠牲にした上で地域独占が認められてきた。効率を追求し、実現が不透明な多少の価格の下落と引き替えに安定供給をリスクに晒すことが出来るのだろうか。効率の追求は、自由化でなくともスマートメーターによる需要のコントロールなどで達成可能だ。リスクに見合うメリットをよく考える必要がある。