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ISSUE

2017.08

地層処分ってなんだろう

原子力発電所で使い終えた燃料をリサイクルする際に発生する「高レベル放射性廃棄物」の処分方法として、現在「地層処分」が計画されています。原子燃料サイクルや地層処分について、スポーツキャスターの益子直美さんと一緒に考えていきましょう。

PROFILE 益子 直美(ますこ なおみ)氏

スポーツキャスター、タレント、元女子バレーボール日本代表選手。東京都生まれ。中学入学と同時にバレーボールを始め、わずか2年で全国区の選手に。高校3年生で日本代表選手に選ばれ、世界選手権、ワールドカップなどに出場した。実業団のイトーヨーカ堂入社後、同社の日本リーグ初優勝にエースとして貢献。現在、スポーツキャスター、タレントとして活動するほか、2015年からは淑徳大学女子バレーボール部監督として活躍中。

1.原子燃料サイクルを知る

原子力発電と原子燃料サイクル

日本はエネルギー自給率が7%(2015年度推計値)と極めて低く、ほとんどの化石燃料を海外からの輸入に頼っており、中東における政情不安などの国際情勢の影響を受けやすい状況にあります。
エネルギー供給の安定性を確保するには、特定のエネルギーに依存せず、多様なエネルギー資源を確保しておくことが重要です。このため、安全性の確保を大前提に原子力発電の活用を進めるとともに、原子力発電所で使い終えた燃料を再処理し、回収したプルトニウムなどを有効利用する「原子燃料サイクル」にも積極的に取り組んでいます。

原子力発電所で使われたウラン燃料(使用済燃料)には、核分裂せずに残ったウランや発電に伴って新たに生成されたプルトニウムが95~97%も含まれています。このウランやプルトニウムを再処理によって取り出し、再び原子力発電所で利用する計画を進めています。このウラン燃料をリサイクルする流れを「原子燃料サイクル」といい、日本では日本原燃が青森県六ヶ所村において再処理工場の建設などを進めています。

再処理工場でウランとプルトニウムを回収すると、放射能の高い廃液が残ります。この廃液を、溶かしたガラスと混ぜ合わせて固め、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)として処分します。(図1)
使用済燃料は、そのままの形で処分(直接処分)するとすべてが廃棄物となりますが、再処理してガラス固化体にすることで体積は約1/4になり、処分施設の面積を約1/2~1/3に縮小できます。また、ガラス固化体からはウランやプルトニウムが除かれるため、天然ウラン並みの有害度になるまでの期間※が使用済燃料を直接処分した場合と比べて約1/12に低減します。
現在、原子力発電所などに保管されている使用済燃料を今後再処理すると、すでに再処理された分も合わせ、約25,000本(2017年3月末時点)のガラス固化体が存在することになります。

※【使用済燃料】約10万年
【ガラス固化体】約8000年
人が体内に放射性物質を取り込んだと仮定した場合に受けると推定される被ばく線量であり、放射能で示した期間(図2)とは異なります。

出典:NUMO「知ってほしい今、地層処分」をもとに作成

出典:NUMO「地層処分 その安全性」

2.地層処分を知る

地層処分技術の研究開発はいま

高レベル放射性廃棄物の放射能は時間とともに急速に減少していきますが、十分に下がるまでには長い期間がかかるため、適切に処分する必要があります。この処分方法については、これまで国内外で様々な検討が行われてきました。
その結果、現在では、地下300メートルより深い安定した岩盤に埋設(地層処分)することが、人の手による管理を必要とせず、人間の生活環境から隔離するのにもっとも優れた方法として、国際的にも共通した考え方になっています。

地層処分は、深い地層の岩盤が本来持っている物質を閉じ込める性質である「天然バリア」と「人工バリア」を組み合わせた多重のバリアを巧みに利用する処分方法です。
溶かしたガラスと混ぜ合わせてステンレス製の容器の中で固められ、「ガラス固化体」となった高レベル放射性廃棄物には、「オーバーパック(金属製容器)」「緩衝材(締め固めた粘土)」の多重の「人工バリア」が施されます。その上で、天然バリアである地下深い岩盤中に埋められます(図4)。地層処分の実施に適した地質環境を選び、天然・人工のバリアを組み合わせれば、長期にわたり安全に廃棄物を閉じ込められることが技術的にも確認されています。

今回、益子直美さんが訪れたのは、北海道幌延町にある日本原子力研究開発機構(JAEA)・幌延深地層研究センターです。同センターは、実際に地下350メートルまで掘削した地下施設(調査坑道)を使って、地層処分技術の研究開発に取り組んでいる施設です。
具体的には、地層や地下水の性質、地震の影響などの長期的変化に関する研究のほか、模擬の人工バリアを実際の地層に埋めて性能を確かめる試験など、処分技術の信頼性向上に向けた研究開発を進めています。
今回は、JAEA研究者の若杉圭一郎さんに、地層処分や同センターの研究内容について紹介していただきました。まずは地上の「地層処分実規模試験施設」などを視察した益子さん。実物大の人工バリアの模型の前で説明を受けると「何重ものバリアによって放射性物質を閉じ込めることが良く分かりました」と話していました。

日本原子力研究開発機構・幌延深地層研究センター

実物大の人工バリア模型

出典:全国シンポジウム「いま改めて考えよう地層処分~科学的特性マップの提示に向けて~」説明用参考資料

出典:NUMO「知ってほしい今、地層処分」をもとに作成

地下350メートルの世界へ

地下350メートル地点の調査坑道には、専用のエレベーターで約4分かけて降りていきます。坑道の全周は約750メートル。
地下施設での研究開発について、JAEAは北海道および幌延町と「放射性廃棄物を持ち込まない、使用しない」ことを約束する協定を結んでいます。

人工バリアの性能を確認する試験では、ガラス固化体の代わりにヒーターを内蔵した実物大の模擬オーバーパックと緩衝材、各種センサーを設置した上で坑道を埋め戻し、オーバーパックの表面温度を100℃程度まで上げて、地下水を送り込みながら人工バリアや周辺岩盤の変化を観測しています。
ほかにも模擬オーバーパックを地層に埋設し、オーバーパックの候補材料である炭素鋼の腐食状況を観測しています。地下深い場所では金属の腐食がゆっくり進むことを、腐食量の分析などから明らかにしていく試験も実施されています。

各所に大がかりな試験装置が配置された調査坑道の様子に、益子さんは驚きの表情。また、500万年前の地層を露出させたトンネルの壁面に手を触れながら、地層の歴史や地下水・地震の影響などについて質問していました。

  • 地下350メートルまで降下するエレベーター

  • 調査坑道で人工バリア性能確認試験やオーバーパック腐食試験の説明を受ける益子さん

視察を終えて

益子:フィンランドなど海外でも地層処分計画がありますが、やはり廃棄物は地下に処分するのがいいのですか。

若杉:地層処分のほかにも海洋底処分、氷床処分などが検討されましたが、国際条約で禁止されています。宇宙処分というものも検討されたんですよ(図5)

益子:宇宙に飛ばしてしまうのですか?!

若杉:ただ宇宙処分は、打ち上げる際のリスクやコストを考えると現実的ではありません。人間の生活環境から隔離するため、地下環境の閉じ込め機能を適切に活用する地層処分が、最も実現性の高い処分方法であると国際的に広く認識されています。

益子:地下水に乗って廃棄物が海に流れ出る心配や、地震の影響はないのですか。

若杉:たとえば、この研究センターがあるところは、大昔は海で、地盤を掘ると塩水が出ます。これは「化石海水」と呼ばれ数百万年前のものであることが分かっており、長い間水が動いていないことを示しています。
地層処分では、このような岩盤が持つ「ものを閉じ込める機能」(天然バリア)に加え、人工バリアを施すことにより、廃棄物が人間の生活圏に影響を及ぼさないようにします。地震についても、地下は地上のように大きな揺れはなく、影響はほとんどないといえます。

益子:事業の期間が長くて実感がわかない人も多いと思います。

若杉:高レベル放射性廃棄物はガラス固化体として地層処分しますが、深い地層の中で発見された大昔の生物の骨や貝殻の化石は、ガラスよりも水に溶けやすいにもかかわらず、溶けずに残っています。こうした自然の現象を詳しく調べて、長期間にわたって安全性が確保できることを分かりやすく伝える研究も進めています。

益子:地層の歴史を見ても、地下は廃棄物を処分するのに適した場所なんですね。私たちは普段何気なく電気を使っていますが、廃棄物が出て、処分に大変な作業や時間が必要なことを、まずは知ることが大切ですね。

出典:NUMO「知ってほしい今、地層処分」をもとに作成