SPECIAL
ISSUE

2017.03

福島第一原子力発電所の現状

福島第一原子力発電所の事故により、広く社会の皆さまに、今なお、多大なご迷惑とご心配、ご負担をおかけしておりますことを、心よりおわび申し上げます。3月11日で東日本大震災から6年を迎える福島の現状をお知らせいたします。

廃炉作業の工程

東京電力ホールディングス(HD)福島第一原子力発電所は、東北地方太平洋沖地震に伴う津波により、建物や設備が大きな被害を受けました。電源が喪失したことで冷却機能が停止し、水素爆発や燃料溶融などの事故が起きたプラントでは、現在、廃炉に向けた作業が続けられています。
政府が2011年12月に策定した「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(13年6月、 15年6月に改訂)では、今後30~40年に及ぶ廃炉作業の目標工程が示されました。ロードマップに沿って、廃炉の主要な工程となる燃料(使用済燃料や燃料デブリ※)の取り出しが本格化されます。

※原子燃料や燃料被覆管、原子炉構造物などが溶け落ち冷えて固まったもの

燃料の取り出し作業などの状況

現在は各号機とも安定冷却を続けています。

1号機

放射性物質の飛散を抑制する目的で設置していた原子炉建屋カバーの取り外しが2016年11月に完了し、燃料取り出しに向けて準備を進めています。

2号機

事故当時、1号機の水素爆発の衝撃で原子炉建屋上部側面のパネルが開き、水素が外部へ排出されたため、建屋は爆発しませんでした。現在はパネルを閉じて放射性物質の飛散を抑制しており、燃料取り出しに向けて原子炉建屋上部の解体準備を進めています。

3号機

燃料取り出しに向け、使用済燃料プールの中の大型がれきの撤去が完了。現在は、燃料取り出し用カバーの設置作業を開始しました。

4号機

使用済燃料プールからの燃料取り出しが2014年12月に完了したことにより、安全性が確保され、原子燃料によるリスクがなくなりました。

また2号機では16年3月、宇宙から飛来する素粒子「ミューオン」を用いて、原子炉圧力容器内部を透視し、燃料デブリの位置を把握するための調査が行われました。1~3号機では、廃炉作業の重要な工程である燃料デブリの取り出しに向けて、ロボットによる原子炉格納容器の内部の撮影や放射線量の調査などを進めています。

1号機建屋カバーの取り外しが完了

3号機に取り付けられる予定の燃料取り出し用カバー

放射線量の低減と労働環境の改善

中長期に及ぶ廃炉プロジェクトには、1日に約6千人の作業員が携わっており、作業員の安全確保とより良い労働環境の整備は、プロジェクトの成功に不可欠です。
作業者の被ばく低減策としては、敷地内の土が露出した場所を舗装するフェーシング工事などが放射線量の低減に効果を上げており、全面マスク着用が不要なエリアは構内の90%まで拡大。入退域管理施設から各企業棟までも、一般作業服で移動できるようになりました。(写真①)
また、社員が執務に当たる新事務本館や約1200人が利用可能な大型休憩所が開設され、コンビニエンスストアもオープン。休憩所や事務棟には、福島給食センター(大熊町)から毎日、福島県産の食材も使用した温かい食事が提供されています(写真②)。
このほか、体験型安全教育施設を活用した新規入所者への安全訓練(写真③)なども実施されています。

①一般作業服での移動(敷地内)

②福島県産の食材も使った食事風景(休憩所)

③安全訓練で労働災害の防止に取り組む

汚染水対策

発電所では事故以降、山側から流れてくる地下水のうち、1日当たり約400トンが原子炉建屋に流れ込み、燃料を冷やした水と混ざって新たな汚染水となっていました。このため、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」という3つの方針に基づいた対策が講じられています。

タンクにためていた高濃度汚染水については、多核種除去設備(ALPS)などを使って浄化処理を進め、15年5月までに全量の浄化を完了したほか、同年12月には4号機の海水配管トレンチ(地下トンネル)内の汚染水の抜き取りおよびセメント充填も完了しました。
また、地下水が原子炉建屋に流入する前に山側で地下水を汲み上げる地下水バイパスや、建屋を囲むように土の中に氷の壁を作る陸側遮水壁の設置などにより、地下水の流入量は100~200トン程度まで減少しています。
このほか、建屋近くのサブドレン(井戸)を使って汚染前の地下水や汚染水を汲み上げる取り組みも行われているほか、汚染水を海に流出させないため、岸壁に海側遮水壁も設置されています。

汚染水を貯蔵するタンクは、鋼板をボルトでつなぎ合わせたフランジ型の構造から、漏えいの心配が少なく、より信頼性の高い溶接型へと切り替えが進められています。
さらに構内では、植え込みや樹木を伐採し、土が露出した傾斜地などを除染した後、モルタルを吹き付ける「フェーシング(舗装)」と呼ばれる工事を敷地の大半の部分で実施済みです。雨水が地下に染み込むことを防ぎ、原子炉建屋へ地下水として流れ込む水量を減らしたことで、汚染水の発生量抑制につながりました。また、フェーシング工事を行った場所では空間放射線量が低減しており、現場で働く人たちの作業環境の改善にも役立っています。

写真提供:東京電力HD

福島復興のいまとこれから

福島復興への取り組み

福島県では、原子力災害に伴う避難指示の解除が段階的に進められていますが、震災から6年が経過する現在も、多くの方々が県内外で避難生活を余儀なくされています。政府は早期の避難指示解除、住民の帰還を実現するため復旧・復興を加速する方針を示しており、帰還に向けた環境整備が進められます。

イノベーション・コースト構想始動

県沿岸部の浜通り地域では、震災と原子力事故で失われた産業や雇用の新たな創出を目指して、「イノベーション・コースト(福島・国際研究産業都市)構想」が進行中です。廃炉やロボット関連技術の研究、エネルギー関連産業の集積、農林水産業における先端技術の活用などを通じて、地域の再生に取り組んでいます。
廃炉を推進するための研究施設として、 16年4月にロボットなどの遠隔操作機器・装置の開発・実証試験を行う日本原子力研究開発機構「楢葉遠隔技術開発センター」の本格運用が開始されたほか、国内外の産学官が一体となって廃炉研究や人材育成に取り組む「廃炉国際共同研究センター 国際共同研究棟」(富岡町)などの整備も進められており、今後国内はもとより海外の原子力発電所で実施される廃炉事業への活用が期待されます。
東北電力は17年1月、浪江・小高原子力発電所の建設を予定していた用地のうち、浪江町側の土地を同町に無償譲渡することを決めました。町はこの土地を復興の基盤になる土地として有効に活用していく考えです。
また、経済振興・雇用創出とともに福島がクリーンコールテクノロジーの拠点になることを世界にアピールすべく、最新鋭の石炭ガス化複合発電(IGCC)設備を県内2地点(広野町、いわき市)に建設するプロジェクトも進んでいます。16年10月には東京電力HDやメーカーなど5社が事業会社を立ち上げました。福島を拠点に、高効率発電技術を世界へ発信していきます。建設最盛期には1日当たり約2千人の雇用など、経済波及効果が見込まれています。

楢葉遠隔技術開発センター(楢葉町)
写真提供:日本原子力研究開発機構

楢葉遠隔技術開発センターで開催された第1回廃炉創造
ロボコン(2016年12月)
写真提供:電気新聞

県産品を企業が応援

農林水産業の分野では、農林地の徹底した除染による再生や、生産・流通といった各段階における食品の放射性物質検査など安全確保の取り組みが行われています。
14年には福島で廃炉作業などに携わる多くの企業が協力し、「ふくしま応援企業ネットワーク」を設立(17年1月現在33社)。福島県産品の安全性に関する理解と購入の促進、観光振興などの活動を続けています。
また、震災以降、東京電力HDが事故対応拠点としていた「Jヴィレッジ」(広野町、楢葉町)が福島県に返還されることになり、復興・再整備が進められます。新生Jヴィレッジは、全天候型練習場やコンベンション機能を備えた新しい宿泊棟などを整備。18年夏の一部営業再開、19年4月の全面再開を予定しています。 2020年の東京五輪・パラリンピックのサッカー男女日本代表の合宿地にも決定し、福島復興のシンボルとして再整備を急いでいます。

広野IGCCの完成予想図
画像提供:東京電力HD

新生Jヴィレッジ(施設再整備後のイメージ)
画像提供:福島県エネルギー課

東京電力HDの復興推進活動

東京電力HDは、福島復興本社(富岡町)を中心に、地域のニーズを積極的に伺いながら様々な復興関連業務に取り組んでおり、一時帰宅対応や家屋などの清掃・除草、地域イベントの運営補助などに社員が携わっています(16年12月末時点で活動社員数延べ約31万人)。各市町村において避難指示が解除されていく中、15年からは車で巡回しながら地域のニーズを聞き取り、家屋の清掃などのお手伝いを行う「見回り活動」などを実施し、避難生活を続ける方々の帰還準備をサポートしています。
国や市町村が進める除染活動にも、すでに延べ20万人を超える社員が従事。放射線量の推移状況を把握するための継続的な放射線モニタリングも実施しています。

清掃活動に取り組む東京電力社員
写真提供:東京電力HD

早期帰還の実現へ除染などの活動を推進
写真提供:東京電力HD