FOCUS

2016.7

綿密な調査をもとに原子力発電所の耐震安全性の確保に取り組んでいます

地震が多い日本において原子力発電所を建設する際には、事前に活断層などについて綿密な調査を行い、考えられる最大の地震の揺れ(基準地震動)に対して原子力発電所の安全機能が損なわれないように設計します。この基準地震動は、それぞれの原子力発電所の敷地周辺および敷地内の地質構造や地震の活動性などを詳細に調査したうえで策定されます。

図1:基準地震動の策定の流れ

敷地周辺および敷地内の地質構造などについて徹底した調査を行います

原子力発電所を建設するにあたっては、事前に敷地周辺および敷地内において詳細な調査を行います。(図1の1)

敷地周辺

敷地周辺の地質調査の目的は、発電所の周辺で大きな地震を起こす可能性がある活断層を把握することです。このために、例えば次のような調査を実施します。

●文献・航空写真による調査

広い範囲において、文献や航空写真をもとに地形や地質構造を調査します。

●地表地質調査

文献・航空写真による調査の結果をもとに、断層の活動性や長さなどについて詳細な現地調査を行います。

●トレンチ調査

地表地質調査の結果、さらに活断層の過去の活動を詳しく知る必要がある場合には、大きな溝(トレンチ)を掘り、断層を含む地層を露出させて詳しく調査します。

●反射法地震探査

敷地に近い陸域において、人工の地震波を発生させ、地下からの反射波を受信して地下構造を把握します。(図2)

●音波探査

敷地に近い海域において、船から海底に向けて音波を発信し、その反射波を利用して海底の地形を把握します。

図2:反射法地震調査

敷地内

敷地内の地質調査の目的は、活断層の有無を確認することと、実際に地震が起きた際の発電所の揺れ方を把握するために地質構造や岩盤の性質を明らかにすることです。このために、例えば次のような調査を行い、地質構造を極めて詳細に把握します。

○ボーリング調査

複数の場所でボーリングを行い、採取した試料の観察や性質の計測により、地質の状況を詳しく調査します。

○試掘抗調査

原子炉がある建屋の直下の基礎地盤にトンネルを掘り、基礎地盤中の断層の分布を詳細に把握します。

○トレンチ調査

断層が最後に活動した時期を把握するために、地表に大きな溝(トレンチ)を掘って断層を直接観察します。(写真1)

写真1:トレンチ調査
(関西電力 大飯発電所)

様々な地震を想定し基準地震動を策定しています

基準地震動の策定にあたっては、敷地周辺および敷地内の調査結果から、原子力発電所に大きな影響を及ぼす可能性がある複数の地震を検討用に選定し、これを基に地震動を割り出します。これを「震源を特定して策定する地震動」と呼びます。(図1の2)
一方、過去には、調査によっても震源を事前に特定できない地震も発生しています。このことから、検討過程では、「震源を特定せず策定する地震動」も評価に取り入れます。(図1の3)
地震動を評価する際には、検討用に選定した地震それぞれについて、構造物ごとにどのくらい揺れるのかをグラフにして把握します。さらに、複数の断層が同時に動いた場合なども考慮し、より安全側の視点に立って地震動の評価を実施します。(図1の4)
このような複数の調査・検討を経て、原子力発電所の基準地震動が決定されます。(図1の5)

最大クラスの揺れが起きても安全上重要な施設の安全は確保されます

策定された基準地震動をもとに、原子力発電所では各種の建物や設備について、厳密な耐震設計が行われます。
とりわけ原子炉格納容器や非常用発電機などの安全上重要な機器などについては、「止める」「冷やす」「閉じ込める」などの基本機能が維持されるよう、十分に余裕を持って設計されており、仮に基準地震動で想定するような最大クラスの地震が起きたとしても、破損するようなことはありません。
私ども原子力事業者(電力9社、日本原子力発電、電源開発)は、福島第一原子力発電所の事故を受け、新たな知見を反映させて、改めて敷地周辺および敷地内の詳細な地質調査を行い、必要な場合には基準地震動の見直しを行うほか、施設の耐震性向上工事などを進めています。(写真2)
今後も最高水準の安全性確保を目指し、継続的に安全性向上対策に取り組んでまいります。

写真2:サポート改造工事(中部電力 浜岡原子力発電所)

基準地震動の単位「ガル」について

基準地震動や耐震性の評価では、地震の揺れを表す単位として「ガル」が用いられます。「ガル」は、地震によって生じる瞬間的な揺れの大きさを加速度で表したもので、速度が1秒ごとに秒速1cmずつ速くなる加速状態を1ガルといいます。原子力発電所の耐震設計では、人体の感覚や被害の程度を通じて揺れの強さを表す「震度」ではなく、物理的な揺れの大きさを示す単位の「ガル」を用います。こうして建物や設備ごとにどのような力がかかるかを解析し、十分な耐震性があることを確かめています。

熊本地震の停電復旧における電力各社の応援状況について

高圧発電機110台、高所作業車67台、延べ1887名の作業要員を派遣

先の熊本地震では、熊本・阿蘇地方を中心に多くの方々が被災され、地域の生活を支える重要なライフラインである電力設備も大きな被害を受けました。4月14日の前震発生直後から、九州電力では設備の早期復旧に向けて懸命に作業に取り組んでいましたが、16日の本震発生により最大約47万7千戸のお客さまが停電するなど、停電の規模が甚大かつ広域に及びました。
電力各社は、九州電力からの応援要請を受けて、作業車両や復旧要員などを現地へ順次派遣し、九州電力の指揮のもと停電の早期復旧に取り組みました。電力9 社から、高圧発電機車110台、高所作業車67台、延べ1887名の作業要員が応援に駆けつけました。この結果、本震発生からおよそ4日後の20日夕刻には高圧配電線への送電を完了し、がけ崩れや道路の損壊などで作業が困難な箇所を除いて、停電復旧を果たすことができました。
今年4月に電力の小売り全面自由化がスタートし、電力各社は競争市場でライバルとして切磋琢磨しています。一方、今回の熊本地震の応援では、自然災害に伴う停電といった厳しい環境の中で、安定供給という各社に共通する使命の下で一致団結しました。今後とも「お客さまに一刻も早く電気をお届けしたい」という電力会社社員のスピリッツは継承しながら、市場ではよきライバルとして、「競争と協調」の両立にしっかりと取り組んでまいります。