FOCUS

2017.01

「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」において、中間とりまとめが示されました

2016 年12月、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」において、自由化の下での公益的課題への対応と競争活性化の方策について、中間とりまとめが示されました。 今後は、容量市場やベースロード電源市場といった各種市場の創設に向けた具体的な検討がはじまります。
私どもとしては、既に導入されている市場取引なども含め、トータルとして我が国の安定供給を確かなものとするための市場整備がなされるよう、そして、真にお客さまの利益につながるものとなるよう、引き続き、実務に携わる立場から検討に積極的に参加してまいります。

電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめの概要

1.更なる競争活性化

①ベースロード電源市場の創設

  • 新電力によるベースロード電源(石炭火力、大型水力、原子力等)へのアクセスを容易にするための市場を創設するとともに、大手電力会社が保有する同電源を市場供出させることを制度的に求め、更なる競争活性化を促す

②連系線利用ルールの見直し(間接オークションの導入)

  • 地域を跨ぐ送電線(連系線)の利用ルールを、現行の先着優先から、コストの安い電源順に利用することを可能とする間接オークション方式に改めることで、広域メリットオーダーの達成と競争活性化を促す

2.自由化の下での公益的課題への対応

環境・再エネ導入・安定供給

①容量メカニズムの導入

  • 卸電力取引の活性化、再エネの導入拡大下においても、中長期的に必要な供給力・調整力を確保するための仕組みを導入

②非化石価値取引市場の創設

  • 高度化法による目標(非化石電源比率44%)達成と、FITの国民負担軽減に資するため、小売事業者が非化石価値を調達できる市場を創設
廃炉・賠償、安全・防災等

①自由化の下での財務・会計に関する措置

  • 原子力事故の賠償の準備不足分を公平に回収
  • 福島第一原子力発電所廃炉のための「管理型積立金制度」を創設
  • 依存度低減・廃炉の円滑な実施のための廃炉会計制度を維持するため、託送料金の仕組みを利用

②自主安全・防災連携の加速

  • 継続的な原子力の安全性向上のための自律的システムの確立に向けた取組

〈出典〉電力システム改革貫徹のための政策小委員会中間とりまとめをもとに作成

スイスの現実的な選択:脱原子力に期限限らず

海外電力調査会 調査部門
編集局長
東海 邦博

〈出典〉IEA「Electricity Information 2016」をもとに作成

ドイツが取り上げられることが多いためか、欧州全体が一斉に脱原子力に向かっているように誤解されていないだろうか。確かにドイツのように明確に期限を決めて脱原子力に向かっている国もある。しかし、欧州の原子力発電国の大半は、今後も原子力発電を継続する方向である。また脱原子力でも運転期限を切らない国もある。

そのような国の一つがスイスである。2016年11月の国民投票で、45年に運転期間を限定する国民発議が反対54%、賛成46%で否決された。これで新規建設はできないものの、これまで通り既設は期限なしで運転可能となる。

なぜ、スイスは期限を切らないのか。「運転期間を45年に限定した場合、2017年中に3基閉鎖され、電力供給の10%以上が急激に失われる。これを直ちに他の電源で代替することは不可能であり、独仏など隣国からの電力輸入に頼ることになる。徐々に脱原子力を進める方が電力供給に支障がない」と政府は説明する。

スイスは大国の狭間にあって永世中立国として、その独立をいかに確保するか、長年、腐心してきた。化石燃料資源が乏しいことから、電力供給においても自立を目指した体制作りに努めてきた。豊富な水資源を利用した水力と原子力の開発を進め、2014年時点で電力供給の55%を水力、また38%を原子力(5基350万kW)で賄う。今回の国民投票結果は、この原子力発電を、安全に万全を期しながらも、その能力を十全に活かしていこうという、国民の現実的な判断の表れと言えよう。

また、欧州では二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス削減が至上命令で、各国はCO2排出ゼロ電源の確保が必須である。スイスのように、水力と原子力で90%以上を占め、発電でほぼCO2排出ゼロをすでに達成している国にとって、風力などの再生可能エネルギー電源が十分入らないうちに原子力を止めることはCO2排出増につながる。

実際、スイス同様、水力と原子力で90%近くを占めるスウェーデンも、2015年に脱原子力に回帰したものの、CO2削減、電力需給逼迫の懸念から、既設の建て替えに限り新設を認めるとともに、既設には運転期間を設けないことに政策変更した。福島事故から5年、欧州では現実的に原子力を考える姿勢が回復されつつあるようだ。