FOCUS1

2018.11

電力インフラの強靭性確保へ
今後検討すべき対策が示されました

電力インフラの強靭化(レジリエンス)について検討していた国の専門家会合は11月、中間取りまとめを公表しました。今夏に発生した自然災害により、広範囲で長時間にわたる停電が発生したことを受け、電力インフラの総点検結果を公表するとともに、レジリエンス確保に向けた検討課題や対策が示されました。

全国の電力設備を総点検

今年の夏以降、「平成30年7月豪雨」や「台風21号・24号」、「北海道胆振東部地震」と災害が発生し、各地で大規模停電が発生するなど電力供給に被害をもたらしました。北海道ではエリア全域が停電する「ブラックアウト」が発生し、お客さまに大変なご不便をおかけしました。

これを契機として、電力インフラにおけるレジリエンスの重要性やあり方、一連の災害から得られた反省と教訓を最大限生かし対策を取りまとめることを目的に、国は「電力レジリエンスワーキンググループ」を10月に設置。11月14日の会合で、全国の電力インフラを対象に実施した総点検の結果や、レジリエンス確保に向けて今後取り組むべき対策の中間取りまとめが行われました。

中間報告では、北海道電力の設備形成や運用に不適切な点はなかったことが確認された一方で、冬季に高需要期を迎えることも見据え、北海道エリアにおけるブラックアウトの再発防止対策が取りまとめられ、可能な限り早期に取り組むこととされました。電力インフラ総点検に関しては、火力発電設備や送電・配電・変電設備などについて設備機能に重大な支障が発生しない設計であることや、設備の健全性に問題がないことが確認されました。さらに、ネットワーク全体の総点検結果としては、北海道全域の大規模停電(ブラックアウト)が周波数低下によって発生したことに鑑み、年間を通じた最も過酷な状況で最大の発電所が脱落した場合および重要送電線において今般の事案と同様の事象によって4回線の事故が同時に発生した場合を検証し、東日本エリア(東北・東京)、西日本エリア(中部・北陸・関西・中国・四国・九州)、沖縄エリアの各エリアで、必要に応じて運用対策などを講じることにより、ブラックアウトには至らないことが確認されました。

「緊急対策」と「中期対策」

ワーキンググループでは、電力レジリエンスの総点検結果を踏まえ、ブラックアウトなどを最大限回避する「防災」の観点や、停電の早期復旧やお客さまへの迅速かつ正確な情報発信などの「減災」の観点から、即座に実行に着手する「緊急対策」と、即座に検討に着手する「中期対策」について、中間取りまとめが行われています。

電気事業者は、「緊急対策」として自発的な他の電力会社の応援派遣による初動迅速化など、停電の早期復旧に向けた取り組みを進めるとともに、TwitterなどのSNSやラジオをはじめとする多様な情報伝達経路の活用などを通じて、お客さまへの迅速かつ正確な情報提供に努めてまいります。

また、「中期対策」における防災対策としては、ブラックアウトの再発防止策として北本連系設備のさらなる増強の検討に着手するなどを行います。また、大規模停電を回避し、早期の需給安定化に必要な対応力・供給力を手当てするため、電源への投資回収を促す仕組みを整備する必要性が示されています。具体的には調整力公募の必要量の見直しに加え、現在検討中の容量市場の早期開設や取引される供給力の範囲拡大などを含めて検討していくことになりました。さらに、レジリエンスと再生可能エネルギーの拡大の両立に資する地域間連系設備などの増強・活用拡大策などの検討や、それらを両立させる費用負担方式やネットワーク投資の確保のあり方(託送制度改革含む)についても、政府が検討に着手することになりました。こうしたことを踏まえ、電力インフラのレジリエンス強化を図るため、今回、合理的な国民負担のあり方なども検討課題として掲げています。

このほか、「中期対策」における減災対策として、電気事業者のHP上の停電情報システムを分かりやすく詳細にすることを検討してまいります。

私ども電気事業者といたしましては、今夏の自然災害の教訓を電力業界全体でしっかりと活かしながら、お客さまに安定した電気をお届けできるよう、全力で取り組んでまいります。

※容量市場:
容量市場とは、電気を供給する能力(kW価値)を取引する市場。国全体での中長期的な供給力の確保のため、発電事業者の投資の予見性を高め適切な発電投資を促すことを目的とし、広域機関が国全体で必要となる電気の供給能力を募集し、落札した発電事業者にその対価を支払う仕組み。

中間とりまとめの主なポイント

台風21・24号、北海道胆振東部地震に伴う停電と
電力各社の復旧作業の取り組み

9月に相次いで発生した台風と地震に伴い、近畿・東海・北海道を中心に電力設備が大きな被害を受け、広い地域で停電が発生しました。電気事業者は、お客さまにより安心して電気をお使いいただくため、今回の自然災害による被害を教訓として、各社の協力体制を含めて、災害発生時の迅速な復旧作業と安定的な設備運用に備えてまいります。

台風21号により近畿・東海地方で停電発生

9月4日には、台風21号が兵庫県洲本市付近に上陸し、強い勢力を保ったまま日本列島を縦断。近畿・東海地方を中心に暴風雨の影響で電力設備が大きな被害を受け、中部電力エリアで延べ約85万戸、特に被害が大きかった関西電力エリアでは延べ約220万戸と、1995年の阪神・淡路大震災による延べ約260万戸に迫る規模の停電となりました。

電力各社は、停電の発生直後から復旧作業に取り組み、中部電力エリアの停電は9月11日までにすべて解消。一方、関西電力はグループ会社を含めて最大約1万2千人態勢を構築。グループと他電力の応援部隊が連携して復旧作業に当たり、結果、9月8日には都市部を中心に停電の大部分が解消され、9月20日までには、すべての停電が解消されました。

関西電力では、今回の台風21号による被害を教訓としていくため、社内に検証委員会を設置。停電の早期復旧やお客さま対応、自治体との連携などについて検証を行うことで、迅速な設備復旧や情報公開の進め方、停電発生直後の初動対応など、非常災害時の対応を充実させていく方針です。

  • 関西電力への応援状況(10月19日 現在)

    関西電力への応援状況(10月19日 現在)

  • 中国電力による支援の様子

    中国電力による支援の様子 提供:中国電力

  • 四国電力による支援の様子

    四国電力による支援の様子 提供:四国電力

  • 北陸電力の応援班受入の様子

    北陸電力の応援班受入の様子 提供:北陸電力

台風24号による被害への中部電力の対応と電力各社の支援

9月下旬には、強い風雨を伴う台風24号が日本列島を縦断し、各地に大きな被害を及ぼしました。この台風の影響により、全国で延べ465万5000戸の停電が発生。中でも中部電力エリアでは、延べ停電戸数は119万戸に上るなど、平成以降の30年間で過去最大の被害規模となりました。

中部電力では、グループ会社を含めて最大約8200人態勢で復旧作業を実施。グループと他電力の応援部隊が連携し、総力を挙げて早期復旧に取り組んだ結果、10月6日にはすべての停電が解消されました。

中部電力は、社内に検証委員会を設置し、速やかに今後の対応について検討していくこととしています。

  • 中部電力への応援状況(10月19日現在)

    中部電力への応援状況(10月19日 現在)

  • 飛来物を除去する中部電力作業員

    飛来物を除去する中部電力作業員 提供:電気新聞

地滑りにより鉄塔が倒壊した現場での復旧工事(北海道むかわ町)

地滑りにより鉄塔が倒壊した現場での復旧工事(北海道むかわ町) 提供:電気新聞

北海道で最大震度7の地震
エリア全域に及ぶ停電が発生

9月6日未明、北海道厚真町で最大震度7を記録した「平成30年北海道胆振東部地震」が発生しました。この地震の影響で、北海道電力の主力電源である苫東厚真発電所1、2、4号機(石炭火力、合計出力165万kW)が緊急停止。最終的には北海道エリアにあるすべての電源が停止したことにより、離島を除く北海道全域で約295万戸のお客さまが停電する事態となりました。

北海道電力では、地震発生直後から、停止した水力発電所、火力発電所の緊急点検を進め、設備の健全性が確認できた発電所から順次起動させて電力供給を再開。また、停電の早期解消に向けて、供給力確保を進めるとともに、被災した送配電設備の復旧作業などに全社を挙げた取り組みを進めました。

また、地震発生当日から、全国の電力8社(東北、東京、中部、北陸、四国、中国、九州、沖縄)が、順次現地の復旧応援に向かいました。各社からは、高圧発電機車151台、高所作業車やタンクローリーなどその他車両217台、作業員延べ1706人の規模の応援派遣があり、北海道電力と協力しながら電力供給に取り組みました。

これに加えて、北海道と本州を結ぶ「北本連系設備」については、地震発生直後には電力のやり取りができない状況が続いていましたが、9月7日から稼働を本格的に再開。本州から最大60万kWの応援融通を実施しました。また、北海道のお客さまに節電へのご協力をお願いするとともに、発電機車の活用を継続することなどにより、9月8日までに土砂崩れなどで立ち入りできない一部の地域を除いて、北海道全域で送電を再開しました。

  • 東京電力の応援派遣(発電機車による送電)

    東京電力の応援派遣(発電機車による送電) 提供:東京電力

  • 新門司港から派遣される九州電力の発電機車

    新門司港から派遣される九州電力の発電機車 提供:九州電力

  • 東北電力の応援派遣(発電機車による送電)

    東北電力の応援派遣(発電機車による送電) 提供:電気新聞

  • 苫小牧エリアで活躍する中部電力の発電機車

    苫小牧エリアで活躍する中部電力の発電機車 提供:北海道電力

  • 小樽変電所で現地確認を行う沖縄電力の応援部隊

    小樽変電所で現地確認を行う沖縄電力の応援部隊 提供:北海道電力

一方、運転を停止している泊発電所(原子力)が立地する泊村では、今回の地震により震度2の揺れが観測されました。泊発電所では、全域停電によって外部電源が一時的に喪失したものの、設計通り非常用ディーゼル発電機(全6台)が起動し、使用済燃料などの冷却は継続されました。

冬場の需要ピークへ供給力確保に全力

地震による損傷で停止していた主力電源の苫東厚真発電所については、9月19日に1号機(35万kW)、同月25日に4号機(70万kW)、10月10日に2号機(60万kW)が復旧。現在、供給力は十分な状態です。しかし、北海道の電力需要のピークは冬であり、北海道電力では、設備の保守・点検の強化や各種需給対策に取り組むとともに、2019年2月に営業運転開始を予定する石狩湾新港発電所1号機(LNG火力、56.94万kW)の総合試運転工程の前倒しを進め、緊急時の供給力として活用できるよう努めています。また、万一、大規模な計画外停止が発生した場合のさらなる備えとして、追加的な需給対策の検討を進め、北海道における電力の安定供給が万全なものとなるよう総力を挙げて取り組んでいます。

私ども電気事業者といたしましては、「電力の安定供給」が最大の使命であることに、些かも変わりはありません。停電復旧のさらなる早期化を図るため、資機材や対応要員に関する、より迅速な応援体制の構築に向けた検討を進めるなど、今夏の自然災害の教訓を電力業界全体でしっかりと活かしながら、お客さまに電気を安定してお届けできるよう、全力で取り組んでまいります。

北海道全域停電の原因と再発防止策 第三者検証委員会が中間報告を公表

電力広域的運営推進機関(広域機関)の検証委員会は10月23日、北海道で起きたエリア全域の大規模停電(ブラックアウト)に関する中間報告として、発生原因の検証結果と再発防止策を公表しました。

検証委は全域停電の原因について、大型火力の苫東厚真発電所1、2、4号機が停止したことに加え、地震によって主要な送電線で事故が起き、道東エリアにある多くの水力発電所が停止する「複合要因」で発生したものと総括しました。

電気は需要と供給を常に一致させることで安定供給を維持しています。需給バランスが崩れて電力系統の周波数が乱れると、発電所が次々と停止して大規模停電につながります。北海道電力は地震直後、発電所の出力調整や、最終手段である負荷遮断(緊急時のお客さまへの供給停止)を行って周波数を安定させ、需給バランスを維持しようとしましたが、急激な周波数変動に対応が追い付かず、離島を除く北海道内の全ての電力供給がストップしました。

検証では、北海道電力の対応に加え、北海道と本州を結ぶ北本連系設備の緊急融通が機能し、周波数が一時安定したことも分かりました。北本連系設備は地震直後、北海道の需給を支える供給力として、本州から最大送電量(60万kW)で電気を送り続けました。ブラックアウト直前まで送電を続けましたが、すでに送電量が上限に達していたため、道内の発電所が停止していく中で、周波数維持に必要な電気をそれ以上供給できない(需給調整機能を発揮できない)状況だったことも明らかになっています。

検証委では検証結果から、北海道電力の設備形成や運用に不適切な点はなかったとの評価を示しました。一方、ブラックアウトの社会的影響の大きさを踏まえ、大型火力の停止や送電線事故が重なっても、揚水発電所の京極発電所1、2号機が緊急起動できればブラックアウトは回避できていたとして、当面の再発防止策をまとめています。

当面の主な再発防止策