原子力発電所のさらなる安全性向上を目指して 新たな規制基準と電力会社の取り組みをご紹介します

特別号2013 vol.03

東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓や海外の知見などを反映するため、原子力規制委員会による原子力発電所の新しい規制基準が7月8日に施行されました。従来の安全基準が強化されるとともに、新たにシビアアクシデント(過酷事故)対策が盛り込まれています。

福島第一原子力発電所事故の教訓

今回の事故では、地震に対しては原子炉は正常に自動停止し、非常用ディーゼル発電機も正常に起動しました。しかし、その後に襲来した津波により非常用ディーゼル発電機、配電盤、バッテリーなどの重要な設備が被害を受け、非常用を含めたすべての電源が使用できなくなり、原子炉を冷却する機能を喪失しました。この結果、炉心溶融とそれに続く水素爆発による原子炉建屋の破損などにつながり、環境への重大な放射性物質の放出に至りました。
こうした事故の検証を通じて得られた教訓が、新たな規制基準に反映されています。地震や津波への対策が強化され、炉心損傷や格納容器破損の防止、放射性物質の拡散抑制などを踏まえた対策が求められています。
さらに、新たな規制基準は火山や竜巻などの自然災害、火災などの幅広いリスクに備えるため、設計基準を強化することを要求しています。また、海外の知見をもとに、テロ対策などを求めています。

福島第一事故の進展を踏まえた新規制基準の対策
  • 出典:原子力規制委員会資料より作成
  • ※1「状態把握・プラント管理機能の強化」は、緊急時の通信手段の確保、監視用計器の直流電源の強化をはじめ、がれき除去を行う重機や高線量下に備えた防護服の配備、放射線管理体制の整備のほか、シビアアクシデント時の指揮所となる緊急時対策所、テロなどを想定した特定重大事故等対処施設の整備が含まれます。シビアアクシデントに備える訓練の継続的な実施も対象となります。
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新たな規制基準とは?

新たな規制基準は、今回の事故の教訓などを踏まえ、従来の安全基準を強化するとともに、新たにシビアアクシデント対策が盛り込まれました。設計基準の強化と、そうした設計の想定を超える事象にも対応するシビアアクシデント対策の二本柱で構成されています。

新規制基準のイメージ

シビアアクシデント対策の新設

従来、事業者の自主保安として実施していたシビアアクシデント対策が規制対象となりました。設計想定を超える事象を対象に、複数の機器の故障を想定した炉心損傷防止対策、格納容器破損防止対策を求めています。また格納容器が破損した場合なども想定した放射性物質の拡散抑制、使用済燃料貯蔵プールの冷却の対策も要求しています。意図的な航空機衝突などのテロを想定して、既存の制御室が使用できない場合に備えた特定重大事故等対処施設の整備も必要となります。

設計基準の強化

地震に対する基準では重要な安全機能を有する施設は活動性のある活断層の露頭(※2)がない地盤に設置することなどを要求しています。約12〜13万年前以降の活動性が明確に判断できない場合、約40万年前以降まで遡って活動性を評価することになりました。津波に対する基準では施設に最も大きな影響を与える「基準津波」の策定などを求めています。このほか、自然現象・火災などへの対応の充実、多重性・多様性・独立性を備えた信頼性のある設計や電源・冷却設備の機能強化などを求めています。

  • ※2 屋外において地層・岩石が露出していること。
  • ●新規制基準は施行後直ちに適用されますが、一部の対策は適用猶予期間が設けられました。
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新規制基準に対応し さらなる安全性向上へ

新規制基準で求められる主な対策

これまで実施してきた電源や冷却手段の確保、浸水対策に加え、新規制基準に対応するための追加的な取り組みも不可欠です。私ども電気事業者は的確に新基準に対応し、安全確保に万全を尽くしてまいります。

新規制基準で求められる主な対策のイメージ

A 地震や津波などに対する耐性強化

施設に影響を及ぼす活断層や津波などについては従来、様々な調査に基づき慎重に検討し、対策を講じてきました。新基準では活断層や地下構造の調査をあらためて求めており、必要に応じて基準地震動の見直しや耐震強化を進めています。津波についても発生場所やその高さを評価し、影響が想定される津波に対し安全上重要な機器の機能が確保されるよう対策を実施しています。また、防潮壁・防潮堤の設置、扉の水密化などを行っています。

地震対策 津波対策

自然災害や火災への備え

地震・津波のほか、新基準では新たに火山、竜巻、森林火災などへの対策が求められます。原子力発電所の安全性に対する影響を適切に評価し、必要に応じて対策を講じます。また、所内の火災で原子炉施設の安全性が損なわれないよう、火災の発生防止、火災の感知および消火、火災の影響軽減などの防護対策を実施します。米国の規定を参考に策定された新基準を踏まえ、プラントごとの設計条件を考慮して継続的な改善を行い、火災防護の信頼性をさらに向上させます。

B 炉心損傷防止

地震や津波などで複数の冷却設備が同時に機能喪失する場合を想定し、多様な冷却手段を確保します。これにより炉心が損傷する事態を防ぐことができます。これまでに、既存の海水ポンプが使用不能となっても、すぐに代替できる大容量ポンプを配備しました。調達に時間のかかる海水ポンプモーターは予備品も確保しています。緊急時の水源もタンク、河川、ダム、貯水池など多様化を図っています。さらに、既存の海水ポンプが同時に破損しても原子炉の熱を海に逃がす手段を確保するとともに、既存のポンプの信頼性向上や、バックアップ用のポンプも追加設置します。また、既設の非常用ポンプが破損した場合に備え、可搬型ポンプなどを配備して原子炉や使用済燃料貯蔵プールの冷却を確保する対策も充実させました。

対策例

C 格納容器破損防止 D 放射性物質の拡散抑制

万一、炉心損傷が発生しても格納容器の破損や水素爆発を防止し、環境への放射性物質の放出を十分低減させる対策を講じています。
緊急時に格納容器を冷却する機能を強化しています。炉心損傷が起きた場合、格納容器下部に落下した溶融炉心を冷やす注水ラインを新たに設けます。また、シビアアクシデント時に格納容器内部の圧力を下げるため蒸気を放出し、そこから放射性物質を低減して排気する「フィルタ・ベント」を設置します。炉心損傷時に懸念される水素爆発を防ぐため、水素濃度を低減できる「静的触媒式水素再結合装置」や原子炉建屋上部から排出する設備も追加で設置します。

対策例

E 長時間の電源喪失の防止

緊急時は、プラントを安定した状態にするため、あらゆる場面で電源が必要です。地震や津波などで送電線や非常用ディーゼル発電機が同時に機能を喪失しないよう、外部電源(送電線)を2ルート以上確保しています。変圧器などの電気設備の浸水対策も講じました。常設の非常用ディーゼル発電機が機能しない事態が起きても、これをバックアップする移動可能な非常用電源(電源車など)や恒設の空冷式の非常用電源を追加します。また、発電所内のすべての交流電源が喪失した時でも、原子炉への注水制御などに使用する直流電源を長時間供給できるよう、バッテリーなどの設備強化を図ります。

対策例

さらなる安全性の向上を目指して シビアアクシデントに対応した対策

訓練の強化

ハード面の対策に加え、実際に事故が起きた場合でも整備された対策が有効に機能するよう、マニュアルを整えました。定期的な教育・訓練の実施などを通じ、緊急時に確実な対応が行えるよう、ソフト面の対策にも力を入れています。

停電状況下の弁操作訓練 電源供給訓練

新たな施設の設置

特定重大事故等対処施設

米国の対策を参考に、新たな基準では故意の航空機衝突などのテロを想定し、大規模な損壊で広範囲に設備が使えない事態でも原子炉格納容器などを冷却できる対策を求めています。このため、既存の中央制御室を代替する緊急時制御室や原子炉・格納容器への注水機能、電源設備・通信連絡などのサポート機能を備えた特定重大事故等対処施設を設置します。新基準の適用から5年後までに整備します。

緊急時対策所

新基準では現地対策本部の機能を維持する緊急時対策所が求められています。中期的には確実な指揮所機能を確保する頑健な免震重要棟が計画されています。

私ども電気事業者は、安全を大前提に安定供給、環境保全、経済性の同時達成を目指す「S+3E」を追求するため、原子力発電を今後も重要な電源として活用していくことが必要だと考えています。新たな規制基準を確実にクリアすることはもとより、たゆまぬ努力を重ね、さらなる安全性・信頼性の向上に取り組み、国内外の知見を踏まえ世界最高水準の安全性を追求していきます。

識者に聞く

絶えざる安全対策を重ね 世界最高水準の安全性追求を

工藤和彦 氏 九州大学 名誉教授 同 東アジア環境研究機構 特任教授
工藤和彦 氏 写真

─新たな規制基準の特徴は。

「福島第一の事故の教訓が今までの安全基準に反映され、耐震や津波などの対策が強化されました。自然現象への対策なども不足していると思われた部分については新たな要求が付け加えられました。さらに、従来事業者の自主的な取り組みだったシビアアクシデントの対策が盛り込まれています。海外の知見から人為的な航空機の衝突などテロに備える施設の整備のほか、サイバーテロも想定することなどが求められています」

─新たな規制基準で原子力発電所の安全性は高まりますか。

「今回の新規制基準に対応することで、原子力発電所の安全性は高まりつつあります。それは、はっきりと言えます。しかし、だからといって100%安全だと言えるものではありません。どのような対策を講じてもリスクがつきまといます。そうした『残余のリスク』があることを事業者や規制側も意識して、継続的な努力を払うことこそが必要です。絶えず安全に気を配り、行動することがあって安全文化も醸成されます」

─事業者の安全対策を、どのように評価しますか。

 「事業者は緊急安全対策をはじめ、要員・体制の強化やより実践的な訓練などさらなる安全性向上に向けた自主的な取り組みなどを行い、原子力発電所は確実に安全性が向上しています。一方、規制というものは最低限求められるものであって、それを達成さえすればよいというものではありません。事業者が世界最高水準の安全性を追求することを目指すのは規制の枠組みにとどまらず、継続的に安全性向上に取り組む意思を示したものだと思います」

─新たな規制基準の施行後の課題や期待は。

「原子力利用を図るには、事業者、規制側だけではなく、専門家を含めた第三者的な立場の人々との意見交換や議論が重要になるのではないでしょうか。事業者と規制側がコミュニケーションを活発にしながら、当事者同士だけでなく、広く社会とつながって国内外の知見を活かし、現実的・合理的にリスクを低減していくような取り組みが必要です。十分な説明とともに丁寧に理解を求めていくことが不可欠です」

─長期停止する原子力発電所の再稼働については。

「新規制基準が施行され、改められた安全の新しいモノサシで原子力発電所の安全性が評価されます。事業者は安全が確認された原子力発電所を速やかに再稼動したいということで、安全に対する絶えざる努力を重ね、基準をクリアしようとしています。規制側も合理的な審査に向けた工夫が求められます。政府は原子力のリスクだけでなく、社会の多様なリスクを総合的に考慮して判断することが国の責任として求められるのではないでしょうか」

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原子力発電所の安全対策について、
詳しくは以下をご覧下さい。