• 名古屋大学教授
    理学博士
  • 吉田 英一氏Hidekazu Yoshida
VOICE

2016.9

地層処分の実現に向けて~ 私たちの住む大地の環境を知る

原子力発電によって生じる高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現に向けて、全国の地質環境などに関する科学的知見を分かりやすく整理した地図が、年内にも国から提示される方針です。処分地を選定するには、個別の地域で綿密な調査を行っていく必要がありますが、その調査によって処分地としての適性が認められそうな地域や認められにくそうな地域を示す地図です。この提示は、どこかの地域を名指しで示したり、押し付けたりすることを目的としたものでは決してありません。
これまで約40年間、地層処分や日本の地下環境について研究が進められてきました。しかし、どこに処分するのか、という議論はほとんど進展しませんでした。その主な理由の1つには、日本の地質環境に関する情報が、国民のみなさんにほとんど伝わらなかったこともあるのではないでしょうか。つまり、情報がないので判断もできなければ、議論もできない状態だったと言えるでしょう。
そもそも、なぜ放射性廃棄物を地下に処分するのか?このアイデアは、実は自然に学んだものです。今から約20億年前、アフリカのガボン共和国にあるオクロというウラン鉱床の一部が、地下約400メートルで自然の状態で臨界に達し、自発的に核分裂反応を起こしました。それから現在まで、そこで生じた核分裂放射性元素が岩石中に保持されていることが確認されたのです。これにヒントを得たのが地層処分です。
高レベル放射性廃棄物はすでに存在します。廃棄物の有害度が、発電に要した天然ウラン総量の有害度レベルまで低下するのに、少なくとも約8000年を要するとされています。このような長期間においては、社会環境だけでなく自然環境の変化、気候変動(例えば氷河期の再来)などといった地球規模での地表の変化や影響も考えなくてはなりません。その地表の変化の影響が及びにくいのが地下深部の環境だと言えます。何千万年前の化石や風化していない新鮮な岩石が存在するのは、その証拠と言えるでしょう。そのような地質環境は日本にも存在します。国から提示される地図は、そんな私たちの住む大地の状態に関心を持ってもらい、地層処分について考えてもらうきっかけになればと思う次第です。

PROFILE

宮崎県生まれ。名古屋大学大学院理学研究科(前期)修了、94年名古屋大学理学博士。核燃料サイクル開発機構(現・国立研究開発法人原子力研究開発機構)主任研究員、名古屋大学博物館資料分析系准教授を経て、2010年名古屋大学教授並びに14年まで名古屋大学博物館館長。専門は応用地質学・環境地質学。現在、日本地質学会長期安定性研究委員会委員長、総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ委員等を務める。