• 東京大学大学院工学系
    研究科原子力専攻
    専攻長 教授
  • 山口 彰氏Akira Yamaguchi
VOICE

2016.11

将来の発展と安心のために -核燃料サイクルの意義と役割-

日本のエネルギー自給率は1960年には60%でした。現在は6%、この数字は先進国中で最低レベル、危機的な状況です。1970年代の二度のオイルショックでは、日本の経済はマイナス成長に落ち込みました。経済の発展と豊かな暮らしの実現、長期的かつ安定的なエネルギーの確保のために、原子力発電を利用し核燃料サイクルを日本のエネルギー基本政策として堅持してきたのは、この経験があったからです。
東日本大震災直後を除き、この5年あまり、日本は大規模な停電もなく危機を乗り切りました。原子力発電がなくても大丈夫という声があります。原子力発電所の再稼働が進まず、核燃料サイクルの行方も不透明です。世界のどの先進国も経験したことのない危機的な状況の中、なぜ日本は持ちこたえることができたのでしょうか。
震災前のエネルギー構成は、天然ガス、石油と石炭、原子力がそれぞれ30%程度ずつ、残りの10%を、水力を含む再生可能エネルギーが賄っていました。どのエネルギー源が欠けても70%を確保できます。素晴らしいエネルギー構成です。だから原子力発電が稼働しなくても乗り切れたのです。
今、原子力発電が止まり、化石燃料がそれを代替しています。この状況は様々な弊害をもたらしています。原子力発電所の再稼働は少しずつ進むでしょう。しかし、「次のオイルショック」、「ウラン需給の逼迫」、「地政学的リスクの顕在化」があれば、極めて不安定な状況を強いられることになります。
日本の安定的な成長、将来の安心のため、しなやかで安心できるエネルギー需給構造を再構築しなければなりません。核燃料サイクルは、日本のエネルギーオプションを手厚くし、将来のエネルギー供給の不透明さに備える技術です。核燃料サイクルは、使用済燃料を新燃料として蘇らせ、純国産のエネルギー源をもたらす技術です。核燃料サイクル技術を大事に育み、エネルギー問題の長期的な展望を持つことが大切です。

PROFILE

島根県生まれ。1979年東京大学工学部卒業、1984同大学院博士課程修了、工学博士。動力炉・核燃料開発事業団主任研究員、大阪大学大学院環境・エネルギー工学専攻教授を経て現職。原子力委員会原子力政策大綱策定会議、原子力規制委員会新規制基準検討チーム、文部科学省原子力科学技術委員会などで委員を務める。原子炉工学、リスク学などを専門とする。