• (公財)地球環境産業技術研究機構
    システム研究グループリーダー
    主席研究員
  • 秋元 圭吾氏Keigo Akimoto
VOICE

2017.01

パリ協定を踏まえた地球温暖化への対応とエネルギーミックス

2015年12月に「歴史的」とも呼ばれる「パリ協定」が採択され、2016年11月に発効した。パリ協定は、途上国を含むほぼすべての国が温室効果ガス排出削減に取り組む国際枠組みとなった。課題は残っているし、米国トランプ政権の対応の懸念などもあるが、世界全体での実効ある温暖化緩和に寄与し得ると期待される。パリ協定では産業革命以前からの気温上昇を2℃未満に十分に抑える、また今世紀末に正味排出量をゼロにする※との目標にも言及した。科学的な不確実性は大きいため、妥当な気温目標水準や短中期の排出経路には議論の余地は多く残っているが、いずれの気温水準であろうとも気温を安定化するためには、いずれは正味CO2排出量をゼロにしなければならないという点について科学的な知見はほぼ一致している。
パリ協定では、各国に長期目標(2050年頃)の提出も求めている。そのため、日本政府も審議会等で議論をスタートさせている。なお2016年5月に決定された地球温暖化対策計画では、様々な条件を前提としながらも2050年までに排出を80%削減するともしている。しかし、その具体的な道筋は全く見えていない。しかも、そのような大幅な排出削減を行うのであれば、原子力発電なくして達成できるとは到底考えにくい。無論、2050年までの間に大きなイノベーションが起こるかもしれないが、それはどの時点でどの程度かを見通すことはできない。少なくとも現在の技術進歩の延長線上で考えるならば、原子力発電の大きな寄与がなければ、排出削減に要する費用は膨大なものとなると推計される。
仮に40年廃炉を前提とし新増設がないとすれば、2050年には原子力発電はほぼゼロになる。既存の原子力発電の安全性を高めしっかり活用することに加え、原子力発電の新増設の議論を早急に深める必要がある。 新増設に要する期間を考えると時間はあまりない。リスクは、原子力発電だけにあるわけではない。地球温暖化、経済、エネルギー安全保障リスクなど、リスク全体を総合的に理解し、バランスのとれたエネルギーミックスを継続的に実現していくことが必要である。

※正味排出量をゼロにする=人為的な排出量と植林などによる吸収量を同等にしてバランスさせること

PROFILE

富山県生まれ。1999年横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。同年地球環境産業技術研究機構入所。2007年同システム研究グループリーダー・副主席研究員等を経て現職。2010~2014年度に東京大学大学院総合文化研究科客員教授、IPCC第5次評価報告書代表執筆者等も歴任。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会等、政府の多くの審議会委員も務める。