• 東京工業大学 環境・社会理工学院
    教授(エネルギー経済学)
  • 後藤 美香氏Mika Goto
VOICE

2017.05

再エネ普及もバランスが大切

急速に普及が進む再生可能エネルギー。どのような課題があるのか、専門家にお話をうかがいました。

エネルギー資源の少ない日本で、再生可能エネルギーの普及を進めることは大切です。再エネを活用した地方経済の再生にも期待が寄せられています。しかし、再エネにも様々な側面があります。例えば、再エネの導入に関わるコストを電気料金とともに「賦課金」として支払っていることに、気づいていない人も多いのではないでしょうか。われわれが負担している費用は、国全体でいえばすでに年間約2兆円にも上り、今後も再エネの普及に伴って増えていくのは目に見えています。これまで、高い買取費用の認定を確保したまま、事業コストが下がるまで発電を開始しない「空押さえ」など、固定価格買取制度が安易な投資として利用される問題もありました。4月の制度改正により、このような非効率な費用負担がなくなることを期待しています。エネルギー資源に乏しい国だからこそ、再エネを増やしながら、原子力も火力もうまく組み合わせて活用し、消費者の負担感と電気の安定供給をバランスしていく工夫が大切です。

欧州では、再エネ先進国と言われるドイツでも、石炭火力も使っていますし、原子力発電の比率が高いフランスの電力も輸入しています。国ごとに電源構成は異なるものの、欧州全体で電源を偏りなく組み合わせるエネルギーミックスを行っているとみることができます。一方で、電力系統が他国とつながっていない日本は、一国の中で電源のポートフォリオ(組み合わせ)を考えていく必要があります。このことは、政府が示した2030年度のエネルギーミックスにも示されている重要なメッセージです。

これまで日本では安価で品質の高い電気の安定供給があったからこそ、優れたハイテク産業なども生まれました。今後も豊かで暮らしやすい国であり続けるために、生活や経済の基盤であるエネルギーの利用について、私たち自身の問題としてみんなで考えていくことが大切です。まずは、日ごろ使っているエネルギー資源の多くをいまだ中東に依存している現実について改めて考えてみるなど、もっと身近な話題として気軽に「お茶でもしながら明日のエネルギーについておしゃべり」できるような雰囲気を作っていければと思っています。

(2017年4月13日インタビュー)

PROFILE

岐阜県生まれ。名古屋大学経済学部卒。名古屋大学より博士号(経済学)取得。1992年電力中央研究所入所。全米規制研究所客員研究員、独ケルン大学エネルギー経済研究所客員研究員、米オハイオ州立大ビジネススクール客員研究員を経て、電力中央研究所社会経済研究所上席研究員。2014年より現職。専門は生産性分析、エネルギー経済学、エネルギー産業研究。