• 電力中央研究所
    原子力リスク研究センター
    (NRRC)所長
  • ジョージ・
    アポストラキス博士Dr.George Apostolakis
VOICE

2018.03

リスク情報活用で安全性向上プラン公表は大きな前進

原子力事業者は、「リスク情報」を活用して原子力発電所の安全性を高めていく取り組みを進めています。リスク情報活用の意義や課題について専門家にお話を聞きました。

日本の原子力事業者は、リスク情報を活用しながら自主的に安全性の向上に取り組もうとしています。リスクをマネージしていくということは非常に価値ある取り組み評価しています。2月にはリスク情報を活用した意思決定プロセス、いわゆるRIDM導入に向けた戦略プランおよび、アクションプランを公表しましたが、これは日本の原子力産業界にとって大きな前進です。

事業者が自主的に発電所のリスクを洗い出し、リスクの大きさ、小ささを評価して合理的な意思決定に導くためのツールがPRA(確率論的リスク評価)です。ただ、私たちも、PRAが必ずしも完璧なツールであるとは考えていません。発電所の改善に向けた効果的な意思決定のツールとしてPRAを活用するのであって、いかなる判断もリスクだけで決められるものではありません。

米国原子力規制委員会(NRC)は2000年に、リスク情報を活用した原子力施設の検査・監視制度として「原子炉監視プロセス(ROP)」を導入しました。日本の原子力規制委員会でも2020年の本格実施に向けて検査制度の見直しが進められています。
米国での導入の経験から、もっとも重要なのは規制当局の検査官と発電所の人たちとの間で信頼関係を構築することだと考えています。ROPの一部に、検査の中で発見された不備をリスクの観点で重みづけする「重要度決定プロセス(SDP)」がありますが、規制側はこのSDPで重要度を厳しめに分析する傾向があるため事業者の意見と食い違うことが多く、こうした米国の経験が今後の日本の制度見直しで参考になるかもしれません。

リスクという考え方を日本で取り入れていくことは、ある意味チャレンジングな部分があります。それは、米国の国民と比べて、日本では皆さんがリスクという概念を受け入れることに慣れていないように思われるからです。解決策は理解に向けた活動を積み重ねる以外にありません。
原子力のほかにも、私たちの身のまわりには車の運転など社会活動に伴う様々なリスクがあります。もちろん、交通事故と原子力のリスクを直接対比することはできません。ただ、あらゆる活動にはリスクがあることや、リスクの概念について、時間をかけて社会の皆さんに理解してもらう努力が重要だと考えています。

PROFILE

ギリシャ生まれ。アテネ国立技術大学電気工学専攻、1973年にカリフォルニア工科大学で工学・応用数学博士号。カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授を経て、1995~2010年にマサチューセッツ工科大学教授、米国原子力規制委員会(NRC)委員、原子炉安全諮問委員会(ACRS)委員・議長を務める。NRC委員は2014年まで。マサチューセッツ工科大学名誉教授。2014年10月に電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC)所長に就任。