• 電力中央研究所
    社会経済研究所 上席研究員
  • 朝野 賢司氏Kenji Asano
VOICE

2018.05

脱炭素化に向け再エネの経済的自立を

2012年7月の固定価格買取制度(FIT)開始により、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギー(再エネ)が急速に普及し、その導入コストを電気の利用者が負担する賦課金の増加が課題となっています。再エネの経済的な自立に向けた課題などについて、お話をうかがいました。

FIT導入時に日本がお手本にしたドイツでは、すでに賦課金総額が年間3兆2000億円に達し、家庭の電気料金に占める賦課金の割合は24%と世界最高水準です。これに対し、日本の2018年度の賦課金総額は年間2兆3700億円、家庭の電気料金に占める割合は10%程度となっています。

FITでは、最長20年間、同一価格で再エネの電気を買い取るため、累積で数字を見ることが非常に大事です。私の試算では、賦課金の累計額は2030年度時点で44兆円、2050年度には69兆円に達する見通しです。買取価格は徐々に下げられており、賦課金もいずれピークを打つからよいのではないか、という意見もありますが、ピークを越えても負担はまだまだ続きます。

こうした大きな負担にも関わらず、各種の世論調査を見ると、約9割の人が賦課金を「知らない」と答えています。

昨年、日本のFIT法は改正され、入札制度の導入などのコスト抑制策が講じられていますが、導入量に上限を設定するといった諸外国のような抜本的な対策は議論されていないため、ドイツを上回る負担が生じる可能性もあります。

ドイツのバブル的ともいえる太陽光発電の普及で、設備費用を中心に海外の太陽光発電コストは大幅に下がりました。一方、日本は累積導入量で世界3位(2017年時点)にまで普及が進みましたが、コストは欧州の約2倍と高いままなので、この差を解消するためにどうすればよいか、検証が必要でしょう。脱炭素化に向け、再エネを主力電源として活用するためには、FITによる補助から自立し、経済性を備えた電源としていくことが求められます。

コストだけでなく、需要に見合う安定した電力量の確保という点も重要です。ドイツでは、太陽光や風力が大量に導入された後も、天候による発電量の変動に対応するため、火力や原子力も維持しています。また、電力ネットワークへの影響や送電線の増強という課題もあります。

今後の再エネの普及や電源構成を考えていく上では、イメージで捉えず、海外の先行事例に学び、正確なデータを基に評価・改善し、それを国民にも提示していくことで世の中の関心を高め、幅広い議論を喚起する必要があると考えています。

(2018年4月12日インタビュー)

PROFILE

福岡県生まれ。京都大学大学院地球環境学舎にて地球環境学博士号取得。産業技術総合研究所バイオマス研究センター特別研究員を経て、2007年電力中央研究所入所。専門は再生可能エネルギー政策、環境経済学。2015年からは一橋大学イノベーション研究センター特任講師も務める。「再生可能エネルギー政策論 買取制度の落とし穴」(2011年、エネルギーフォーラム社刊)ほか著書・共著書、学会誌などへの論文多数。