• 東京大学生産技術研究所
    特任教授 工学博士
  • 岩船 由美子Yumiko Iwafune
VOICE

2018.11

電力システムの信頼性確保へ バランスのとれた議論を

北海道エリア全域の大規模停電(ブラックアウト)や九州エリアにおける本土初の再生可能エネルギーの出力制御など、電力システムの安定運用に関わる話題が注目を集めています。北海道広域停電の検証委員会でも委員を務めた岩船由美子先生にお話をうかがいました。

北海道のブラックアウトは当初、火力発電所が集中立地していたことが原因ともいわれましたが、検証委員会では、大型火力発電所の停止に道東側の送電線事故が重なった複合要因だったと判断されました。

ブラックアウトから復旧に至る時間軸を検証する限り、北海道電力の事故対応に不備はなかったことも分かりました。発電部門と送配電ネットワーク部門が一体となり、電力会社の安定供給への矜持を発揮した復旧対応だったという印象です。

しかし、電力システム改革によって電力会社が発電部門や送配電部門などに分離され、多数のプレーヤーが参加していく中で、今後も同様の対応が可能なのかという懸念はあります。電力会社の矜持に頼らず、電力の安定供給を維持していく仕組みづくりの議論を急ぐべきだと思います。

また、日本の電力システムでは現在、再生可能エネルギーの増加にいかに対応していくかが課題となっています。

九州エリアでは10月以降、優先給電ルールに従って再エネの出力制御が実施されています。出力制御は再エネをできるだけ多く導入するために必要な仕組みで、ドイツや米・カリフォルニア州など海外でも電力の需給バランスや送電線の容量の制約により既に実施されています。

再エネ発電事業者の事業性を担保する観点から、制御量を極力少なくしようと導入されたのが優先給電ルールです。日本で今後も再エネ導入量を増やしていくのであれば、一定の制御を受け入れることは必要だと考えています。

北海道のブラックアウトでは、対策として「本州との連系設備をもっと増強すればいい」といった指摘もありましたが、北海道エリアの需要規模を考えると合理的とはいえません。同じように、再エネの増加に送電線の増強で対応するにもコストがかかり、それは最終的に託送料金、つまり電気料金として跳ね返ってきます。

災害に備えて再エネの自立化を進めよう、そのために蓄電池を積極的に入れようという議論もあるようですが、経済合理性を考えなくてはいけません。常時と非常時のバランスを考えながら、需要側の役割を含めて、電力システムの信頼性をいかに確保していくかという議論をしっかりしていくべきと考えています。

PROFILE

秋田県生まれ。1991年北海道大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了後、三菱総合研究所に入社。2001年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。住環境計画研究所勤務を経て、東京大学生産技術研究所講師、准教授、2015年より現職。専門はエネルギーデマンド工学。総合資源エネルギー調査会新エネルギー小委員会系統ワーキンググループ委員など、数多くの公職も務める。