海外電力関連 解説情報

「欧州における再生可能エネルギー導入が電気料金に及ぼす影響」

2012年5月17日

 欧州の中で、ドイツ、デンマーク、イタリア、スペイン、ポルトガルは固定価格買取制度等の再生可能エネルギー導入支援策によって、再エネ導入が特に進んでいるとされる。そのため、再エネ導入コストが多く発生、スペイン、デンマーク、ドイツでは欧州連合(EU)27カ国平均よりも電気料金が上昇しているのが実情である。ここでは、再エネ導入と電気料金の関係についてドイツなど5カ国を中心に分析した。

 

□再エネ支援策の主流は固定価格買取制度

 欧州では、再エネ導入支援策が実施され、再エネ導入がかなり進んでいる。これに伴って、再エネ導入コストが増加しており、「再エネ導入支援策の推進→再エネ導入量の増加→再エネ導入コストの増加→電気料金の上昇」という一連の影響が各国で現れている。各国の電源の実情や政策によって、影響の実態は異なるが、支援策を積極的に行ってきたドイツ、デンマーク、イタリア、スペイン、ポルトガルの5カ国に特定して、再エネ導入コストの規模や電気料金の傾向を探ってみた。

 これら5カ国における固定価格買取制度の導入は、デンマーク(1979年)が最も早く、ポルトガル(1988年)、ドイツ(1991年)、イタリア(1992年)、スペイン(1994年)と続いている。支援策の適用を受けた再エネ発電電力量が総発電電力量に占める割合を多い順に並べると、欧州16カ国における同割合が1.2%(ノルウェー)から28.6%(スペイン)まである中で、スペイン、ポルトガル(27.4%)、デンマーク(26.0%)、ドイツ(14.1%)、スウェーデン(11.3%)、イタリア(8.8%)となり、上位6カ国のうちこの5カ国が全て入っている。したがって、これら5カ国では、固定価格買取制度などの再エネ導入支援策が寄与して、再エネ比率が伸びたと考えてよいであろう。

 それでは、こうした国々はどのようにして導入を支援し、それにより発生した導入コストをどうやって回収しているのであろうか。

 国別に対応策をみると、再エネ導入支援策は、再エネ電力購入支援と再エネ発電投資支援に大別される。前者は、再エネによって発電した電力の購入を義務付ける制度であり、後者は再エネ発電プロジェクトにかかる金銭的な負担を軽減させるものだ。前者の方法として、固定価格買取制度やグリーン証書(例えば、イタリアでは発電事業者が一定割合以上の電力を再エネで賄うことが義務付けられており、発電事業者は再エネ発電を行ってグリーン証書を取得するか、証書を購入しなければならない)が挙げられる。後者はさらに、(1)補助金(2)税額控除(3)金銭的インセンティブ、に分類できる。実施される支援策は、国によって異なるが、再エネ電力支援策を実施している欧州28カ国中、23カ国と最も多くの国で採用されているのが、固定価格買取制度である。他方、再エネ発電投資支援策では、補助金や税額控除がかなりの国で取り入れられている。ただし、支援策との併用制などもあり、欧州全体としての共通性はうかがえない。

 

□再エネ導入支援策の費用は国民負担

 こうした再エネ導入支援策に要した費用は、それぞれの国民が負担している。費用回収方法は(1)税金からの回収(2)公共サービス基金など公的負担金からの回収(3)電気料金に上乗せしての回収(4)別のコストに含ませての回収(5)送電系統利用料金や配電系統利用料金などからの回収――がある。最も多くの国で採用されているのが、最終的に電気料金から回収される(2)~(5)である。ドイツ、デンマーク、イタリア、スペイン、ポルトガルの5カ国も他国と同様の回収方法を用いている。

 次に、2007年から2009年に発生した年間再エネ導入コストを国別に比較してみよう。総額が多いのは、ドイツ、スペイン、イタリアと英国である。2009年の導入コスト総額が最も多いのは、ドイツの61.5億ユーロ(約6350億円)。一方、急増しているのはスペインであり、2007年の9億ユーロ(約930億円)から2009年の38億ユーロ(約3900億円)へと4倍以上になった。また、1000kWh当たりの消費電力量にかかる再エネ導入コストを国別に比較すると、フランスの1.08ユーロ(約112円)からスペインの22.49ユーロ(約2330円)までと、かなりの幅がある。欧州の15カ国のうち、コストが高い上位5カ国は、再エネ導入支援策によって導入が進んだスペインのほか、ポルトガル12.33ユーロ(約1275円)、ドイツ10.78ユーロ(約1115円)、デンマーク8.05ユーロ(約833円)、イタリア7.89ユーロ(約816円)といずれも高水準である。

 このような再エネ導入コストの高さは電気料金にも反映され、導入コストが多い国とEU27カ国で比較すると、スペイン、デンマーク、ドイツはEU27カ国に比べて電気料金が上昇している。ちなみに、2007年下期から2011年上期までの電気料金の上昇率は、EU27カ国平均が1.14%であるのに対して、スペイン1.39%、デンマーク1.21%、ドイツ1.20%、ポルトガル1.05%、イタリア0.99%となっている。

□再エネ導入コストは電気料金に影響

 欧州において、再エネ導入支援策の実施で、特に再エネ導入が促進された国はドイツ、デンマーク、イタリア、スペイン、ポルトガルの5カ国である。これらの国々は、従来から水力発電が盛んなスウェーデンやオーストリアと異なり、再エネ導入支援策によって再エネ利用が増加してきた。欧州で実施されている再エネ導入支援策や導入コスト回収方法は、国によって異なり、ドイツ、デンマーク、イタリア、スペイン、ポルトガルの5カ国のみに見られる支援策と回収方法における共通性はない。しかし、イタリア、スペイン、ドイツは、他国より固定価格買取制度やグリーン証書などで再エネ電力を高く買い取っており、スペイン、ポルトガル、ドイツ、デンマーク、イタリアで再エネ導入コストが多く発生している。支援策によって、5カ国は再エネ導入目標の約6割を達成したが、その代償として多額の再エネ導入コストが発生。その影響で、スペイン、デンマーク、ドイツでは、電気料金がEU平均よりも上昇しているのである。

 

ページトップへ