海外電力関連 解説情報

「米NRC、福島事故を踏まえた安全強化対策を実施」

2012年5月23日

福島事故発生後、米国の原子力規制委員会(NRC)による安全強化対策が注目されている。NRCは事故の教訓を反映し、原子力発電所の安全対策を着実かつスピーディーに対応してきたと国際的に評価されている。そこからは、世界で最も多い104基の原子力発電所を保有する国として、原子力安全文化を遂行する力強い意志がうかがえる。

 

□事故後のNRCの評価の流れ

 2012年3月12日、NRCは事故を踏まえた原子力発電所の安全強化対策に関する指令を出した。事故発生からこれまで緊急の対応を求めるとともに、教訓反映のための様々な検討を重ねてきたが、全原子力発電所に向けて具体的な安全対策の指示が出されたのは初めてだ。

 今回の指令では、NRCの短期的評価タスクフォースによって提案された勧告をベースにさらなる検討が進められ、これらの勧告のうち優先順位が高いと判断された3項目が指示され、合わせて情報要求文書も提出された。

 事故直後にNRCはタスクフォースによる短期的評価を行い、2011年7月にはその評価結果として12項目の勧告を提案した。その後、NRCの評価は長期的評価へと移行し、勧告をベースに詳細な検討を進めた。短期的な評価結果を受けて、10月にはNRCスタッフは勧告の優先順位付けを行い、2012年2月に5人のNRC委員に指令案を示した。それに基づいて、NRC委員はそれぞれのコメントを付けて要求案を承認し、各発電所への指示内容が決定した。

□原子力発電所への指令内容

 指令は3点からなり、2点は全発電所向けで、残る1つは沸騰水型原子炉(BWR)のマークⅠ及びマークⅡ型のみが対象になっている。

 その内容は (1)複数ユニット事故も想定し、設計基準を超える事象にも耐え得る自然災害対策を行う。具体的には、9.11テロ以降、各発電所に配備してきた仮設電源や仮設ポンプなどの配備機器のさらなる強化を求めた (2)使用済み核燃料プールの計装機器の強化を要求。具体的には、使用済み核燃料プールに水位計を設置し、水位監視の強化の実施-であり、 (3)マークⅠ及びマークⅡ型格納容器に関しては、格納容器ベント(排気)系統の強化。具体的には、過酷な事象が起こった際にも問題なく格納容器ベント弁を開弁できる信頼可能なベント系統の設置要求である。

 原子力事業者は、この3点の要求について2013年2月28日までに実施計画を提出することとなっており、全ての対策の完了期限は「実施計画提出から2燃料取替え停止終了まで、あるいは2016年12月31日のどちらか早い方」とされている。

□情報要求文書の内容

 指令とともに出された情報要求文書は、連邦規制に規定されており、各発電所に対して評価や解析等を要求する文書で、その内容は次の通りである。

 (1)最新の知見を用いて地震と洪水リスクの再評価を行う。産業界が、評価を迅速に進められる代替評価方法を提案してきた場合は、NRC委員、スタッフの確認を経て採用でき得るとしている。

 (2)地震と洪水に対するプラントの対処能力について、現場での詳細な検査・試験を実施する。プラントの対処能力が現在の規制要求を満足しているかどうか、熟練技術者が各種確認を行うことを求めている。

 (3)過酷事象に対処できるように、人員配置と情報伝達に関する評価を行う。複数ユニット事故にも対処可能とする、要員の人数と資質に関する評価を行い、さらに各発電所内外で損傷が生じた場合、あるいは長時間の交流電源喪失した場合の情報伝達システム能力の評価も行うこととしている。

□NRC委員から出されたコメント

 5人のNRC委員は、スタッフから示された指令案に対してそれぞれのコメントを付けて承認した。各委員からのコメントは、バックフィットルール(遡及適用ルール)の適用除外理由が中心になっている。米国の原子力規制では、基本的に設置や運転の許認可が出された時点での規制要求を満たしていればよいとされるが、新たな科学的知見が出て規制要求を課す場合には、連邦規則で規定されたバックフィットルールに基づいて行われる。

 バックフィットは、事前に費用対効果等の分析を行い、コストに見合う十分な安全性の向上があると認められた場合に限って課すことができる。ただし、費用対効果分析等を省略できる規定があり、「適切な公衆防護レベルを再定義する必要がある場合」と「安全を確実にするための場合」においては、費用対効果分析等を省略できるとされている。

 今回の指令を出すにあたって、NRC委員、NRCスタッフともに費用対効果分析等を省略する、つまりバックフィットルールから適用除外することで方向性は一致したが、その適用除外理由については意見が分かれた。スタッフは適用除外理由を「適切な公衆防護レベルを再定義する必要があるため」としたのに対して、複数のNRC委員は「適切な公衆防護レベルを再定義する正当性は認められず、適用除外理由は“安全を確実にするため”とするべき」と提言した。

 最終的には、5人の委員の意見書では「3つの指令は安全を確実にするためのものであることから、バックフィットルールから除外する」との結論で決着した。つまり、今回の指令は、将来的に公衆防護レベルの見直しを迫られるものではなく、引き続き現在の公衆防護レベルに基づいて“安全を確実にするために実施する対策”として、位置づけられたといえよう。

 

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