海外電力関連 解説情報

「ドイツ大手太陽電池メーカーの相次ぐ経営破綻」

2012年6月26日

再生可能エネルギーの先進国とされるドイツで、太陽電池メーカーが相次いで経営破綻し、雇用問題や発電設備の保守管理が社会問題化している。同国は太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度(FIT)を積極的に推進、ここ10年近くは太陽光発電設備の新規導入量が飛躍的に拡大を続け、これに歩調を合わせるように国内の太陽電池メーカーも業績を伸ばし続けてきた。ところが、低コストを武器にする中国企業の参入や供給過剰、販売価格の低下などによって、急激に業績が悪化して経営破綻に追い込まれたのが実態である。イタリアやフランスでは国内や欧州で製造された太陽光発電設備に対する優遇措置を適用したり、米国においては中国製の太陽光発電製品にダンピング防止関税を課すとの仮決定が実施された。我が国において、再生可能エネルギー分野は成長産業として期待が膨らんでいるが、十分なシナリオと対策を講じなければ、ドイツのような太陽光バブルを招く可能性がある点に留意する必要があるといえよう。

 

□一時は世界シェアトップのQセルズが倒産

 ドイツ大手太陽電池メーカーであるQセルズが2012年4月3日、再建計画の実施を見送り、倒産の手続き申請を行った。同社によると、財務再建計画の見直しを迫られたが代替案が見つからず、取締役会は事業継続が困難との結論に達したとしている。同国の太陽電池業界は、販売価格の低下、中国企業との競争、供給過剰や太陽光発電電力の買取価格見直しの影響もあって、業績が悪化。太陽光発電大手企業の経営破綻としては、ソロン、ソーラーミレニアム、ソーラーハイブリッドに続いて4社目となる。

 Qセルズは、ドイツ東部ザクセン・アンハルト州に本社を置く太陽電池メーカーで、1999年に設立された。ドイツとマレーシアに生産拠点を持ち、従業員数は2304人。2001年から太陽電池の販売を始め、業績を順調に伸ばして、2005年10月にはフランクフルト証券市場への上場も果たした。2007年には従業員も1700人を超え、太陽光パネル生産量でそれまで首位だったシャープを抜いて世界トップの座に就いた。しかし、2008年第4四半期以降、金融危機の影響による資金調達コストの上昇等で業績が悪化し始めた。

 さらに、サンテック(中国)やファーストソーラー(米国)などとの競争が激化し、受注も激減した。追い打ちをかけて製品価格も下落、Qセルズはコスト削減のために500人の人員削減を実施したが、2009年の業績は売上高8億160万ユーロ(約800億円、前年比36%減)で、13億5620万ユーロ(約1350億円)の最終赤字を計上、出荷量も4位に後退した。

□ドイツ国内の太陽光設備導入は増加しても、シェアは低下

 2010年は、2009年に稼動開始したマレーシア工場での生産の拡大、国内工場での生産停止などでコストを削減、受注も回復して、売上高は13億5420万ユーロ(約1340億円)となり、かろうじて黒字を確保した。しかし、中国企業が安い製造コストを武器に出荷量を前年比で倍増する中、Qセルズの出荷量は前年比73%増であったものの、市場シェアは10位以下に後退した。

 翌年になると、供給過剰による太陽電池価格の低下に拍車がかかり、さらにはドイツ政府による太陽光発電の買取価格引下げが行われた。こうした中、ドイツにおける2011年の太陽光発電設備の導入量は前年を上回る約750万kWに達したものの、中国企業などによる攻勢によって、Qセルズの国内シェアは2010年の56.0%から2011年には48.5%に低下。この結果、2011年の売上高は前年比24.4%減の10億2310万ユーロ(約1000億円)、最終損失は8億4580万ユーロ(約840億円)という企業存続が難しい状態に陥った。

 業績が悪化し、債務の借り換えが難しくなったQセルズは2012年2月1日に破綻回避に向けて債権団と合意したと発表した。合意内容は、再建計画の達成を条件に2012年償還分の債権に対して2000万ユーロ(約20億円)を支払うこと、残る負債(2012年償還分社債の残高、2013年および2014年償還分の社債)については、債務を株式化するというものであった。同時に、再建計画として2億ユーロ(約200億円)に相当する本業以外の資産売却も盛り込まれた。

 ところが、Qセルズの再建計画の承認権を持つフランクフルト高等地方裁判所は、2012年3月27日にQセルズと同様の再建策を立てていたPfleiderer社の再建策を無効と判断した。これにより、再建計画が認められる可能性が極めて小さくなったQセルズは、再建の代替案を模索したが、有効な案は見つけられず、4月3日にデッサウ地方裁判所に破産処理手続きを申請した。

□関心高い再生可能エネルギーの“ヒーロー”の挫折

 Qセルズの経営破綻を受けてドイツの緑の党は、2012年1月に15%の引き下げ、2012年5月からは毎月の引き下げが予定されており、度重なる太陽光発電買取価格の引き下げにより、ドイツ国内の太陽光発電産業が衰退していると政府の政策を非難し、引き下げの見直しを求めている。これに対して、欧州委員会のエッティンガー・エネルギー担当委員は、ドイツが太陽光発電電力の買取価格などで太陽光発電業界を優遇しているために、結果として需要家の電気料金が上昇していると指摘している。

 (注:2007年下期から2011年上期までの上昇率は、EU27カ国平均が1.14%であるのに対し、ドイツは1.2%となっている。また、ドイツでは2013年から太陽光発電の全量買取制度の廃止を計画している)

 さらに、Qセルズの倒産に伴って発生する失業者の問題や、同社から購入した太陽光発電設備の保守管理に関する利用者の懸念など、同社の経営破綻問題は国民的にも大きな関心を集めているのが実情である。

 我が国においても7月から再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まる。こうした再エネ導入支援制度が、新たな産業を生み出していく起爆剤になるという期待感が高まっていることは確かだ。ただし、ドイツが再生可能エネルギーの活用に果敢な挑戦を行っているのは、メルケル政権前のシュレーダー政権時代からである。日本においても太陽光発電技術の開発は、かなり以前から取り組んできた歴史がある。かつて、世界の太陽光電池市場で日本メーカーが上位を占めていたことからもこの現実はうかがえる。そして今、我が国において再生可能エネルギーの新たな時代が始ろうとしている。これを成功に導き、産業としての基盤を固めるためには、これまでの日本の技術や経営ノウハウの蓄積、海外の教訓を十分に生かさなければならない。Qセルズの挫折は、その一つの貴重な教訓として忘れてならない出来事といえるのではないか。

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