FOCUS

2019.05

「脱炭素社会」早期実現へ
長期戦略の策定が進められています

政府は、2015年12月のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定に基づき、温室効果ガス低排出型の経済・社会の発展に向けた「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)」を策定しています。

長期戦略の提言を取りまとめた懇談会の様子

長期戦略の提言を取りまとめた懇談会の様子 提供:時事通信社

温暖化対策と経済成長を両立
バランスのとれたエネルギー政策を

昨年8月から「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」が議論を重ね、今年4月2日に提言を取りまとめました。提言を踏まえ、政府が長期戦略の案を4月23日に発表。5月16日までの期間でパブリックコメントを受け付けました。現在、パブリックコメントの結果を踏まえて長期戦略の策定が進められています。

長期戦略の案では、今世紀後半のできるだけ早期に「脱炭素社会」の実現を目指すという野心的なビジョンを掲げました。それに向けて、「2050年までに温室効果ガスの排出80%削減」という長期的目標の実現へ大胆に施策に取り組むとしています。

さて、長期戦略の案におけるエネルギー部門の長期的ビジョンやそれに向けた対策・施策の方向性はどうなっているでしょうか?日本の温室効果ガス排出量のうちエネルギー起源CO2が約9割を占め、その削減は極めて重要です。そのためには電源の非化石化と省エネルギーが必要であり、あらゆる選択肢の可能性とイノベーションを追求していくことが重要です。長期戦略では、電源の非化石化に向け、再生可能エネルギーの導入促進や原子力発電所の再稼働を盛り込んでいます。省エネルギーに関しては、エネルギー消費効率のさらなる向上を目指す方針を示しました。

私ども電気事業連合会も、長期戦略が示した通り、環境と成長の好循環の実現が重要と考えます。そのためには、産業界や国民など全てのステークホルダーがこの長期戦略に基づき総合的に取り組む必要があります。策定に向けた今後の議論においては、経済への影響や国民負担に配慮し、公平でバランスの取れた戦略となることを期待しています。

今夏の電力需給見通しについて

電力広域的運営推進機関(広域機関)は、一般送配電事業者各社からの報告を踏まえ、今夏の電力需給見通しを公表しました。電気事業者は電力需要が増加する夏に備え、発電・送配電設備の保守・点検と適切な運用を徹底することで、電気の安定供給に万全を期していきます。

安定供給に万全の備え
夏季も供給予備率確保

この夏の需給については、過去10年間で最も猛暑となった年と同程度の気象条件となった場合を想定し、もっとも需給が厳しくなる8月の需給バランス(全国合計、予備率最小時)が、電力需要1億6384万kWに対し、供給力1億7014万kW、予備率は3.8%を見込んでおり、各エリアにおいて電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3%を確保できる見通しです。
しかしながら、この需給見通しは、需要面でお客さまの節電へのご協力の効果をあらかじめ織り込んでいることに加え、供給面では高経年火力を継続的に活用せざるを得ず、火力発電に大きく依存する状況に変わりはありません。
電気事業者としましては、この夏の気温の上昇による需要の増加や設備トラブルによる供給力の減少リスクなどに備え、引き続き需給両面において最大限の取り組みを行ってまいります。

一方で、こうした状況を踏まえ、ベースロード電源として原子力発電が電力需給 の安定に果たす役割は極めて大きいと認識しています。
原子力事業者は、新規制基準へ的確に対応することはもとより、原子力産業界全体で原子力発電所の安全性向上を絶えず追求し、ベストプラクティスを体現できるよう努めていく考えです。
また、原子力発電に関するリスクコミュニケーションを実施していくとともに、原子力エネルギー協議会(ATENA)をはじめとする原子力産業界全体で社会とのコミュニケーションを図っていくことを通じて、立地地域や広く社会の皆さまからの信頼回復に努めてまいります。

今夏の需給バランス

広域機関「電力需給検証報告書」より作成

正確・迅速な停電被害情報の発信を目指し
新たなシステムの整備に取り組んでいます

電気事業者は、近年の大規模な自然災害に伴う広域停電の発生を踏まえ、停電被害や復旧状況に関する情報発信の強化、早期の停電復旧などの減災対策に力を入れています。

相次ぐ自然災害に対応

2018年の夏以降、各地で相次いだ大規模な自然災害を受けて、国は電力システムなどの専門家で構成する「電力レジリエンスワーキンググループ」を同年10月に設置し、電気事業者が取り組むべき減災対策をまとめました。これを踏まえ、電力10社は停電・設備被害情報の迅速な発信や、停電の早期復旧に向けた緊急対策・中期対策の実施状況を、2019年3月に国へ報告しました。
国民の皆さまへの迅速かつ正確な情報発信の取り組みでは、緊急対策の一環として、モバイル端末を活用した「現場情報収集システム」を、台風シーズンを迎える今夏までに全社で導入することを決めました。
現場の作業員からリアルタイムで送られてきた被害状況の画像をもとに停電・設備被害の情報を把握し、復旧計画の立案や復旧作業の迅速化を図るシステムで、復旧見通しなどの正確な情報を、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを活用していち早くお知らせできる体制を整えてまいります。
このほか、10社合同の復旧実働訓練に向けた計画策定、自治体との連絡体制の構築や情報連絡訓練などにも取り組む考えです。
また、中期対策では、電力会社のホームページ上の停電情報システムをより詳細なものとし、復旧作業がどの段階にあるのか(「巡視中」「工事手配中」「復旧作業中」など)を確認していただける内容へとリニューアルしていきます。全事業所へのドローンの配備や、災害時のドローン活用に向けたマニュアルの整備なども本格的に検討していく考えです。

正確・迅速な情報発信に向けた主な対策

経済産業省資料より作成

2020年4月の新検査制度導入へ
原子力発電所で試運用が進められています

原子力発電所の新しい検査制度が、2020年4月から本格的に導入されます。

より実効性ある検査制度へ移行

これまで運用されてきた検査制度では、規制当局が実施する審査・検査と、事業者による各種の検査を相乗的に実施することで、安全性の確保に取り組んできました。
一方、国際原子力機関(IAEA)が2016年1月に実施した日本の原子力規制に関する評価で、検査項目の重複解消や実効性の向上などの見直しが必要といった指摘がなされたことから、2017年4月に原子炉等規制法が改正され、新検査制度導入の準備が進められてきました。
新しい検査制度では、検査によって基準への適合性を確認する主体を事業者とし、一義的な責任を事業者に課す一方、規制当局は事業者の保安活動全般を包括的に評価・監視する仕組みが導入される見通しです。
こうして検査の重複を解消するとともに、規制当局の検査官がいつでも原子力発電所へ自由に出入りし、設備や書類などを確認する「フリーアクセス」を導入して、事業者が保安活動を適切に実施している状況を日常的に確認できる体制を整備します。また、発電所の安全確保の実績や安全上の重要度に応じて検査内容にメリハリをつけることで、事業者の自主的な安全確保への取り組みを促しつつ、発電所のパフォーマンス向上にも役立つ制度へと移行することになります。

新検査制度については、2018年10月から2019年3月にかけて、全国の原子力発電所を対象に「フェーズ1」と呼ばれる試運用が実施されました。フェーズ1では、検査官が新しい検査ガイドに基づき、原子力発電所で原子力規制検査を実施し、新しい検査ガイドの問題点の抽出などが行われました。
今年4月からは全国の原子力発電所を対象とした試運用の「フェーズ2」に移行しており、特に東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所と関西電力大飯発電所を代表プラントとして来年4月の本格運用開始を見据えて、これまで検討されてきた原子力規制検査の一連の流れが実際に機能するかが重点的に確認される見通しです。

原子力事業者としては、新検査制度の導入をにらみ、安全や品質上の小さな課題に対しても目を配り、主体的に改善する仕組みを構築するなど、自主的・主体的な安全活動を一層充実させることで、継続的に原子力発電所の安全性向上へ取り組んでまいります。