電気事業連合会

海外電力関連 トピックス情報

欧米諸国における発送電分離の動向と評価(月刊版NO.1)

2012年1月30日

 欧米諸国の電気事業は、発送配電一貫体制による垂直統合型事業者が管轄区域内の電力供給を行ってきた歴史的経緯がある。しかし、石油危機以降の景気低迷に対応する公益事業の民営化や規制緩和といった経済対策、さらには中小規模電源が技術的な進歩をしてきたことなどを背景として、発電・小売供給部門を自由化、電気事業の経営効率化、電気料金の低廉化、サービスの多様化への期待が高まり、発電・小売供給部門への競争原理が導入されるに至った。この自由化市場において、公平な競争条件を確保する観点から、電力会社の発電部門と送配電部門を切り離す発送電分離が検討されることになったといえる。

 □米国では地域によって対応がさまざま

 米国においては、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が1996年4月に制定した規則(オーダー888)によって、電気事業者が、新規参入した独立系発電事業者(IPP)に送電サービスを差別なく提供することや送電部門の機能分離が義務付けられた。また、系統運用を行う独立系統運用者(ISO)を設立することも奨励された。

 この結果、州レベルでの小売電力市場の自由化、既存事業者による発電設備の売却、ISOの設立といった電力市場の変化が生まれた。その一方で、卸電力取引の増加による送電線混雑の多発、卸電力価格の高騰といった問題も発生した。このため、供給の安定を確保する地域規模での発送電システムの調整や送電設備の計画・運用の重要性が指摘され、地域で一元的に系統運用・計画を行う地域送電機関(RTO)の設立を求める新たな規則(オーダー2000)が1999年12月に制定された。ただし、ISOやRTOの設立は義務付けではなく、地域事情によって電気事業体制は異なっている。例えば、ISOやRTOが導入されたのは米国北東部、カリフォルニア、テキサス等が中心で、米国北西部や南東部では、従来の垂直統合型事業者のもとで電力供給が行われているのが実情である。フロリダ州では、2000年代初頭にRTOの設立が議論されたものの、費用対効果で費用が上回るとの結果が出たためにRTO設立が見送られたという事態もあった。

 □電力の安定供給を最優先にするフランス

 一方、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、EU加盟国の電気事業制度を調和させ、EU地域内での電力取引を障害も差別もなく実施する方向に沿って、1990年代初めから議論を始めた。様々な意見交換や調査などを経て、欧州委員会は2007年9月に垂直統合型事業者(発電・小売供給部門)による送電部門の資本所有を制限する所有権分離、またその代替案として垂直統合型事業者から系統運用部門のみを独立させ、送電資産は引き続き垂直統合型事業者が所有する独立系統運用者(ISO)を導入する指令案を提示した。

 これに対して、フランス、ドイツなどEU8カ国が一斉に反論。2008年6月のエネルギー閣僚理事会で、所有権分離、独立系統運用者(ISO)、さらにはフランス、ドイツなどが提示した妥協案である独立送電運用者(ITO:持株会社のもとに送電子会社、発送・小売供給子会社を設置、持株会社と送電子会社間のみ資本関係を保持する)のいずれかを選択することができるとの規定を盛り込む方向で調整が行われた。2009年7月の「第3次EU電力自由化指令」でEU加盟国は、こうした3つの発送電分離方式を選択できるとの規定に落ち着き、欧州での発送電分離の議論は収束した。2010年現在で英国、スペイン、イタリア、北欧諸国などで所有権分離が導入されており、フランスは所有権分離を採用していない状況である。

 フランスがこうした方針を選択する背景には、「電力の安定供給」を基本とする考え方がある。2007年当時に産業担当大臣であったフランソワ・ロース氏は、発送電分離のデメリットに関して、次のように表明している。

 欧州における卸電力価格高騰の原因として、垂直統合型事業者や独占的な市場シェアを持つ電気事業者が存在しているため、との批判に対して、「むしろ、大規模電気事業者が存在していることでエネルギー安定供給が保証されている」と反論。さらに、「発電用燃料を輸入に依存しているのであれば、電気事業者の規模を拡大することで産油・産ガス国に燃料調達量や価格に関する交渉力を行使することができる」と主張した。

 このようにフランスでは、電力市場に競争原理を導入することを否定しているわけではないが、同氏のように電力の安定供給を最優先に考えれば、発送電一貫体制に有効性があることを政府や電力事業者が明確に主張しているのが実情である。

 

 □発送電分離への過度な期待は誤解をもたらす

 米国や欧州では、小売電気料金の水準を引き下げる目的で電力市場に競争原理が導入されており、さらには垂直統合型事業者が新規事業者に対して差別的行為を払拭するために発送電分離といった構造改革を導入する場合もある。しかし、発電・小売電力市場を自由化した上で、発送電分離までを行うことで電気料金を引き下げることができるのか。実際、欧米において発送電分離の導入による電気料金の低減効果を定量的に評価した事例は少なく、いまだに明確な回答は導き出されていない。電気料金は競争原理だけでなく、燃料費変動、電源構成、エネルギー資源の残存期間などの多様な要因によって決定される。発送電分離による電気料金の低減効果が明確でない中で、この方式を導入しさえすれば電気料金は引き下げられると主張することは、誤解を招く恐れがある。

 発送電分離による再生可能エネルギー発電の導入促進効果についても言及されることがあるが、直接的な因果関係が立証されているとは言えない。欧米諸国における発送電分離は、小売電力市場の自由化の導入に伴って、新規参入者に対して差別のない送電系統アクセスの利用を保証するために実施されてきた背景がある。いわば、発送電分離は競争政策の一環として考えられてきたのであり、再生可能エネルギー発電導入促進のために検討されてきたわけではない。

 発送電分離に関する評価については、欧米諸国ともにさまざまな分析が行われているものの、いまだ明確な評価が定まったわけではなく、結論を得るには長期的な視点が必要とされる。我が国で一部喧伝される「発送電分離の導入によって小売電気料金の水準が低下する」、「発送電分離の実施によって再生可能エネルギー発電設備の導入が進む」といった現象は欧米諸国で確認されていない。発送電分離がいかにもすべての課題を解決してくれるかのような主張を展開することは、我が国で電力システムに関する適切な議論を行う上で誤解を生じかねない。海外の事例を参考にする場合には、それぞれの国がおかれた地域的要因、エネルギーの安全保障問題などを考慮しつつ、慎重な議論が行われることが望まれる。

 

公式Twitterアカウントのご案内

海外電力関連 トピックス情報は、以下の電気事業連合会オフィシャルTwitterアカウントにて更新情報をお知らせしております。ぜひ、ご覧いただくとともにフォローをお願いいたします。

ページの先頭へ