荒木電事連会長定例記者会見発言要旨
( 1998年4月17日)




◎ 本日、私から申し上げるのは、2点。
 ・一つは、電力需給について。
 ・二つ目は、温室効果ガスSF6の排出抑制のための自主行動計画について

◎ 最初に、電力需給について。
  本日、9年度の販売電力量の速報がまとまった。平成9年度の10社の販売電力量は、電灯・電  力合計で7,914億kWh、対前年比で2.2%の増となった。
  生活関連では、電灯が、西日本を中心に冷夏や暖冬の影響で冷暖房需要が伸び悩んだことな  どから、対前年比1.8%の伸びにとどまったが、業務用電力が、対前年比4.5%と堅調な伸びとなって いる。
  また、産業用の大口電力については、上期まで堅調な伸びで推移したことなどから、対前年比  2.0%の増加となったが、下期に入って伸び率は低下傾向に転じ、さらに今年に入ってからは、1月  が対前年比▲0.03%2月▲1.7%、そしてこの 3月は ▲3.0%と下げ幅を拡大してきている。
  この3月の産業用大口電力を、各社別にみると、四国、沖縄を除く8社で対前年比マイナスとな  っているが、プラスとなった四国電力も0.6%といった低い伸びとなっており、また業種別でも、素材  産業は、主要業種の全てで前年の実績を下回り、加工組立産業でも、半導体や電子通信機器の  生産が堅調な「電気機械」が安定した伸び(3.1%)となっているものの、国内向けの自動車生産が不 振である「輸送用機械」は前年実績を大きく下回った(▲4.7%)。
  こうしたことから、電力需要の落ち込みが、ほぼ全地域、全業種にわたってきていることがいえる 。
  ところで、産業活動の実態は、電力会社の販売電力量に自家発分を加えた「自売計」に、より的 確にあらわれる。
  私どもは、この自売計の動きから景気の現状を判断する方法として「大口電力カーブ」というもの  を使っている。
  これは、大口の「自売計電力量」と「契約電力」の対前年伸び率を折れ線グラフに表したものだが 、電力量の伸び率が契約電力の伸び率を上回っているときが「景気拡大期」、逆に下回ると「景気 後退期」、2つのグラフの交差点が「景気の転換点」に概ね一致するという特徴がある。
  現在入手できる自売計の統計は今年の2月までだが、昨年2月に前年のうるう月の反動が見ら  れたものの、昨年10月までは自売計電力量の伸びが、契約電力の伸びを上回る状態が続いてい たことがわかる。
  その後、11月に両者は逆転し、格差は広がってきている。
  こうした大口電力カーブの動きから見ても、景気は「一層厳しさを増している」という、4月の月例 経済報告の見方を裏付ける内容となっている。

  つぎに、供給面からみた9年度の特徴点を何点かご報告したい。
  特徴点の1点目は、この10年間で最も多い811万kWの新規電源が、9年度に新たに加わったこと 。
  これは、たまたま大規模な電源の運転開始が9年度に集中したことによるが、東京電力の柏崎刈 羽7号機(135.6万kW)や、九州電力の玄海4号機(118万kW)の2基の原子力発電所をはじめ、大型 で熱効率が高いLNGや石炭の新鋭火力が新たに運転を開始した。
  2点目は、平成9年度の原子力の設備利用率(日本原電込み)が、過去最高であった8年度を   0.5%上回り、81.3%となったこと。
  わずか0.5%の向上と思われるかもしれないが、これを石油に換算すると約43万klもの石油を節約 できた計算になる。これは、ドラム缶215万本、100万kWの石油火力発電所1基(利用率50%)を5か 月程度運転できる燃料であり、その分CO2の排出も抑制できたことになる。
  こうした、設備利用率の向上は、安全運転と定期検査期間の短縮に取り組んできた結果だ。こう した努力によって、9年度の平均補修日数は61日と、8年度に比べて5日短くなっており、これまで  で最短となった。
  特徴点の3点目は、10社の火力発電の熱効率が、推定実績だが昨年を0.32ポイント上回りこれ また過去最高の39.61%となったこと。
  これは、高効率の新鋭火力発電所が新たに電源に加わったことや、熱効率向上に向け需給運  用全般に亘る工夫に努めた結果。
  火力の熱効率向上は、化石燃料の消費削減に直結する。今回の0.32%の向上だけでも、全国で 約73万kl(ドラム缶で約365万本分)の石油を節約した計算になる。

◎ 以上が、平成9年度の電力需給の特徴点だが、つぎに、温室効果ガスSF6の排出抑制のための 自主行動計画を取りまとめたのでご説明したい。資料をご覧いただきたい。
  SF6ガス=六フッ化硫黄ガスは、絶縁性能が空気の約3倍もあり、絶縁性に大変優れた気体しか も人体に無害の気体である。
  このため、遮断器や開閉装置などの電気機器を、以前の空気絶縁方式のものなどに比べて大幅 にコンパクト化(変電所用地を1/3〜2/3圧縮)できることから、都市部の地下変電所や屋内型の変 電所には欠かすことのできないものとなっており、とくに66kV以上の開閉装置では、70%以上に利  用されている。
  このように電力の安定供給に欠かせないSF6だが、電気的・化学的に安定して変質しない性質  が災いし、近年になって温室効果の高いガスとして指摘されている。昨年のCOP3でも、排出削減 目標の対象ガスに新たに加えられるなど、より一層の排出抑制が求められている。
  電気事業者としては、現在のところ、これに代わる有効な絶縁ガスが見あたらないことから、従  来から排出抑制のための研究や対策の検討を行ってきたが、さらに積極的な取り組みを進めていく ために、今回、事業者全体としての自主的な行動計画を定めた次第。
  現在、電気事業者が保有している量は、累計で約6,000トン程度。これは、わが国の保有量の約 8割程度と推定される。
  さらに、電力需要の増加や使用年数が経過した機器の取り替えなどに伴う設備の増加で、2010 年頃の電気事業者が保有するガスの量は、現在の約2倍にあたる14,000トン程度にまで増えると  予測している。
  これらのガスは、頑丈な金属容器の中に閉じこめてあるので、自然に漏洩することはほとんどな いが、保安上の理由から12年以内に1回行う機器の内部点検や、機器の取り替え・撤去の際に、  回収できずに漏洩してしまうものがあり、現在、年間約50〜100トンが回収できずに大気中に排出 されている。
  今回の自主行動計画では、こうした機器の点検や、撤去時における排出ガス量の抑制をはかる ため、
   ・高性能ガス回収装置の導入など回収技術の充実を図るとともに、機器の点検内容や12年 以   内に1度の頻度で行っている点検周期の見直しを行う。
   ・機器製造メーカーおよびガスメーカーと共同で、回収したガスが遮断性能に支障を与えない純    度を保っているか判定するための「再利用基準」を策定し、基準に満たないガスは、ガス製造メ   ーカーに再精製処理を要請する。
   ・「ガス管理台帳」を整備し、ガスの保有量、排出量の管理を徹底する。
  以上の対策に取り組むこととした。

  こうしたことにより、機器点検時における平均的な回収率を現在の60%程度から、2000年には   90%程度、さらに2005年には97%程度にまで向上させる予定。
  また、機器撤去時についても、2005年には、ガス回収能力の限界である99%程度までもっていき たいと考えている。