荒木電事連会長定例記者会見発言要旨

(1999年5月19日)



◎ 本日、私から申し上げるのは2点。 
 1点は、国の「原子力の研究、開発および利用に関する 長期計画」いわゆる「原子力長計」の改定について。  もう1点は、電力需要から見た景気動向について。

◎ まず、原子力長計の改定について。昨日、原子力委員会が開かれ、原子力長計の改定に向け 正式な検討作業がスタートすることとなった。
○ 原子力長計は、わが国の原子力の開発利用を計画的に進めるための目標として、1956年に作成されて以来、国内外の情勢変化などを踏まえて概ね5年ごとに、これまでに7回改定が行われている。お手許の資料-1をご覧いただきたいが、現行の計画は、1994年に作られたもので、プルトニウム利用に対する国内外からの関心の高まりなどを背景に、原子燃料サイクルとりわけプルサーマル計画の具体化等に力点が置かれている。
○ しかし、作成から4年が経過するなかで、原子力を巡る情勢は大きく変化している。 改定の翌年に発生した「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故(1995年)や、さらにその2年後の動燃東海事業所のアスファルト固化施設の火災爆発事故(1997年)は、国民の間に原子力に対する強い不信感を招いた。海外においても、ドイツの原子力政策の転換に見られるように先進国の原子力開発は依然停滞している。その一方で、新たな変化の兆しも見られる。 国内では、一昨年のCOP3において温室効果ガス削減目標が合意されて以降、地球温暖化問題に対する原子力の役割に大きな期待が寄せられており、今年4月から施行になった「地球温暖化対策推進法」にもとづいて作られた「基本方針」のなかでも、地球温暖化対策の最重要項目として原子力推進が明確にされている。 また、使用済み燃料の中間貯蔵や、高レベル廃棄物の最終処分などバックエンド対策についても、国において法律改正や実施に向けた条件整備など、これまでよりも一歩踏み込んだ検討が進められている。 さらにプルサーマル計画の進展のほか、東北電力の東通1号機や中部電力の浜岡5号機の新規着工をはじめとして、立地面でも新たな変 化が見られる。 また、海外においても、先月の会見の「日米欧3極電力首脳会議」のご報告で申し上げたように、地球温暖化問題など新たな状況変化のなかで、原子力の有効性や必要性について各首脳が積極的に意見を述べられるなど、欧米での原子力を取り巻く空気にも微妙な変化が生じてきている。 こうしたさまざまな情勢の変化を背景に、今後十分に時間をかけて、21世紀を見通した新たな長期計画の検討が行われることとなった。
○ 原子力委員会では、長期計画の改定に際し、予備的な調査・検討を行っており、今年3月に報告書をまとめている。これから、この報告書をたたき台に、改定に向けた本格的な議論が始まるわけだが、私ども事業者として今後の議論でぜひ踏まえていただきたい点について2点申し上げたい。
○ 第1点目は、原子力長計の改定に際し、国民のコンセンサスを得た包括的な国のエネルギー政策を明確にしていただくとともに、その中で、原子力推進を国家的な方針として位置づけていただきたいということだ。 わが国は、エネルギー消費大国であると同時にエネルギー資源がほとんどない資源小国である。しかし、残念ながら、例えば「エネルギー基本法」のような、国のエネルギー全般について基本的な方向性を示すような法律がない。 それに準じるものとして、通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の「エネルギー需給見通し」、あるいは原子力については「石油代替エネルギーの開発及び導入の促進に関する法律」や原子力委員会の「原子力長計」などが、それぞれ必要に応じ作られているが、国家的なエネルギー方針としては位置づけが希薄であり、それぞれの整合性も十分とは言えない。今後、わが国で、原子力発電、とりわけ原子燃料サイクルを進めていくためには、安全性はもとより、その必要性 について社会の理解とコンセンサスを得ることが不可欠で ある。国には、長期的な国のエネルギービジョンを明確にし、その中で原子力推進の方針を政策としてしっかり位 置づけていただきたい。そのためにも、国会等の場において、政策決定のプロセスが国民に見えるよう、また国民各層の意見を広く採り入れながら、エネルギービジョンについて十分に議論し、決めていただくことが重要である。
○ 2点目は、具体的な計画の作成にあたっては、硬直的なものではなく、状況変化に柔軟に対応できる内容にしていただきたいということだ。 従来の原子力長計は、「目標達成型」であり、実行計画を兼ねているかのように受け取られていた。欧米に追いつくことを目指して官民協力して積極的に原子力開発を行っていた時代には、これが有効に機能したかもしれない。 しかし、わが国が世界の原子力開発のトップランナーとなり、将来の不確実性や不透明さが増大している現在、そうした硬直的な計画では状況の変化にうまく対応できなくなっており、結果して、計画に対する社会の信頼を落とすことにもなっている。 こうしたことから、改定にあたっては、長期計画のあり方や意味合いを明確にして、計画には、わが国が原子力開発にあたって守っていくべき理念や基本的な方向性のみを定め、具体的な実行計画とは明確に区別すべきだと思う。 そして、具体的な実行計画については、状況変化に応じて多様な選択ができるようにすべきであり、とりわけ民間事業者が担うものは、原子力以外のエネルギー状況や技術開発状況を総合的に勘案して必要に応じてローリングできるよう、一層の柔軟性 を持たせることがより大切だと考えている。
○ なお、この機会にあえて申し上げれば、実行計画の具体 的な展開にあたって、国の果たす役割について今一度整理 をしていただきたいと考えている。高速増殖炉や高レベル廃棄物の最終処分など、開発あるいは事業運営が長期にわたり、技術的にも発展途上段階にあるプロジェクトについては、社会からの信頼、支持を得るという観点から、今後、民間事業者だけで進めていくことがたいへん難しくなっており、国の積極的な役割が必要となっている。また、電力市場の自由化が進められているなかで、長期にわたって多額の投資を必要とするこうしたプロジェクトは、近い将来、短期的な経済性を追求する競争市場の原理と整合性がとれなくなる可能性もある。 こうしたことから、今後は、こうしたプロジェクトについても、ぜひともこれまで以上に積極的な国の支援や関与をお願いしたいと考えている。

◎ つぎに、電力需要から見た景気動向について。これまでも、会見の機会に、電力需要からみた景気動向についてたびたびご報告してきており、皆さんのご関心も高いと思う。残念ながら、4月の電力需要については、現時点で10社の統計が出そろっていないため、本日は東京電力の状況を申し上げたい。
○ お手許の資料-2の(1)をご覧いただきたい。 東京電力の4月の販売電力量は、生活関連では、家庭用の電灯がプラス3.1%、オフィスビル等の業務用電力がプラス1.2%と、依然着実な伸びが続いている。一方、(2)の表のとおり、景気動向と関連の深い産業用の大口電力については、4月も前年に比べてマイナス4.2%と15か月連続でマイナスとなった。 これは、現時点で、バブル崩壊後の景気後退期の連続記録(14か月)を抜き、2番目に長いものとなっている(第1位は第1次石油危機の時の21か月)。
○ 業種別に見ても、鉄鋼がマイナス15.3%となったのをはじめ、主要業種のほとんどで前年水準を下回る状況が続いている。 ちなみに、業種別でも、紙パルプが18か月連続マイナスで、最長記録を更新したほか、化学やガラス等の窯土なども最長記録に迫りつつある。
○ ところで、産業活動の実態は、今お話しした電力会社の 販売電力量に自家発分を加えた「自売計電力量」に、より 的確にあらわれる。 (3)の表をご覧いただいてわかるように、 4月の自売計電力量も、マイナス2.8%と、平成10年の5月以来12か月連続でマイナスの伸びとなっている。これも、販売電力量同様、第1次石油ショックの時の17カ月連続につぐ2番目の記録となっている。
○ ちなみに、私どもは、この自売計の動きから景気の現状 を判断する方法として「大口電力カーブ」をつかっている。  2頁をご覧いただきたい。 これは、自家発を含む大口の「電力量」と「契約電力」の対前年増加率の推移を同一グラフ上に示したものだが、この大口電力カーブも、平成9年の11月以来18か月連続して、自売計電力量の伸びが、契約電力の伸びを下回るという「景気後退期」にみられる特徴を示している。
○ 以上のような電力需要の状況やさらに4月は冷暖房の利用が少なく気温の影響を受けにくいことなども考え合わせると、景気は、依然として大変厳しい状況にあるといわざるを得ない。
○ 私からは以上。