荒木電事連会長定例記者会見発言要旨


( 1998年11月13日 )






◎まず、使用済燃料輸送容器のデータ改ざん問題に対するその後の取り組みについて申し上げたい。
○ 先月の会見でも申し上げたが、厳しい品質管理が要求されるはずのキャスクの製造過程で、あってはならないデータ改ざんが行われ、立地地域の方々をはじめ多くの方々に多大なご心配とご迷惑をおかけし、原子力事業全体に対する信頼を損ねる結果となった。この7月に、多くの関係者の長期間にわたるご苦労によって、ようやく試験用使用済燃料の受入に関わる安全協定が締結され、東京電力福島第二原子力発電所から青森県六ヶ所村に使用済燃料を搬入することができた直後でもあっただけに、極めて残念であり、大きなショックを受けている。
○ 現在、国の調査検討委員会において、技術的な見地からの安全性の検証や、品質管理・ 保証面からの原因究明と再発防止対策について検討が進められている。
 委員会はこれまでに6回開かれ、昨日行われた委員会では、技術的な見地からはキャスクの遮蔽能力に影響がない旨の安全評価結果が出されたと聞いている。
 いずれ最終報告がなされるものと考えているが、私どもとしては、委員会の検討結果を厳粛に受けとめて、必要な対策を早急に講じてまいりたいと考えている。
○ 一方、そうした国の第三者機関よる評価・検討と平行して、私ども電気事業者としても、なぜこうした問題が起きるのか、自分の足下でも同様の問題が起きる可能性はないのかなど、関係企業を含む業界全体の体質・風土まで踏み込んで、組織や人間的見地からの問題点抽出や再発防止策の検討に取り組んでいる。
 具体的には、先月の社長会で、自らの問題として、まず各社ごとに検討を始めることを確認し、翌16日に、電事連会長として、電力各社、さらにはメーカーを含む関連会社や関連業界に対して文書で協力要請を行った。
○ 現在、各社毎に「企業倫理委員会」「風土改革検討委員会」などの委員会やワーキングを作り、検討に着手していただいているが、技術者の倫理観やモラル、マイナス情報の流れや取り扱い、社内あるいは請負会社との間の業務慣行や人間関係など、企業体質や風土にまで踏み込んで検討を行っているので、業界全体としての結論を出すためには、今年度末ぐらいまで時間をいただきたいと思う。
 なお、まとまった検討結果は、関連企業や関連業界と共有し、お互いに協力して再発防止・体質改善に取り組んでまいりたいと考えている。
○ こうしたことを二度と起こさぬために、また損なわれた信頼を取り戻すためにも、付け焼き刃の対策でなく、きちんとした結論を出してまいりたい。

◎ つぎに、この冬の電力需給の見通しについて申し上げたい。(資料参照
○ 近年の冬の気温は、1980年代後半から90年代にかけて、日本に暖冬をもたらすと言われるエルニーニョがたびたび発生し、それが長期化したことなどから、暖冬傾向が続いている。
  昨年の冬も、春先から続いた今世紀最大規模といわれるエルニーニョ現象の影響などもあって平均気温が高くなり、暖冬となった。
○ しかしながら、気象庁などの予報によると、今年の冬は、夏にエルニーニョ現象が終息し、むしろ逆の現象である「ラニーニャ」が発生する可能性が出始めていることや、気温変動の長期的な周期等からみて、久しぶりに平年並み、あるいはそれ以上の寒さが戻ってくるとのことである。
○ 最近では、冷暖房兼用エアコンや電気カーペットなどの暖房機器の普及が著しく進んでいる。例えば、お手許資料の参考-1をご覧いただきたいが、9社の冷暖房兼用エアコンの普及率は、平成元年度から9年間で2.4倍に増え、また電気カーペットは7割も増加している。
 このため、冬の電力需要も夏と同様、気温によって大きく変化するようになってきており、1℃気温が下がっただけで大型発電所1基分の発電能力を大きく上回る170万kW(H10夏の気温感応度約480万kW)もの需要が増加する。
○ こうしたことから、この冬の10社の最大電力は、昨年の記録に比べて約800万kW増の1億5,162万kWを想定した。 
 また、これに対する、供給力は、火力・原子力の定検工程を一部変更したことによる減少はあるものの、期間を通じて1億8,000万kW程度と十分な供給力を確保できる見通しである。
○ ところで、気掛かりなのは電力のベース需要を支える景気の動向である。
  10月の販売実績の数字はまだまとまっていないが、今年の1月から9月までの10社の大口電力は、景気低迷の影響を受け、9か月連続で対前年比マイナスとなっている。さらに、10月以降の下期についても、予想以上に長期化している生産調整や、設備投資の大幅な縮小の影響で、上期同様、前年割れの状況がしばらく続くのではないかと考えている。
○ ちなみに、今年の夏の最大電力は、計画値を約700万kWも下回わる結果で終わったが、そのうち、北日本、東日本の天候不順や低気温など、一過性の気象変化による影響は約200万kW程度であり、残り約500万kWは、景気低迷の影響を中心とするベース需要自体の落ち込みであると考えている。
○ こうした状況を考えると、この冬の電力需要についても、景気動向如何によっては、夏と同様に計画値を下回ることも考えられる。
○ 電気も、景気、天気に左右される代表的な商品のひとつだが、一日も早く経済対策などによる効果があらわれるとともに、予報どおりの冬らしい寒さとなって冬物商品が売れ、景気が少しでもよい方向に向かってくれればと願っている。