荒木電事連会長定例記者会見発言要旨

(1999年3月19日)





◎ 本日は、電事連会長であるとともに、東京電力の社長としての記者会見でもある。
○ まず、冒頭、私から3点ほどご報告したい。

◎ 一点目は、「キャスクデータの改ざん問題」をきっかけとした、電力各社における企業体質・風土に関する検討状況についてである。
○ すでにご案内のとおり、昨年10月に明らかになった、使用済燃料輸送容器(キャスク)のデータ書き換え問題は、立地地域をはじめ多くの方々の原子力に対する信頼を大き く損ねる結果となった。  私ども電力各社は、ただちに10月の社長会で、これを業界全体の問題として厳しく受け止め、徹底した原因究明と再発防止策に取り組むことを申し合わせるとともに、さっ そく品質管理の充実など「技術面」を中心とした再発防止に全力を挙げて取り組み、その具体策を既に昨年の12月に発表した。
○ 加えて、私どもは、今回の問題が、事故やうっかりミスによるものではなく、「データの書き換え」という安全性を云々する以前の「モラルや倫理面の問題」によって生じたということを何よりも重く受け止め、各社ごとに検討委員会やワーキングを作り、職員の倫理観やモラル、トラブル情報の流れや取り扱い、社内あるいは協力企業やメーカーとの間の業務慣行や人間関係など、企業体質や風土にまで踏み込んだ検討を行ってきた。
○ 本日の社長会では各社の検討状況を披露し合うとともに、各社から出された問題点や改善策をもとに今後の風土改革を進める「基本的な方向性」について確認しあった。
○ 概要についてはお手許にお配りした資料−1をご覧いただきたい。「モラルの維持・向上」と「情報の流れの円滑化」の両面から、風土改革に取り組んでいこうというものである。
○ 私ども東京電力については、現在最終的な詰めを行っているところで、月内にはとりまとめて正式に公表したいと考えているが、これまでの検討状況についてその一部をご報告させていただきたい。

○ 当社では常務取締役を委員長とし、各原子力発電所も含め関係の役員・部長等15名のメンバーからなる「風土改革 検討委員会」を設置し、昨年11月以降これまで11回にわたり具体的な検討を行ってきた。その間、発電所と一体となって検討を進めるために、原子力発電所の職員や協力企業の社員による職場単位のグループディスカッションを開くとともに、電子メール等を活用して、当社約900 名、協力企業約1,200名にのぼる現場第一線職員の率直な意見、生の情報を徹底的に収集した他、社外有識者を講師に迎えて、委員会メンバー、発電所幹部等が意見を聴いた。
○ 例えば、協力企業の方々からは、 ・「取っつきにくく対応が冷たい。」 ・「当社が実施すべき調整業務まで協力会社に頼っている。」・「近年のコストダウンのしわ寄せがきている。」 ・「協力会社に対する心遣いが不足しており、権威主義的だ。挨拶や言葉遣いがきちんとしていない。」 などといった厳しい声が数多く寄せられ、当社の実情の一端が改めて浮き彫りになったというのが実感である。
○ 今回の調査で痛感したことは、改善すべき体質や風土の問題の多くが、決して原子力固有のものではなく、当社あるいは当社グループ全体に共通するものだということである。そうした認識の上に立って、会社全体・グループ全体を視野に入れ、風土改革を進めるためにはどうしたらよいか、さらには、電力自由化といった新しい時代の到来に応える新しい企業風土を作り上げていくにはどうしたらよいかという視点で取り組んでもらった。
○ 検討の結果、具体的には、次の4つの方向で今後の風土改革を進めようと考えている。即ち、@一つは、社内の情報の流れを円滑にし、風通しを良くするということ。「部下は上司の背中を見て動く」わけであるから、経営トップをはじめ幹部・管理職などリーダーが率先して社内の風通しを良くするよう努力することが大切である。同時に個々人の考えや意見を尊重してその良さを引き出すよう努め、また徹底したディスカッションを通じて意識の共有ができる職場の雰囲気づくりを進めながら、経営の意志をわかりやすく社内へ伝えていくということが欠かせない。例えば、社長や発電所長が直接語りかけるイントラネットホームページを設けることや、社内・グループ内から定期的に意見募集することなどを考えている。
A二つ目は、社会との関わりを意識した業務運営・人材育成を進め、「開かれた原子力発電所」「開かれた企業」づくりをめざすということ。これについては、積極的に地域活動へ参加することや、情報公開のあり方などについて社外からご意見を伺うモニター制度の拡充などを考えている。 また、「原子力の情報公開」については、原子力発電所の運転状況やモニタリングポストのデータに加え、この4月から排気筒モニタデータについても、公開していくこととした。さらに、発電所の運転保守情報の公開方法・手段についても検討しているところである。
B三つ目は、モラルの徹底をはかり、協力企業等とのパートナーシップを醸成すること。例えば、協力企業等に応対する際の私どもの行動規範を作成し徹底することにしたほか、協力企業との契約書の内容を総点検し、不明確条項の改善を進めている。
C四つ目は、原子力職場における意識の高揚をはかり、原子力を元気にするとともに風土改革へ向けた全社的な意識づけをはかろうというもの。例えば、経営トップによる第一線職場・協力企業との意見交換を継続的に実施することや風土改革推進キャンペーンを全社的に実施するといったことを考えている。今後はこうした具体策を息長く地道に展開していく所存である。また私自身が今回の検討にあたって考えたことは、個人と組織の新しい関係、言いかえれば個人の顔が見えるような会社づくりを目指して、社内風土の改革に取り組むことが大切だということ。具体的には、個々人が社会感覚を身につけ、自らの価値観に基づいた意見を積極的に主張し、それをお互いに認め合うことや、組織への責任と社会への責任をともに自覚して仕事に取り組むことがますます重要になってくると考えている。
○ 平成5年の夏に社長就任以来、私は「当社も創立以来42年経ち厄年を迎え成人病の心配があり、中年太りで動脈硬化に気をつけなければならない,早く健康体にしなければ」と言ってきた。パソコンによる電子メールを活用してきたのも血の流れが悪くならないよう情報の流れを良くして共有化をはかり、自由で活発な論議ができる企業への変革を進めたいと考えたからである。 これから私どもが取り組む風土改革は、さらなる企業文化刷新につながるものであり、社員一人ひとりのいきいきとした顔が見え、社会的にも評価される会社を目指していくためのものと考えている。同時に今後、当社が自由化に耐えうる企業風土へと変わっていくための道筋をつけることにもなると思っている。月内に改革の詳細を詰めて、今月末に予定している社内の店所長・部長合同会議で全店に周知・徹底を図り、東京電力グループ全体の取り組みとして進め、社内に定着させていきたいと思っている。

◎ 二点目は東京電力の要員スリム化の方向と、火力部門の組織体制の整備について。
○ まず要員のスリム化。今後わが国電気事業は、来年春から特高の小売自由化という、かつてない構造転換に直面するが、これからもお客さまから「やっぱり電気は東京電力」と、当社を選んでいただくためには、サービスレベルとともにコスト・価格面での競争力を強化していくことが欠かせない。○ 当社の要員については現在42,200人であるが、近年、経営のスリム化に取り組んできたことが効を奏し、7年度末の43,448人のピークを境として年々減少してきている。しかしながら、今後さらなる競争に耐えうる強靱な企業体力を作り上げるという観点から、経営全般にわたる合理化・効率化をさらに推進・加速していくことにより、現在の42,200人を5年間で2,000人削減する方針を固めた。5年後の平成15年度には要員を40,200人程度に抑え、いわゆる「4万人体制」としたいと考えている。
○ このため、当面、定年者を含め退職者が毎年1,000人程度見込まれることもふまえ、新規採用を半減させることとした。具体的には、ここ数年の当社の新規採用は、9年度約1,300人、10年度約1,200人という水準にあるが、これを11年度はまず1,000人に抑制し、12年度はさらに約500人と半分に抑制することにした次第である。
○ また、こうした要員スリム化に加え、管理職についてはすでに削減を行っているが、今後も思い切って進めていくと同時に、一人ひとりの管理職の能力アップを図り、戦力を高めることを考えており、迅速に意思決定し行動できる、スリムでフラットな効率的な組織運営を目指していく所存である。

◎ 次に火力発電所の組織体制の整備・強化について。電力会社では、今後コスト競争力強化と公益性確保の両立を目指し、店所の自律経営を一層定着・発展させ、柔軟な組織運営を強化することがますます重要になる。そうした考え方の下、このたび火力発電所の組織と業務運営体制の改編を進める方向で具体的検討を開始した。 現在、当社には13の火力発電所があり、発電・保守をはじめ 一般管理にいたるまでの業務を、各発電所がそれぞれフルセットの組織を持って個別に運営している。これを中央・東・西という3グループに統合し、グループごとに新たに「火力事業所」を設置してそこに計画・設計部門の業務と経理、資材などの一般管理業務を集中する。また、これまでの火力発電所は発電に関する現場第一線型業務に専門特化して自律的に運営する「第一線機関」とする予定である。このような改編を通じて、火力部門における一層の技術力強化と、店所経営・業務運営の効率化に取り組んでいく。
○ 当社は、今年一年を「自由化に向けて備えを固める年」 と位置づけ、営業・配電・工務部門においても要員と組織のあり方も含めて、さらなる経営体質の強化に努め、激化する競争下においても「お客さまと株主・投資家の皆さまから選択していただける企業」をめざして全力をあげていく所存である。

◎ 三点目は、来月の5日、6日に広島で開催される予定の「日米欧3極電力首脳会議」について。○ 概要については、お手許の資料−2のとおりであるが、この会議は、私ども電事連と、アメリカ、ヨーロッパの電気事業者の集まりである,アメリカの場合「エジソン電気協会」(EEI)、ヨーロッパの場合「国際発送配電業者連盟」(UNIPEDE:)の電力首脳が一堂に会し、電気事業を取り巻く環境や共通の課題などについて、自由に意見交換することを目的に、1年〜1年半に1回開いているもので、今回の広島で5回目となる。 参加者は、欧米からの約30名に加え、わが国からも10電力の社長をはじめ13名の参加を予定している。
○ 討議のテーマ等については調整中であるが、各国とも関心の高い電力自由化と事業体制、環境問題への対応を中心に、率直な意見交換ができればと考えている。
○ 私からは以上。