FOCUS

2016.5

原子力発電所の安全性向上に向けて継続的に取り組んでまいります

日本のエネルギー自給率はわずか6 %。エネルギー資源の大部分を海外からの輸入に頼る日本において、原子力は「安定供給」「経済効率性」「環境適合」に大きな貢献ができる重要な電源です。一方で、原子力の利用において大前提となるのが「安全」です。
福島第一原子力発電所の事故を受けて原子力規制委員会が設置され、新たな規制基準が策定されました。私ども原子力事業者(電力9社、日本原子力発電、電源開発)は、この新規制基準に的確に対応することはもちろんですが、可能な限りリスクを低減していく必要があります。
二度と福島第一原子力発電所と同様の事故を起こさないため、また皆さまからの原子力事業に対する信頼を回復していくために、私ども原子力事業者は自主的かつ継続的に安全性を向上させていきます。

福島第一原子力発電所事故を受け、様々な安全対策を実施しています

福島第一原子力発電所の事故以前から、原子力発電所では安全を確保するため、「機械は故障する」「人はミスをする」ことも考慮し、何重もの安全対策を講じる「多重防護」の考え方に基づいた対策を実施してきました。
しかし、福島第一原子力発電所では、大地震の後に発生した巨大な津波によって炉心を冷却する機能が全て失われたことにつながりました。

私ども原子力事業者は、この福島第一原子力発電所の事故を重く受け止め、その教訓から事故直後の緊急安全対策や新規制基準への的確な対応を含め、様々な安全対策を講じてきました。大規模より、放射性物質を放出する重大な事故にな地震や津波の想定を見直すとともに、過酷事故が発生した場合などあらゆる事態を想定し、ハード面の取り組みのみならず、訓練の充実などソフト面の取り組みも強化しています。

経営トップが先頭に立ち、組織が一丸となって原子力のリスクと向き合います

私ども原子力事業者は、「自主的・継続的に安全性を向上させる活動を推進していかなければ、日本の原子力に明日はない」という強い危機感を抱いています。このため、経営トップ自ら原子力のリスクと向き合って対処する、リスクガバナンスを強化しています。
そのひとつとして、頻度は少なくても万一発生すると甚大な被害が予測される事態のリスク評価(確率論的リスク評価:PRA)や、原子力リスク研究センター(NRRC)※が保有する安全対策上の土台となる知見等の活用など、原子力発電所の安全をより一層向上させるよう取り組んでいます。
また、リスクに柔軟に対応できる強い組織の実現に向け、安全に対する社内の意識を高めるとともに、経営トップによる揺るぎない安全意識を明確に示し、より迅速な意思決定ができる体制整備などを実施しています。
さらに、リスクマネジメントの確立を目指す中では、社内の原子力安全監視機能の充実はもちろんのこと、社外の知見を活用することも重要です。原子力発電所の実態を外部からの視点で評価してもらうため、原子力安全推進協会(JANSI)などによるピアレビュー(相互評価)も取り入れています。

※原子力リスク研究センター(NRRC)は、2014年10月にPRA手法およびリスクマネジメント手法の国際的な中核的研究拠点として設立された。

外部の視点を積極的に活用しながら安全性を追求します

JANSIは2012年11月、事業者と適切な緊張関係を保ち、原子力発電の安全性を牽引する独立した外部組織として発足しました。このJANSIによるピアレビューは、豊富な業務経験を持つ原子力の専門家らが、評価対象の原子力発電所を実際に訪問し、安全性や信頼性の確保に関する組織・管理体制などを評価するものです。評価に際しては、原子力発電所の現場を子細に見て回り問題点を探るなど、入念な観察が行われ、所員との面談や議論も行われます。
こうしたピアレビューの結果に基づき、ほかの原子力発電所にも水平展開したほうがよい「良好事例」だけでなく、より安全性・信頼性を高めるために必要な「要改善事項」について、原子力の担当部門のみならず、経営トップもJANSI から報告を受けます。経営トップから現場までが問題点などを正確に認識した上で、課題に真摯に向き合い、改善を図りながら安全性を向上させています。
今後はピアレビューなどで蓄積した知見をもとにJANSIにより発電所の安全レベルを総合的に評価する「発電所総合評価システム」が整備されます。これにより事業者が互いにより高い安全性を求めて切磋琢磨する環境を生み出します。

原子力の安全性向上に終わりはないとの覚悟で取り組みます

私ども原子力事業者は、経営トップのコミットメントのもと、リスクマネジメントをしっかり確立していくことが重要であると考えます。「原子力の安全性向上に向けた取り組みに終わりは無い」という考えのもと、原子力発電所のリスクに対し、常に向き合い、自主的安全性のさらなる向上にたゆまぬ努力を続けていきます。こうした安全確保を目指す不断の取り組みを通じ、皆さまからの信頼回復に努めていきます。

熊本地震による川内原子力発電所への影響について

熊本地方を中心に甚大な被害がもたらされましたが、川内原子力発電所の安全な運転に支障をきたすものではありませんでした

原子力発電所には、設定値以上の揺れを感知した場合に原子炉が自動的に停止する仕組みがあります。川内原子力発電所の自動停止設定値(岩盤上)は160ガルです。
一方、今回の熊本地震における最大の揺れ(岩盤上)は8.6ガルであり、川内原子力発電所の安全な運転に支障をきたすものではありませんでした。
また、原子力発電所の耐震設計において基準とする地震動(基準地震動)は、川内原子力発電所の場合、今回の震源である「布田川・日奈久断層帯」よりも敷地に近く影響が大きい3つの活断層をもとにした540ガルと、震源を特定しない地震動として620ガルを策定しています。つまり、今回の一連の地震における同発電所での最大の揺れ(8.6ガル)は、想定している基準地震動に対して、十分小さいと評価できる大きさです。

原子炉の自動停止

機器の故障や運転員の誤操作、さらに地震など緊急を要する異常を検知した場合にはすべての制御棒を挿入し、原子炉を自動的に「止める」設計になっている。

ガルとは?

地震動の加速度で一秒間にどれだけ速度が変化したかを表す単位。速度が毎秒1cmずつ速くなる加速状態を1ガルという。例えば、自動車が発進する時に、ある大きさの速度に達するまでの時間が短かければ短いほど大きな加速度が加わる。

益城町で観測された揺れと川内原子力発電所の基準地震動の関係

熊本県益城町の観測点における地表で1000ガルを超す大きな揺れが観測された際、同地点の地中岩盤で観測された揺れは最大250ガル程度でした。
地表で大きな揺れが観測されたのは、軟らかい表層地盤により揺れが大きく増幅されるためです。これに対し、原子力発電所は硬い岩盤上に設置しているため、大きな揺れになり難く、さらに今回は震源からの距離が遠いために減衰して小さな揺れとなりました。