FOCUS

2019.01

2020年以降のパリ協定実施へ
COP24で運用ルールが採択

地球温暖化対策について議論する国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が、昨年12月にポーランドで開催されました。今回の会合では、2015年のCOP21で採択された「パリ協定」の確実な実行に向けて、先進国や途上国を含むすべての国が共通したルールのもとで、温室効果ガスの削減に取り組むことなどが合意されました。

パリ協定実施に向けて
共通ルール適用で合意

パリ協定は、世界の気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑える(可能な限り1.5℃未満に抑える努力をする)ことを目標に掲げた国際協定となります。今回のCOP24では、2020年以降にパリ協定を本格的にスタートさせるため、協定の実施に必要となる具体的な運用ルール(実施指針)について話し合いが行われました。

運用ルールの策定に向けては、国別の温室効果ガス削減目標(NDC)に書き込む情報や資金援助、NDCの達成状況を国連に報告・検証する透明性確保の枠組み、市場メカニズムなどの項目が議論されました。

採択された運用ルールでは、パリ協定のすべての締約国に対して、削減目標の基準年を盛り込み、国連への報告を義務づけることが決まりました。一方、先進国のような技術を持たない途上国は削減目標の検証作業に対応できない恐れがあるため、国の能力に応じて運用ルールの柔軟な適用をある程度認めることとされました。ただし、柔軟性を適用する妥当性や、いつまでに先進国と同様のルールに移行する予定かを、途上国自身が説明することを求めるといった条件も付けられています。

また、資金面の議論については、先進国が途上国に対して、将来の支援額を2年ごとに報告することなどで合意。技術移転による海外での排出削減の取り扱いを定める市場メカニズムについては、結論が先送りされました。

COP24では、運用ルールのほかにも、パリ協定の削減目標の引き上げを促す「タラノア対話」と呼ばれる会合も実施されました。事前の実務者レベルの対話を経て、COP24で閣僚級の対話が行われましたが、合意文書には目標引き上げに関する直接的な表現は盛り込まれませんでした。

一方、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が昨年10月、地球温暖化による気温上昇を1.5℃未満に抑える必要性を強調した報告書をまとめており、閣僚級のタラノア対話でもIPCC報告の重要性を指摘する声が挙がったことから、合意文書には「タラノア対話の成果を考慮しNDCを準備すること」が記載されました。

地滑りにより鉄塔が倒壊した現場での復旧工事(北海道むかわ町)

パリ協定の運用ルールが採択され喜び合うクリティカ議長(右から2人目)と各国代表団=2018年12月15日、ポーランド 提供:AFP=時事

エネルギーミックスを追及し一層の温室効果ガス削減へ

日本はパリ協定の国際約束として、2030年のCO2 排出量を2013年比で26%削減する目標を掲げました。こうした国際的な約束の履行に貢献していくため、電気事業者は2016年に「電気事業低炭素社会協議会」を設立し、温室効果ガスの削減に向けて自主的な取り組みを進めています。

同協議会が昨年9月に発表した2017年度CO2排出実績(速報値、会員43社)は、CO2排出量が前年度比4.4%減少、CO2排出係数は同3.9%減少となりました。これは、原子力発電所の再稼働により発電時にCO2を排出しない原子力発電電力量が増加したことに加え、太陽光や風力、水力発電など再生可能エネルギーの活用や、最新鋭の高効率火力発電設備の導入による熱効率改善などに継続的に取り組んだことによるものです。

今回のCOP24においては、わが国がこれまで自主的な取り組みで培ってきた経験や知見を踏まえ、実効性と公平性が確保されたルール作りが進められたと考えています。事業者としては引き続き、「S+3E」の観点から、最適なエネルギーミックスを追求することにより、地球規模での温室効果ガス削減に貢献してまいります。

原子力発電所の使用済燃料の適切な管理と
貯蔵能力の拡大に取り組んでいます

電力9社と日本原子力発電は、原子力発電所で使い終えた使用済燃料の安全かつ適切な管理と、使用済燃料の貯蔵能力拡大などに計画的に取り組んでいます。

安全かつ計画的な取り組みで
使用済燃料の貯蔵対策を推進

原子力事業者は、2015年に提示された国の「使用済燃料対策に関するアクションプラン」に基づき、「使用済燃料対策推進計画」を策定して使用済燃料の適切な管理に取り組んでいます。また、昨年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画において、中間貯蔵施設や乾式貯蔵施設などの建設・活用に関して幅広い可能性を検討するとともに、事業者が共同・連携して事業推進を検討する必要性が示されました。

これを受けて、昨年11月の第4回「使用済燃料対策推進協議会」では、使用済燃料対策推進計画を一部修正し、事業者として使用済燃料対策を一層強化していく方針を公表しました。

具体的な取り組み事例としては、中部電力が2008年に建設計画を公表した乾式貯蔵施設について、2015年に原子力規制委員会へ設置変更許可申請を行い、審査を受けているところです。四国電力でも伊方発電所敷地内に乾式貯蔵施設を建設するため、昨年5月に原子力規制委員会へ設置変更許可申請を行い、現在安全性などの審査が進められており、2023年度の運用開始を目指しています。

中間貯蔵・乾式貯蔵は、原子燃料サイクルの重要なプロセスの一つであり、中長期的なエネルギー安全保障にも有効な取り組みとして、エネルギー基本計画にも位置づけられています。事業者としては、今回更新した使用済燃料対策推進計画の実現に向けて、中間貯蔵や乾式貯蔵の着実な推進、燃焼度向上研究などを通じた使用済燃料発生量の低減などに、安全かつ計画的に取り組んでいく考えです。さらに、地域の皆さまへの積極的な理解活動に努めるとともに、事業者間の連携を一層強化し、使用済燃料対策を充実・強化してまいります。

  • 東京電力の応援派遣(発電機車による送電)

    全体鳥瞰図

  • 新門司港から派遣される九州電力の発電機車

    一部断面図

  • 電気事業連合会 会長
  • 勝野 哲Satoru Katsuno

新年にあたり

2019年の電力業界

平成から新しい年号に変わる今年は、わが国でラグビーワールドカップが開催されます。そして来年の2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが開催されるなど、今後は国際的に注目されるイベントが目白押しです。我々電気事業者としても、イベントの成功には欠かせない、電力の安定供給に全力を尽くしてまいります。

一方、電力業界にとっての2019年は、電力システム改革の総仕上げの年と位置づけられます。来年4月の送配電部門の法的分離を視野に入れた取り組みのほか、電力の安定供給と競争促進の両立を目指した様々な市場の整備などが予定されており、業界を挙げて積極的に対応していく必要があると考えています。

温暖化防止のため
省エネ、原子力を活用

昨年12月には、ポーランドで気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)が開催され、パリ協定の具体的な実行への議論が行われました。電気事業者としては、引き続き、「S+3E」の観点から、最適なエネルギーミックスを追求し、地球規模での温室効果ガス削減に貢献してまいります。

国内に目を転じると、再エネの普及に加え、原子力発電所の再稼働などにより、東日本大震災後に一時増加した二酸化炭素(CO2)の排出量・排出係数は年々減少傾向にあります。再エネは低炭素社会の実現を目指す上で重要な電源となります。同時に、その普及には国民負担の抑制、安定供給の確保といった課題をクリアしていく必要があります。私ども電気事業者としましては、特定の電源に偏ることなく、火力や原子力、再エネなど多様な電源をバランスよく活用するエネルギーミックスの実現を目指す中、設備の運転・保守を確実に実施し、自然災害への備えもしっかりと行い、電力の安定供給という変わらぬ使命の完遂に引き続き取り組んでまいります。

国内の原子力発電所は、国の安全審査に合格した加圧水型(PWR)の9基が再稼働し、安定的な運転に努めています。一方、いまだ多くの原子力発電所が停止しており、電力供給を老朽火力発電所に大きく依存する状況に変わりはありません。CO2排出量の削減や電気を安定してお届けする上で、原子力発電の果たす役割は極めて大きく、沸騰水型(BWR)も含め、現在停止中の原子力発電所についても、安全を大前提とし、一日も早い再稼働を目指してまいります。さらに、原子燃料サイクルの確立に向けた六ヶ所再処理工場の安全な操業に向けた取り組みや、原子力事業者の自主的な取り組みを通じたさらなる安全性向上や経済性の追求にも全力で取り組んでまいります。

その先の未来に向けて

国内のエネルギー市場では、loT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの新しいデジタル技術を活用したサービスが創出されるなど、経済・社会の構造が〝Society5.0〟に向けて大きく変貌を遂げようとしています。

また、向こう10年は、2025年の大阪万博、2027年のリニア新幹線開業など、わが国の社会・経済にとっての転換期と重なります。私どもとしても、こうした新技術を積極的に取り入れながら、信頼性と効率性に優れた、高度なエネルギーインフラの構築を目指すとともに、変化を新たな成長のチャンスと捉え、様々な取り組みに果敢に挑んでまいります。