• ユニバーサルエネルギー研究所
    代表取締役社長・工学博士
  • 金田 武司氏Takeshi Kaneda
VOICE

2017.11

日本のエネルギーのあるべき姿 歴史的経緯も踏まえた議論を

国の「エネルギー基本計画」についての議論が進められる中、日本の実情に合ったエネルギー供給を考えていく上で大切な視点は何か、お話をうかがいました。

日本のエネルギーのあるべき姿を考える上で、エネルギー利用の変遷や歴史的経緯を振り返ることは重要です。
日本は明治、大正時代に多くの労力や犠牲の上に国産エネルギーである石炭・水力資源を手に入れ、電気の利用を始めて豊かな国家への道を歩み出しました。昭和に入りエネルギー源は石油へとシフトしますが、国産でないエネルギー資源に頼ることで、供給途絶など様々なリスクを背負うことになりました。
日本は、世界で唯一の被爆国であるにもかかわらず、戦後すぐに、原子力発電の利用という重い決断をします。その理由は、当時の政治家をはじめ多くの人々が、エネルギー資源の途絶が無謀な戦争の一因となったことを深刻に受け止めていたからではないでしょうか。

パイプラインや送電線が隣国とつながっていない日本は、エネルギー供給の安定化の面で欧州諸国にはない特殊な事情を抱えています。ほとんどの原子力発電所が停止している中でのエネルギー供給の脆弱性、経済的なリスクについては、日本の貿易収支が、多くの原子力発電所が停止した2011年に赤字に転じた例を見ても明らかです。
化石燃料のほとんどを輸入に頼る日本の現状は、原子力利用にかじを切ったおよそ60年前以上に危うい状況です。日本が原子力発電を選択したのは、最低限海外に頼らず、自立できるエネルギーを手に入れることが、国の発展に不可欠だと考えたからです。こうした歴史的な経緯を、いま一度検証してみる必要があるでしょう。
現在、エネルギー基本計画に関する議論が進められていますが、専門家だけでなく多くの人々が身近な問題として理解する上で、エネルギーに関わる現状や環境は分かりにくいと言われています。一つひとつの課題に着目しつつ、事実をつなぎ合わせたストーリーとしての理解も大切です。

エネルギーはすべての経済・産業活動や、私たちのくらしを支える基盤であり、重要なのは、エネルギーセキュリティの確保、経済合理的なエネルギーシステムの確立、リスクの低いエネルギー利用の実現です。50年以上先も見据えた現実的なシナリオを描き、その実現に必要な政策について議論が進展することを期待しています。

(2017年10月12日インタビュー)

PROFILE

東京都生まれ。東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻博士課程修了、工学博士。1990年三菱総合研究所入社。同社エネルギー技術研究部先進エネルギー研究チームリーダー兼次世代エネルギー事業推進室長プロジェクトマネージャーなどを務めた。2004年ユニバーサルエネルギー研究所を設立。国内学会や政府、自治体の委員など公職を歴任する。