• 伊藤リサーチ・アンド・
    アドバイザリー
    代表取締役兼アナリスト
  • 伊藤 敏憲Toshinori Ito
寄稿

2020.06

発送電分離、料金影響は当面なし
安全・安定供給の命題は変わらず

電力会社の送配電部門が法的分離される「発送電分離」が今年4月に行われ、一貫体制が維持される沖縄電力を除く電力9社と電源開発(Jパワー)の送配電部門が分社化されました。

東京電力と中部電力は、持株会社の下に発電・送配電・小売の各電気事業者を配する持株会社方式、他電力は、発電および小売事業を運営する親会社の下に送配電事業者を置く発電・小売親会社方式を採用しました。送配電事業者は100%子会社ですが、役職員の兼職の禁止、厳格な情報遮断などによって、従来から行為規制されていた電力会社と他事業者との公平性はより一層確保されるようになりました。

送配電事業の地域独占体制は維持されています。供給地域・条件ごとに一律の託送料金(小売事業者が送配電事業者に支払う費用)を算定する仕組みは原価に一定の利潤を上乗せする総括原価方式のまま変わらず、発送電分離によって原価が低減されるわけではありませんので、電気料金には当面ほとんど影響しないと予想されています。また、新電力や太陽光・風力などの再エネを含む発電事業者の経営にもほとんど変化は生じていません。よって発送電分離による影響や課題は規制当局と電気事業者の今後の対応によって左右されることになると考えられます。

送配電事業者にとって、経済活動や住民の暮らしに必要不可欠な電気を、安全に配慮しながら高い品質で届ける「安全・安定供給の実現」が命題であり続けることに変わりはありません。適正な周波数や電圧の維持、停電の防止、トラブル発生時の早期復旧などを図るためには、刻一刻と変化する需要と天候によって左右される太陽光・風力の発電量を、火力や水力による発電量、蓄電設備の充放電、送配電設備の正確な運用などによって、供給地点ごとに正確にコントロールし続けなければなりません。

近年多発するようになった大規模自然災害への対応、太陽光・風力の大量導入に伴う送・蓄電設備の増強などを行いながら、託送コストを抑制するためには、従来から個社で取り組んでいた方策にとどまらず、設備・機器・資材の仕様や発注方法の見直し、資機材の共同調達、工事や保守・メンテナンスの共同事業化、アウトソーシングなどの実施や深堀、さらには地域や業種の垣根を超えた再編・集約なども必要になると思われます。

PROFILE

三重県生まれ。東京理科大学卒、1984年大和証券入社。大和総研、HSBC証券、USB証券で一貫して調査研究業務に従事し、2012年に伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリーを設立。エネルギー業界に精通し、審議会・研究会等の委員を歴任。