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2024.11
メカニズムに迫り 安全性の高みを
~電力中央研究所 人工バリア「ベントナイト」研究~

ベントナイトの膨潤による変形などを試験・観察する装置
世界中に埋蔵されている「ベントナイト」という物質は、有用な特性を持つことから化粧品や、ペット用品など広く使用され、「1000の用途がある粘土」といわれます。
その特性とは、水を吸うと膨らむ「膨潤性」と、膨潤することで水の通り道をふさぎ、流れを極めて遅くする「低透水性」です。高レベル放射性廃棄物の地層処分では、廃棄物が地下水に触れる可能性を低減するとともに放射性物質の移動を遅くする人工バリアとして、ベントナイトの活用が検討されています。電力中央研究所サステナブルシステム研究本部地質・地下環境研究部門では、より安全な廃棄物処分場建設へ向けた知見蓄積の一環で、ベントナイトが特性を発揮するメカニズムを研究しています。
同研究部門の一員である吉川絵麻さんは、大学院でボーリング用泥水を活用した地盤工学を研究した後に、入所して4年目。現在は、ベントナイトに発生する現象の一部をクローズアップして、実験室で再現する要素試験に取り組んでいます。
例えば超長期の埋設を踏まえると、地中で力が加わり、ベントナイトの中でずれやすべりが生じる「せん断」という状況も想定する必要があります。吉川さんは、専用の装置を用い、ベントナイトにせん断を起こした状態で水を通す実験を行いました。一見、せん断面に水が入り込むと思われますが、ばらばらだったベントナイトの粒子がせん断力により同じ向きにそろえられ、隙間がより小さくなり、かえって水を通しづらくなる性質を明らかにしました。
ベントナイトは産地などによって、構成する鉱物の比率やミクロの構造が異なります。それらがどのように膨潤性や低透水性に影響するのかも追究しています。知見が蓄積されれば、地層処分向けにより適した産地からの調達が可能になります。
何万年といったスケールの中で生じる現象を理解するため、1つの実験に半年~1年程度を要し、試験計画から報告書・論文の作成までの期間は3~5年にも及びます。「これまでの常識が必ずしも正しいとは限らない。固定観念にとらわれず、現象を自身の研究データに基づき解釈することを心がけている」。吉川さんは信頼に足る判断材料を提供できるよう、所内外の多角的な視野を大切にして、研究に向き合っています。

乾いた状態(右)と水を吸った状態の同量のベントナイト(左)。高い膨潤性が分かる

ベントナイトの産地による性質の違いを解説する吉川さん
全ての人が輝ける社会へ
電力各社の障がい者雇用の取り組み
電力各社は、多様な人々が自分らしく働ける環境の実現への一環として、障がい者雇用に力を入れています。そこで大きな役割を果たしているのが、一人一人の障がい者により適した業務、配慮した環境の提供につながる「特例子会社」制度です。法律により企業は一定割合の障がい者を雇用することが義務付けられていますが、特例子会社を親会社の事業所と見なして雇用率を算定することができます。
電力各社の多くはこの制度を活用して特例子会社をグループの中に設けています。一般に特例子会社はグループ企業の間接業務支援や清掃などを手掛けることが多いですが、それぞれの経営資源や地域とのつながりを生かし、特色ある事業も展開しています。
電力業界の特例子会社の中で最も歴史の長い関西電力グループのかんでんエルハートは、昨年に設立30周年を迎えました。郵便物の仕分けや花壇の世話などのほか、電力グループならではの事業として「電線リサイクル」を手掛けています。同事業では関西電力送配電から劣化した銅電線を買い取り、銅をリサイクルして電線メーカーなどに売却しています。このほか、老朽化したパソコンを新品同様にリサイクルする「リファービッシュ」事業などの新事業にも取り組んでいます。
東京電力グループの東電ハミングワークは、回収した電力量計を解体、清掃、検査して再利用するリユース事業を手掛けています。また首都圏で他のグループ会社と福島県の物産販売イベントを共催するなどして、グループの果たすべき使命である「福島への責任」の実践に努めています。
九州電力グループのQ-CAP(キューキャップ)は、福岡市の全民放テレビ局との共同出資という珍しい事業体制です。字幕の制作を手掛けており、九州エリア内外の民放局やNHKなどから、テレビ番組やテレビCM、YouTube用の字幕などを幅広く受託。聴覚障がい者や高齢の方が映像から情報を受け取る助けとなっています。今年の4月から障がい者法定雇用率は2.3%から2.5%に引き上げられました。電気事業連合会会員各社は全て、グループとしてこの基準を上回る水準で雇用を維持しています。法定雇用率は2026年には2.7%へさらに引き上げられる予定であり、電力業界は引き続きしっかりと取り組みを進めていきます。

※沖縄電力は特例子会社制度を利用せず障がい者雇用に取り組んでいます。