FOCUS

2020.06

送配電部門の法的分離(発送電分離)実施
2020年4月、電気事業の新たな時代が幕開け

大手電力会社の送配電部門を法的に分社化する「発送電分離」が本年4月1日に行われました。これまで進められてきた発電や小売りの自由化によって大手電力会社以外にも多くの事業者が送配電設備を利用するようになる中、送配電事業の一層の中立性を確保することがその目的です。日本の電気事業にとってエポックメイキングな出来事であるこの発送電分離について、その概要をご説明いたします。

システム改革最終段階

日本の電気事業は戦後長らく、大手電力会社が地域ごとに発電から送配電、小売りまでを担う「垂直一貫体制」が取られてきました。1995年から発電や小売りの分野で競争の導入が段階的に進められ、2015年からは「電力システム改革」が始まりました。2011年の東日本大震災による情勢変化などを踏まえ、①電力の安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③電気利用の選択肢や企業の事業機会の拡大——を図ることが電力システム改革の目的です。その一環として、2015年には電力広域的運営推進機関(広域機関)の設立、2016年には電力小売り全面自由化や、発電事業・送配電事業・小売り事業へのライセンス制の導入が行われました。

今回行われた発送電分離はこの「電力システム改革」の最終段階に当たります。発電や小売りの自由化によって新たに参入してきた事業者が大手電力会社の送配電設備をより公平に利用できるようにするため、送配電事業の中立性をさらに高めることが狙いです。

送配電部門を分社化

発送電分離は具体的にどのように行われたのでしょうか。送配電部門の分社化には二通りのやり方があります。発電、送配電、小売りなど各事業会社の上にホールディングカンパニーを置く「持ち株会社型」と、発電・小売り会社が送配電会社の親会社となる「発電・小売り親会社型」です。東京電力は、2016年のライセンス制導入に合わせていち早く持ち株会社型に移行し、一般送配電事業者の「東京電力パワーグリッド」を設立しました。一方、沖縄電力を除くその他の大手電力会社8社とJパワーは、本年4月に一般送配電事業者の分社化を行いました(沖縄エリアは発送電一貫を維持)。このうち中部電力は東京電力と同じ持ち株会社型、その他の各社は発電・小売り親会社型の形態を取っています。

全国大での需給調整や発電設備の効率的な活用、地域間連系線の整備については、2015年に発足した広域機関が担います。一般送配電事業者10社は引き続き各エリアの電力安定供給の責務を負い、送配電網の建設・運用・保守や電力需給管理といった役割を果たしていきます。安定供給維持のため、一般送配電事業者は「送配電網運用委員会」を組織し、広域機関や送配電網の利用者に対して実務者の立場からルールなどを提言していきます。

電力システム改革の工程

広域化のメリット

一般送配電事業者はそれぞれのエリアで電力の需給バランスを維持していかなくてはなりませんが、近年の再生可能エネルギーの急拡大により、その業務は複雑化・高度化しています。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは天候によって発電量が変動するため、その普及が拡大すればするほど、需給バランスを調整するための発電設備(調整力)が多く必要になり、コストもかかります。そのコストは、送配電網の利用者が支払う託送料金(送配電ネットワークの利用料金)に跳ね返ってきます。一般送配電事業者各社はコスト削減に努めていますが、今後、広域機関の下で調整力を広域的に調達・運用できれば、エリアごとに調整力を用意するよりも全体としてのコストを抑制することができると期待されています。

課題に対応し発展を

過去の「垂直一貫体制」にはメリットもありました。発電から送配電、小売りまでを大手電力会社が一貫して行うことで、計画的な設備開発が可能になり、過剰な投資を避けることができました。また、災害時には各部門が連携して早期復旧が可能になっていました。発送電分離によって、こうしたメリットが損なわれることがないよう、一般送配電事業者各社における取り組みはもとより、国においても制度設計の議論が進められてきました。

現在、高度経済成長期に大量に建設された送配電設備の経年化が進み、一斉に改修時期を迎えています。また、近年の大規模自然災害の増加を踏まえ、エリア間で電力を融通するための送電設備の増強も不可欠です。こうした費用を確保し、電力の安定供給を維持していくため、現在、国が託送料金の制度改革を進めています。また、電力供給の信頼度維持・向上に向けたレジリエンス強化にも引き続き取り組んで行く必要があります。

私ども電気事業連合会としても、送配電部門の法的分離後も、電力の安定供給確保に向けた取り組みに終わりはないと考えています。本年4月には電事連内に「送配電網協議会設立準備室」を設置しました。2021年4月に一般送配電事業者が設立する「送配電網協議会」の準備組織です。送配電網協議会は系統・需給運用、設備計画、需給調整市場に関する業務など技術的事項を中心に、一般送配電事業者と連携して業務運営を進めます。もちろん、中立性・透明性を確保する観点から、電事連とは独立した組織となります。今後は準備室において、同協議会の詳細を検討していきます。

一般送配電事業者の供給区域
  • 電気事業連合会 会長
  • 池辺 和弘Kazuhiro Ikebe

ご挨拶

課題解決に向け、着実に前進

本年3月、電気事業連合会会長を拝命いたしました。原子力発電に関する諸課題に加え、電力システム改革への対応、電力レジリエンス強化、地球温暖化対策など、課題が山積する中で大役を仰せつかり、責任の重さに身の引き締まる思いです。

業界大でコロナ対策

新型コロナウイルスに感染された方に、心よりお見舞い申し上げますとともに、新型コロナウイルス感染症に日々ご対応されている国や自治体、医療従事者をはじめ、多くの皆さまのご尽力に対しまして、改めて感謝申し上げます。

電力各社では、新型インフルエンザなど感染症のパンデミックに備えて策定した、電力の安定供給を維持するための事業継続計画(BCP)に基づく業務運営を行っております。電気事業者は指定公共機関に指定されていますが、関係者の皆さまの努力のおかげで、電力の安定供給を達成できていることを誇りに思います。

今後も、重大な危機感を持って動向を注視し、引き続き、電力業界全体で新型コロナウイルス感染症対策に取り組み、電力の安定供給に万全を期してまいります。

信頼回復へ指針改定

関西電力における金品受け取り問題につきましては、私ども電気事業連合会としても大変重く受け止めており、昨年10月に電力各社の社長が参加する「企業倫理等委員会」を設置し、電力業界の信頼回復に向けて活発な議論を行ってまいりました。本年5月には、「電気事業連合会行動指針」を改定し、常識の範囲を超える接待・贈答・金品の授受、合理性のない特命発注、寄付金や協力金の不適切な支出を行わないことなどを明示いたしました。

私ども電気事業者としましては、企業倫理等委員会などの会議体において各社の取り組みを共有し、その内容を議論することを通じて、トップとして風化させない取り組みを継続し、電気事業に対する社会の皆さまからの信頼回復に努めてまいります。

課題対応しっかりと

現在、人類は「地球温暖化」という最大の課題に直面しています。この課題を解決するため、二酸化炭素を排出しない電源をいかに導入していくか議論が行われていますが、「再生可能エネルギーか、原子力か」という二項対立ではなく、双方を組み合わせて活用し、最終エネルギー消費に占める電力の割合を増やしていくことが必要です。二酸化炭素を排出しない電源の確保及び電化の推進について、電力事業者としてしっかりと取り組んでまいります。

まず、一日も早い原子力発電所の再稼働に向け、審査に真摯に対応するとともに、自主的・継続的な原子力発電の安全性確保に取り組んでまいります。原子燃料サイクルや廃炉、高レベル放射性廃棄物の最終処分といった原子力事業者に共通する課題についても、関係事業者間で連携しながら取り組みを加速してまいります。

また、再生可能エネルギーの主力電源に向けた制度改革や電力レジリエンスの強化に資する託送料金制度改革などについては、将来にわたる安定供給や「S+3E」を実現するにあたり、極めて重要であると考えており、持続的な安定供給に資する制度措置の実現に向けて、電気事業者としてしっかりと協力してまいります。

電力各社の社長と力を合わせて、こうした諸課題を少しでも解決し、電気事業の発展を通じて我が国の経済や国民生活の向上に貢献できるよう力を尽くしてまいります。

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