FOCUS1

2021.06

ALPS処理水の海洋放出って、本当に大丈夫?

  • 東京電力ホールディングス(以下、東京電力)福島第一原子力発電所で発生したALPS(アルプス)処理水について、政府は2021年4月に海洋放出(図-1)による処分方針を決定しました。方針決定から2年程度後の放出開始に向け、東京電力が準備を進めています。政府は風評影響を最大限抑制するとともに、産業復興などに取り組むとしています。今回は、ALPS処理水とそれに含まれる「トリチウム」について、皆さまの疑問にお答えします。

  • 図-1 海洋放出とは?

トリチウムは、私たちの体に影響があるの?ないの?

Q1トリチウムって何?

A1水素の仲間で放射線を出します
自然界でも発生し、私たちの身近にも存在します

トリチウムは水素の一種です。普通の水素に比べて原子核を構成する中性子の数が多く、「三重水素」とも呼ばれています。原子核が不安定なため、安定した物質(ヘリウム)に変化しようとする際に放射線(ベータ線)を出します。

地球に降り注ぐ宇宙線(宇宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線)が大気と衝突すると、天然のトリチウムが生成されます。その数は手のひら程度の面積(10×10cm)で1秒間に20個ほど。自然発生するトリチウムと、放射線を出してヘリウムに変化するトリチウムの量が釣り合って、環境中のトリチウムはほぼ一定(100京~130京ベクレル)に保たれています。トリチウムの多くは、他の水素と同じように酸素と結びつき、「水」の形で存在しており、雨水、水道水にも含まれています(日本の場合、雨水には年220兆ベクレル、水道水には1リットルに1ベクレル以下)。人間の体にも微量のトリチウム(数十ベクレル)が存在しています。

Q2自然界のトリチウムと、
福島第一原子力発電所事故でできた
トリチウムは違うものでしょう?

A2自然界のトリチウムも原子力事故でできたトリチウムも同じものです

国内外の原子力施設(原子力発電所や再処理施設など)でもトリチウムが発生しています。これらは天然のトリチウムと全く同じものです。

原子力施設のトリチウムの多くは原子炉内に閉じ込められていますが、一部(燃料交換などの際に炉外に出たものなど)は濃度を下げ、各国の規制基準を満たした上で、海や大気などに排出されています。福島第一原子力発電所事故で発生したトリチウムも、これら原子力施設のトリチウムと違いはありません。現在、汚染水の処理過程で発生したトリチウムや他の放射性物質は適切に管理されています。

Q3トリチウムはDNAを損傷させたり人体に影響があると聞いたので怖い

A3外部被ばくの影響はほとんどなく、
体内に取り込んだ場合も水と同じように排出されます

トリチウムが放出する放射線(ベータ線)はエネルギーが小さく、服や皮膚を通過できないため、体外から放射線を受ける外部被ばくの影響はほとんどありません。一方で水や大気に混じって体内に入った場合の内部被ばくによる影響を考えてみると、放射線はDNAに損傷を与えますが、細胞にはそれを修復する仕組みが備わっています。紫外線などもDNAに損傷を与えますが、大半はすぐに修復されます。放射線による損傷がわずかであれば、これらと変わりません。

トリチウムは大部分が水の状態で存在し、水と同じように排出され、体内で蓄積・濃縮されないことが確認されています。体内に入ったトリチウムは10日程度で半分が体外に排出されます。タンパク質などの有機物に結合して体内に取り込まれたトリチウム(有機結合型トリチウム)でも、多くは40日程度で体外に排出されます(一部は排出されるまで1年程度かかります)。

福島第一原子力発電所の
タンクの中にはトリチウム以外の
放射性物質もあるって本当?

Q4トリチウム以外の放射性物質もあるのなら、海洋放出は危険では?

A4ALPS処理水を海洋放出した場合の放射線影響は、
自然界から受ける影響の10万分の1未満です

ALPSには、トリチウム以外の62種類の放射性物質を規制基準値未満まで浄化する能力があります。しかし、タンクに保管されている水の約7割には、トリチウム以外にも、規制基準値以上の放射性物質が残っています。事故発生からしばらくの間、敷地外への影響を急いで下げるため、量を優先して処理を進めたことが原因です。

このため、放出前には必要に応じ再浄化を行い、トリチウム以外の放射性物質を規制基準値未満まで除去する方針です。さらに、ALPSでは取り除けないトリチウムとともに、大量の海水(100倍以上)で薄めることで、トリチウム以外の放射性物質の濃度はさらに下がり、規制基準値をはるかに下回ることになります。日本人が1年間に自然界から受ける放射線の影響は2.1ミリシーベルトですが、海洋放出した場合の1年間の放射線の影響は0.0000018~0.0000207ミリシーベルトとその10万分の1未満になります(図-2)。

図-2 放射線の影響

国連科学委員会(UNSCEAR)2008年報告書、(公財)原子力安全研究協会「新版生活環境放射線(平成23年)」、ICRP「Publication103」他より作成

Q5放出時に海水で薄めてもトリチウムの量自体は変わらないのでは?

A5規制基準を十分に下回るレベルまで処理・管理したうえで、計画的に放出します

大量の海水で薄めることにより、ALPS処理水のトリチウム濃度は1リットルあたり1500ベクレル未満になります。これは、規制基準(1リットルあたり6万ベクレル)の40分の1、世界保健機関(WHO)の飲料水基準(1リットルあたり1万ベクレル)の7分の1に当たります(図-3)。

福島第一原子力発電所のタンクに貯められたALPS処理水等に含まれるトリチウムは2021年4月時点で約780兆ベクレル。それを一度に大量に放出するのではなく、事故前の福島第一原子力発電所の放出管理値である年間22兆ベクレルを上限とし、これを下回る水準で放出します。放出は長期間にわたりますが、国や東京電力が責任を持って対応していきます。

図-3 海洋放出時のトリチウム濃度

経済産業省資料より作成

Q6そもそも、トリチウムは除去できないの?

A6「水」として存在しているため、非常に困難です

ALPSは、活性炭や吸着材による吸着など、物理的・化学的性質を利用した方法で放射性物質を除去しています。しかし、トリチウムは水として存在しており、物理的・化学的性質は普通の(トリチウムを含まない)水と変わりません。普通の水とトリチウム水を分けることは、水から水を取り除くのと同じで非常に困難です。

近畿大学などは、たくさんの微細な穴を持つ「多孔質体」を用い、トリチウム水を分離・回収する技術を開発していますが、福島第一原子力発電所のALPS処理水を対象とする場合、実用化までにはまだまだ時間を要します。政府と東京電力はこうした新たな技術開発動向を今後も注視していく考えです。

風評被害が心配
海洋放出は世界の周辺各国にも迷惑をかけるのでは?

Q7風評被害を抑制するにはどのような情報発信が必要なの?

A7国内外に向けて正確かつタイムリーに情報を発信する必要があります

政府と東京電力は、ALPS処理水を放出する際には、規制基準を大幅に下回ることで安全性を確保するとともに、風評被害を抑制していく考えです。また、地元自治体や農林水産業者なども参画の上、放出前後のモニタリングを強化する方針です。さらに、国際原子力機関(IAEA)の協力を得て、処理水の安全性について国内外にモニタリングの客観性・透明性を広く発信していきます。その上で、風評被害対策に取り組んでいきます(表-1)。

表-1 風評影響への対応

「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」より作成

Q8海洋放出には周辺各国からも反対の声が多い

A8反対ばかりでなく、科学的見地から認める声も上がっています
また、海外の原子力施設も同様に放出を行っています

海洋放出方針の決定に対し、中国政府や韓国政府から懸念が表明されました。これに対しては、韓国国内からも科学的見地からの反論がありました。韓国の原子力学会は、ALPS処理水を仮に1年間で全て放出したとしても、「韓国の国民の被ばく線量は無視できる程度」との見解を発表しています。

また、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出について「技術的に実行可能で、国際慣行に沿う」との声明を出しました。その後、韓国政府も「IAEAの基準に適合する手続きに従うなら、あえて反対するものではない」と理解を示しています。また、海外の原子力施設も同様に、福島第一原子力発電所のALPS処理水に含まれるトリチウムと同等か、それ以上の量を毎年環境中に放出しています(表-2)。それらは特に問題になっていませんし、健康への影響も確認されていません。

表-2 海外の原子力施設から排出されているトリチウム量

経済産業省資料より作成

海洋放出以外にも方法はあるはず
きちんと検討してから方針決定すべきだったのでは?

Q9トリチウムを取り除く技術があるのに、安全よりもコストを優先しているのでは?

A9他の処分方法と比べ
現実的で確実な方法を選択しました

ALPS処理水の処分に関し、立地自治体からは、根本的な解決を先送りせず、国が責任を持って対応策を早急に決定すべきという声が寄せられてきました。国の有識者による小委員会では、技術的に実施可能とされた5つの処分方法(①地層注入、②海洋放出、③水蒸気放出、④水素放出、⑤地下埋設)を検討しました。

このうち、①、④、⑤については、表-3で示したような課題が指摘されています。また、同小委では、さらなる長期保管についても検討しましたが、「敷地内外における現行計画以上のタンク増設は限定的」との結論に達しました。

これらの議論を踏まえ、②と③が現実的な選択肢とされ、その中でも②海洋放出がより確実に実行可能であるとされました。これに対してはIAEAも「科学的・技術的根拠に基づくもの」と評価しています。

表-3 5つの処分方法に対する技術的評価 ※n=地層調査の実施回数

「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」報告書より作成

Q10海洋放出の方針決定にあたって、地元や漁業関係者とはしっかり議論したの?

A10これからも地元や関係者との対話を続けていきます

ALPS処理水の取り扱いを巡っては、国の「タスクフォース」や小委員会において、6年以上も専門家が議論を重ね、2020年2月に報告書をまとめました。

政府は、これらの検討状況について、地元自治体や農林水産業者を中心に、報告書公表以降だけでも数百回の報告や意見交換を実施。さらに、「関係者のご意見を伺う場」を開催し、地元自治体や漁業関係者などから意見を伺いました。並行して国民からの意見も公募し、意見を集めました。これらの意見では、風評被害への懸念が多く示されたため、政府は海洋放出の基本方針決定に当たり、前述したような風評被害対策を打ち出しました。また、基本方針を着実に実行していくため、新たに関係閣僚会議を設け、必要な追加対策を検討・実施します。海洋放出の準備・放出開始・放出後の各段階において、継続的な情報発信に努めつつ、関係者との対話を続けていきます。

SDGsの達成に向けた「地域共生の取り組み」のご紹介

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    各取り組みについて、電事連ホームページでご紹介していますので、ぜひご覧ください。

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