FOCUS

2025.05

急速に進化・普及するAI
将来の電力需要に大きく影響

AIが急速に進化・普及し、それを支えるデータセンターも規模拡大の動きが相次いでいます。これらは稼働に大量の電力を必要とすることから、国内外で将来の電力需要が大幅に増える見通しが示されています。これらに対応する電力の供給力確保が今後重要な課題になります。

負荷が増すデータ処理
増加する電力需要

私たちがスマートフォンやパソコンなどを通じて利用するAIは、IT会社が運営するクラウド上で動作しています。クラウドは多くの場合、データセンター上に構築されます。そして、データセンターでAIプログラムを処理するのがGPUなどの演算装置です。

例えば、ChatGPTに1回質問すると、Google検索の約10倍の電力量を消費すると言われています。一般にAIの処理は、高度で複雑になるほどGPUの稼働が多くなり、その分使用電力量も大きくなります。今後、AIの応用範囲が多様な分野に広がることも、電力需要を押し上げる要因となり得ます。

国際エネルギー機関(IEA)がこの4月に公表した報告書によると、2024年時点における全世界のデータセンターの使用電力量は、使用電力量全体の約1.5%にあたる約4150億kWhにのぼり、2017年以降、年率12%の割合で増加しています。これは、使用電力量全体の成長の4倍以上のスピードです。さらに、2030年までに全世界のデータセンターの使用電力量は、2024年比で倍以上の約9450億kWhに増加すると予想しています。(図2)

図1:AI需要とデータセンターの電力需要の関係
図2:IEAが予測する世界のデータセンター向け電力需要

出典:リポート「Energy and AI」(2025年4月発行)

日本も右肩上がりに
外資大手は積極投資

総務省と経済産業省によると、2024年時点で国内に少なくともサーバー面積ベースで約150万㎡のデータセンター(東京ドーム約30個分)が存在します。AI活用拡大を含むデジタル化の進展を踏まえ、国内各地で新増設計画が具体的に動いています。米国の巨大IT企業各社も、日本でAI関連投資を計画しており、今後データセンターとそこで消費される電力量は右肩上がりになると見込まれます。

再生可能エネルギー(以下、再エネ)の有効利用や省エネ技術の発達を踏まえつつも、今後の電力供給力はトータルで電力需要が増加することを前提に考えていく必要があります。

1月に公表された電力広域的運営推進機関(OCCTO)の全国需要想定によると、データセンターの新増設分として、2034年度には、2024年度と比べて年間需要電力量約440億kWh、最大需要電力約616万kWが増加すると見込まれています。(図3)

図3:日本の需要想定における、データセンター新増設に伴う個別計上値 電力広域的運営推進機関「2025年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について」をもとに作成

実装進展 予測難しく
電源の備えを着実に

AI技術がどの時点でどの程度の社会実装が進むか想定するのは極めて難しく、それに対応する電力供給力も予断なく考えていく必要があります。電力需要増に対応しながら、脱炭素も実現していくためには、再エネと原子力発電を最大限活用していく必要があります。

電力供給力が大きく不足すると、AI社会の発展を妨げたり、あるいはAI、データセンター以外の用途を含む電力供給の不安定化や価格高騰につながるおそれがあります。AIは再エネの最適な導入・運用などエネルギー分野でも既に活用されており、今後のGX(グリーントランスフォーメーション)を支える重要な技術の一つです。電力供給力の確保には年単位の時間が必要であり、急激な需要構造の変化に対応するには備えが欠かせません。

安定した脱炭素電源
あらためて注目高まる原子力

AI、データセンターなどによる電力需要増、加えてウクライナ侵攻を踏まえたエネルギーのロシア依存低減やカーボンニュートラルに向けた電化促進などの課題が浮上していることから、各国では安定した発電が可能な準国産エネルギーで、発電時に二酸化炭素(CO₂)を排出しない原子力発電を、あらためて評価する動きが相次いでいます。

米では巨大IT企業が
「3倍増」賛同表明

米国の金融サービス会社、S&Pグローバルが3月に同国で開いたエネルギー関係の会議「CERA Week2025」で、注目すべき宣言が採択されました。世界の原子力発電の設備容量を2050年までに現状の3倍に増やすことなどを掲げた内容で、米アマゾン、メタ(フェイスブックの運営会社)、グーグルといった巨大IT企業を含む電力多消費産業が名を連ねました。世界原子力協会(WNA)によると、原子力産業以外の大手企業が原子力拡大を公的に支持するのは初めてのことです。

同宣言では、多くの産業におけるエネルギー需要は今後数年間で大幅に増加すると見込まれていることから、「エネルギー供給のレジリエンス(強靱性)と安全保障の向上、安定したクリーンエネルギーの継続的供給という世界的な目標達成の支援へ、原子力発電容量を現状から2050年までに少なくとも3倍にする必要があることに同意する」としています。この宣言の中で原子力発電は、天候・季節・地理的な場所にかかわらず24時間エネルギーを供給できると述べられています。

データセンターをはじめとする電力多消費産業は、24時間365日定常的に一定規模の電力を使用するベースロード需要を生みだします。これらのカーボンニュートラル化へ向け、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や温室効果ガス排出権を活用する取り組みが盛んですが、さらに急増するクリーンエネルギー需要に対応する必要が高まっています。原子力発電はこうした要請に応え、発電時にCO₂を排出せずに大規模な供給を実現する現実的な選択肢と捉えられています。

「原子力3倍」宣言に際しての米IT各社のコメント

需要増を意識した政策
各国で相次ぐ

その他の国々でも原子力に対する関心が高まっています。英国政府は4月に「AIエネルギー評議会」を設置しました。同国内で電気事業を展開するフランス電力(EDF)、スコティッシュ・パワーといった電力会社のほか、米国のグーグル、マイクロソフト、アマゾン、英国の半導体設計大手ARMなどが参画しています。同評議会はAI産業について「雇用創出と国民の所得拡大につながる」と評価しつつ、「電力需要への懸念は世界中の国々が直面している課題」と指摘。今後、原子力を含むクリーンエネルギーの活用などについて議論していく予定です。

1990年に原子力の運転を終了したイタリアは、エネルギーの脱ロシア依存、カーボンニュートラルなどを踏まえて、政府が原子力の再導入を可能にする法案を2月に承認しました。政府はこの説明の中で「今後20年間で電力需要は現状に比べて2倍になると予想される」としており、やはり今後の電力需要増を意識しています。

このほかベルギー政府が3月に2基の原子力発電所の稼働期間を10年間延長する契約を事業者と結びました。同国では2025年までにすべての原子炉を恒久的に停止する予定でしたが、ロシアのウクライナ侵攻を受け、2022年3月に政府は両号機の稼働延長を決定していました。同国でも送配電事業者のEliaが2050年までに電力需要が現在の2倍以上に達すると予想し、再エネに加えて多様な脱炭素電源を検討する重要性を指摘しています。

2018年に施行した改正エネルギー法で原子力発電所の新設を禁止したスイス政府は、2024年8月にその撤廃を目指す方針を表明。「新たな状況」として、カーボンニュートラルに向けた電化の進展による電力需要増や、地政学的な不確実性などを理由に挙げています。

アジアでも、韓国政府がこの2月に確定した第11次電力需給基本計画案では、データセンター需要の増加などに対する施策として大型原子力2基、小型モジュール炉(SMR)1基を、これまでの計画に加え新増設することを明記しました。

このように世界各国は増加する電力需要を重要課題と捉え、原子力の活用に乗り出しています。日本も2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画で「エネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の⾼い電源」として安全性の確保を⼤前提に原子力を「最⼤限活⽤」する方針が掲げられました。安全を大前提に、まずは足元の再稼働を進めるとともに、今後の需要増に備える観点から、将来的には新増設も見据える必要があります。

各国の原子力活用への動き