FOCUS

2025.07

長期脱炭素電源オークション
投資予見性改善で着実な電源構築へ

長期脱炭素電源オークションの第2回公募(2024年度)の結果が、4月に公表されました。同制度は長期の電力安定供給を支える電源の確保と、化石燃料利用削減を同時に目指して設けられました。今回は新たに既設原子力の安全対策投資の募集枠が設定され、3ユニットが落札。国の目標「2050年カーボンニュートラル」へ、脱炭素電源として一層の原子力活用が期待されます。一方、AI(人工知能)、データセンターなどによる電力需要の大幅増加を見据え、制度をさらに発展させていくことも重要になります。

供給力の確保と
脱炭素を同時追求

長期脱炭素電源オークションは、供給力を確保する容量市場の一環に位置付けられる仕組みです。メインオークションと呼ばれる従来型の容量市場は単年度契約で、約定価格の変動が大きいため長期にわたる投資の回収についての予見性が限られます。そのため「2050年カーボンニュートラル」に向けた、長期に利用する大容量の脱炭素電源の新設・リプレースを促すには不十分でした。

一方、長期脱炭素電源オークションは、「他市場で得られる収益の約9割を返納する」という制約が付きますが、電源の固定費相当の「容量収入」を原則20年間にわたり得られます。これにより、発電事業者は長期の安定した収入を見通して投資回収リスクを軽減することが可能になり、「2050年カーボンニュートラル」に貢献する電源への投資促進が期待されます。

小売電気事業者等から「容量拠出金」が電力広域的運営推進機関に支払われ、「容量確保金」として発電事業者に分配されます。つまり、電気のユーザー全体で、長期の安定供給や脱炭素を支える仕組みといえます。

公募は毎年度、電力広域的運営推進機関が必要とする容量の枠を定め、それに発電事業者が応じるオークション形式で行われます。2023年度に初の公募が行われ、その後も継続的に行われることとなっています。

「原子力安全対策」枠
3ユニットが約定

この4月に結果が公表された2024年度の約定総量は計634万5000kWでした。今回、「脱炭素電源」に「既設原子力の安全対策投資」枠が新設されました。原子力プラントが新規制基準へ対応するための投資案件が対象となります。これにより発電事業者の安全対策投資の回収予見性が高まることが期待されます。

この枠への応札容量は計434万8000kWで、落札容量は計315万3000kWでした。具体的には北海道電力泊発電所3号機(落札容量90万2107kW)、東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所6号機(同119万5000kW)、日本原子力発電東海第二発電所(同105万6000kW)の計3ユニットが約定しました。

「揚水・蓄電池」は今回、収益性を確保しやすい短時間運転の蓄電池だけでなく、再生可能エネルギー出力の長周期変動に対応する長時間運転の蓄電池の導入を促すため、運転継続時間が「3〜6時間」「6時間以上」の2枠に分けて募集が行われ、今回も多くの容量が約定しました。また、LNG専焼火力は4ユニットが落札されました。

電気のユーザー全体で安定供給と脱炭素を支える容量市場の仕組み

電力需要増も見据え
制度の実効性向上を

今回、既設原子力の安全対策投資枠を設定するなど制度の改善が行われ、一定規模の落札がなされました。GX(グリーントランスフォーメーション)の重要な取り組みである、原子力の最大限活用に向けた進展があったと評価できます。

一方で今後、制度を一層実効性あるものとし、第7次エネルギー基本計画で掲げたカーボンニュートラル化や拡大する電力需要に対応するには、次のようなポイントについてさらなる改善を進めることも重要です。

1 調達方法

今回の結果では、LNG専焼火力の入札量が募集量に達しませんでした。現行のオークションは全電源種混合での固定費による価格競争入札であるため、落札結果が蓄電池など特定の電源種に偏るリスクがあります。多様な脱炭素電源や調整力を適切に確保するためには、電源種ごとに募集量を設定してオークションを行うといった方策も考えられます。

2 固定費の未回収リスクへの対応

事業者には落札後、資材価格高騰といった費用変動、金利上昇、為替変動などのほか、原子力については新たな規制に事後的に対応するバックフィットによる追加費用の発生といったリスクが存在します。現行制度ではこれらのリスクへの対応は考慮されていません。安定的に電源を維持していくためには、応札時に予見が不可能だった固定費の上振れが生じた場合、落札価格を事後調整するなどの仕組みが必要です。

2024年度長期脱炭素電源オークションの落札量

電力広域的運営推進機関公表資料から作成

3 建設段階でのキャッシュ確保

建設から運転開始までのリードタイムが長い電源は、建設中に多額のキャッシュ負担が先行して発生します。これに対し事業者が容量収入をあらかじめ得られるなど、建設段階から投資回収可能な仕組みがあれば、持続的な電源投資につながります。

4 コスト実態を反映した上限価格

多くの電源で1kW当たりの上限価格は10万円とされていますが、例えば水素・アンモニアといった脱炭素燃料は市場や技術が発展途上であり、この水準では投資回収を見通すことが困難なのが実情です。上限価格を実態コストを踏まえた水準に見直すことで、技術発展を促しつつ、供給力確保につなげることが期待されます。

5 リスクに応じたリターン

入札価格には、事業者が金融機関などから資金調達するための資本コストを織り込むことになっています。現状は全電源について一律で「WACC(加重平均資本コスト)5%」と設定されていますが、結果として事業リスクが相対的に低い蓄電池への偏りを招く可能性があるため、電源種ごとのリスクに応じた事業報酬の設定が必要です。

現在、第3回オークションに向けて、徐々に制度の見直しの議論が国で進められています。将来の安定供給確保に向けては、こうしたオークション制度の見直しに加え、初期投資に向けたファイナンスの円滑化も重要課題です。また既存火力の稼働率が低下する中でも、一定規模を維持していける制度措置の検討も必要になります。

暮らしと産業を支え、国力を維持していくためには、安定した電源の確保は避けて通れません。こうした課題認識は国のシステム改革検証のとりまとめでも挙げられています。電力業界としても引き続き最大限、検討に協力していきます。

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