FOCUS

2026.05

イラン・中東情勢緊迫化
国内電力供給への影響を読む

2026年2月に米国とイスラエルはイランに対し大規模な軍事攻撃を行いました。イランとその周辺の中東諸国は、世界有数の化石燃料の産出地であり、世界各国に対するエネルギー供給が不安定化しています。今回の紛争がどのように日本のエネルギー供給に影響するのかを解き明かすとともに、電気事業者の電力安定供給に向けた取り組みをご紹介します。

エネルギーの「急所」
ホルムズ海峡への依存

資源小国である日本はとりわけ、エネルギー資源調達の多くを海外からの輸入に頼らざるを得ない構造にあります。中でも原油については、価格面で高い競争力を有することなどから、現在でも日本の輸入元の約9割をアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、クウェート、カタールといった中東諸国が占めます。それらの輸送はほぼ全てがペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡という極めて狭い海域を通過します。今回の紛争をきっかけにホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで、石油製品の一部の流通に影響が出ています。

日本の原油とLNGの輸入元比率

出典:財務省貿易統計

日本の主力火力燃料は
中東以外からのLNG

日本の電源・燃料別発電電力量の推移

1973年の第1次、1979年の第2次オイルショックで中東依存度が高い原油の価格高騰の影響を受けてから、各電気事業者は石油火力による発電量を減らして、原子力、LNG(液化天然ガス)、石炭、再生可能エネルギーなど様々な発電方法を組み合わせ、エネルギーのベストミックスを追求してきました。現在、石油火力発電が日本の発電電力量に占める割合は7.2%で、火力発電の中で最も割合が大きいのは32.2%のLNG火力発電です(資源エネルギー庁2024年度総合エネルギー統計確報)。LNGは原油と比べ産出地が分散しており、日本の輸入元はオーストラリア、マレーシアといった中東以外の国が主力で、日本のLNG輸入量のうち、ホルムズ海峡を通過する割合は6.3%(カタールとUAEからの輸入分の年間約400万トン)です。

多様な調達、電源を確保
着実、安定な稼働進める

電気事業者は様々な発電方法を組み合わせることや、調達ソース、契約期間、価格体系などの多様化によるリスク分散に努めており、現時点ではただちに電力の安定供給に影響が出る状態ではありませんが、各電気事業者は夏場の冷房需要が高まる時期に向けて、最大限の対策を実施しています。

対策1 様々な電源を活用

電力の安定供給のためには、原子力発電を含む様々な電源を活用することが重要です。原子力発電については、4月16日に東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所6号機が営業運転を再開し、国内で新規制基準への適合性を確認し再稼働した原子力は15基となりました。赤沢亮正経済産業相は会見で、柏崎刈羽原子力発電所6号機が1年間運転すると、ホルムズ海峡経由で日本に年間で輸入される量(約400万トン)の約3割に相当するLNGを削減できると述べています。今後も、稼働中の原子力発電所を安定的に運転していくとともに、安全性確保を大前提として着実に再稼働を進めていきます。

なお、柏崎刈羽原子力発電所6号機が営業運転を再開したことで、東京エリアの2026年度夏季の電力需給における予備率は、7月~9月すべてで4%以上になる見通しとなりました。これにより全国で、安定供給に最低限必要な3%を上回る予備率が確保できる見通しです。

対策2 設備保全の徹底

原子力発電だけでなく、火力発電や水力発電といった発電設備に関しても、設備保全を徹底し、計画外停止の防止に努めています。

対策3 燃料の調達

燃料の調達については、中東以外の国との取引量の増加やスポット市場からの代替調達をおこなうだけでなく、電力会社相互の協力や、2021年1月の電力需給ひっ迫の経験を踏まえて整備された、共同基地を有するなど物理的に融通しやすい地域の電気・ガス事業者間で燃料を融通し合う「地域連携スキーム」、地域連携が機能しないような緊急時に資源エネルギー庁が各社の調達・在庫状況を把握し、全国規模で融通余力がある事業者を仲介してLNGを融通しあう「全国連携スキーム」といった仕組みを必要に応じて活用し、官民一体となって、また業界を越えて燃料確保に取り組んでいきます。

国際資源価格の高騰
電気料金への影響は

燃料価格の高騰により、今後は燃料費調整制度(以下、燃調制度)に基づき、電気料金の上昇が見込まれます。

燃調制度は、電気事業者の経営努力が及ばない輸入燃料(原油、LNG、石炭)価格の動向を電気料金に反映するための制度です。ルールに基づき、輸入燃料価格が値上がりする場合は電気の使用量に応じ料金を上乗せし、輸入燃料価格が値下がりする場合は料金から差し引くことで還元します。この制度は大手電力会社の多くの低圧(一般消費者向け)電気料金メニューに適用されています。

毎月の電気料金に反映される金額は、3カ月間の貿易統計を参照した平均燃料価格をもとにして算出され、2カ月後の電気料金に反映されます。例えば、1~3月の輸入燃料価格の動向は6月分の電気料金に反映されます。そのため、中東情勢による3月からの燃料価格高騰は、6月分以降の電気料金に反映される可能性があります。原油の平均価格に連動する長期契約のLNGの場合、原油の価格変動がLNG価格に反映されるまでには通常3〜5カ月のタイムラグがあり、秋ごろの電気料金に影響を及ぼす可能性があります。なお、燃調制度に基づき反映される金額は、原油・LNG・石炭火力の比率によって電力会社ごとに異なります。また、会社によっては異なる制度を採用したメニューを提供している場合があります。

燃調制度の適用イメージ

あらゆる手立て尽くし
電力の安定供給を維持

今回のイラン紛争に伴うホルムズ海峡の封鎖は、燃料サプライチェーンの断絶や価格高騰のリスクを顕在化させました。新電力では新規契約の受付停止も広がっています。資源の少ないわが国において電力の安定供給を維持するためには、原子力発電や再生可能エネルギーを最大限活用していくことに加えて、火力発電についても、燃種や調達ソース、契約期間、価格体系などの多様化を図って供給途絶や価格高騰リスクに備えることが重要です。

今回、改めて、火力発電の燃種の多様性確保の重要性が浮き彫りになりました。資源エネルギー庁は今回のイランの事態を受けて3月、LNGなどの燃料を節約するための緊急対応として、容量市場における非効率石炭火力の稼働抑制措置を、2026年度に限って適用しないことを決定しました。この稼働抑制措置は、設計効率が42%未満の石炭火力については、年間の設備利用率を50%以下に抑えなければ容量市場からの収入を20%減額するというもので、稼働を抑え脱炭素を図ることを目的としていましたが、安定供給を優先する観点から、時限的に規制を緩和しました。資源エネルギー庁の試算では、これによりLNG約50万トンの節約効果があるとされています。

脱炭素化は各国が協調して取り組むべき重要な課題であることは変わりません。その上で、世界情勢や各国の脱炭素政策の動向を踏まえつつ、安定供給と脱炭素のバランスを見極めて対応していく必要があります。電気事業者として、国と協調しながら安定供給の維持に向けて全力で取り組んでまいります。

九州電力の火力発電所へ輸送する日本郵船のLNG船(日本郵船提供)

九州電力の火力発電所へ輸送する日本郵船のLNG船(日本郵船提供)