2026.07
地層処分の文献調査
新たに小笠原村南鳥島で
5月20日に、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定に向けた南鳥島での文献調査が開始されました。これで文献調査は北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町に次いで4カ所目となります。先の3自治体は自治体からの応募や地元の請願が契機となっていましたが、今回は初めて、地元からの請願などを経ずに国から文献調査の実施を申し入れる方式が採られました。あらためて、原子力発電によって発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分の必要性と、処分地選定プロセスについて解説します。
3月3日に経済産業省・資源エネルギー庁は小笠原村の渋谷正昭村長に対し、南鳥島での文献調査を申し入れました。適した処分地を選定するためには、少しでも多くの調査地点から絞り込んでいくことが望ましいと考えられています。そのため経済産業省は1月に、自治体側からの「手挙げ」を待つだけではなく、国の責任として地域に協力を要請していく方針を都道府県知事宛て文書で表明していました。
南鳥島は東京23区から南東に約1800km、村民の方々が居住する父島・母島からも約1300km離れた太平洋に浮かぶ島で、日本最東端に位置し、ほぼ正三角形に近い形をしています。島の全域が国有地で、一般人の立ち入り・居住は制限されており、自衛隊、気象庁、海上保安庁の職員が交代で駐在しています。赤沢亮正経済産業相は、地層処分に関する科学的特性を既存の全国データに基づき整理した「科学的特性マップ」に照らして、「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」ことを申し入れの理由の一つに挙げました。同マップで南鳥島は「輸送面でも好ましい」地域として、濃い緑色で塗られています。
国からの文献調査の申し入れを受けて小笠原村は3月中に、一般住民が居住する有人島である父島と母島でそれぞれ説明会を実施。村民の皆さまからのさまざまな意見も踏まえて渋谷村長は、4月20日に「国が文献調査を実施するか否かを判断するべき」とする回答文書を国に提出しました。
この文書では、これまで出された意見を総括して、①新たな処理方法などの技術開発②他自治体への調査申し入れ③村民への説明機会の設置④風評被害の払拭⑤「文献調査=処分場建設」ではないことの確約—という5つの要請が提示されました。翌21日に赤沢経産相が渋谷村長と面会して文献調査実施の考えを伝え、5つの要請についても取り組んでいくことを明言しました。これを村長が受け入れたことで文献調査の実施が決定し、5月20日から調査が開始されました。
化石燃料資源の乏しい日本にとって、原子力発電は電力の安定供給や、コストの抑制、気候変動対策に貢献する重要な電源です。その利活用を進めるにあたっては、原子力発電によって発生する高レベル放射性廃棄物の課題を避けて通ることはできません。処分地の選定に向けた取り組みは、2000年前後から本格的に始まりました。
2000年〜
枠組み、プロセス策定
市町村公募を開始
2000年に国や電力会社の責任範囲や具体的な処分方法、資金確保の枠組みを定義する「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」が成立しました。これにより、高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋設する「地層処分」を行うことが法律で定められました。同時に、その実施主体として「原子力発電環境整備機構(以下、NUMO)」が設立されました。
地層処分は、高レベル放射性廃棄物を30~50年間冷却した後、人間の生活環境から隔離した、地下300m以上深い安定した岩盤に埋める処分方法です。このほかに宇宙や海底への処分などさまざまな方法が検討されましたが、長期の議論を経て、地層処分が最も安全で実現可能な方法との考え方が世界的に確立されています。
地層処分は数世代にまたがる超長期プロジェクトとなることから、特定の企業の裁量や経営状況に左右されず、確実に実施される体制が求められます。そこで最終処分事業を専門に行う認可法人としてNUMOが設立され、処分に必要な費用を確保するため、電気料金から積み立てる拠出金制度が創設されました。
処分地選定については3段階のプロセスを踏むことが定められました。具体的には机上で行う「文献調査」、ボーリング調査などを伴う「概要調査」、実際に地下施設で調査・試験等を実施する「精密調査」の3段階と規定されました。また、次の調査へ進む場合には地域の意見を聴く場が設けられ、そこでの意見に反してプロセスを先には進めないこととされました。
これらを踏まえ、第1段階である「文献調査」への応募受付が全国の市町村に向けて開始されました。
2007年〜
「国が前面」を明確化
科学的特性マップ提示
処分地選定プロセスは、自治体からの自発的な応募を待つ「手挙げ方式」が基本でした。2007年に全国で初めて高知県東洋町が文献調査に応募しましたが、後に撤回されました。その後も風評への懸念や、住民との調整の前面に立つ自治体首長の負担が重いことなどから、名乗りを上げる自治体は現れませんでした。
停滞するプロセスを前進させるために、2015年に国は基本方針を大きく改定しました。国から適性の高そうなエリアの自治体に対して調査の受け入れを「申し入れる」方式を追加し、国が前面に立って解決を目指す姿勢を明確にしました。
さらに2017年には、火山や活断層の有無などの地層処分に関する科学的特性を一定の要件・基準に従い整理した上で、日本全国の地下環境の適性を色分けした「科学的特性マップ」を資源エネルギー庁が公表しました。国民全体に関心を持ってもらい、科学的な見地から議論を深める狙いがあります。
経済産業省資源エネルギー庁発表資料を基に簡略化
2020年〜
文献調査が進展
受け入れ経緯も多様に
2020年に北海道寿都町が文献調査への応募を表明しました。続いて神恵内村の商工会が文献調査受け入れを求める請願を村議会に提出し、議会がこれを採択。これを受けて国から神恵内村に対して調査実施の「申し入れ」を行い、村が受諾しました。同年11月から両町村で文献調査が始まりました。
同様に地元団体の請願を受けて国が申し入れるという流れで、2024年には佐賀県玄海町が文献調査の受け入れを決定しました。同町には九州電力玄海原子力発電所が立地しており、立地自治体としては初めての事例です。
先行する北海道の2町村については、2024年11月に文献調査報告書が提出され、次の「概要調査」の対象となり得ると結論付けられました。「概要調査」に進む場合、知事と町村長から意見を聴くことが法律で定められており、引き続き地元の理解を得るための活動をしています。
南鳥島については、地元からの請願を経ずに国による申し入れが行われた初めての例となり、国が前面に立つという姿勢を具体化する動きとなりました。
将来世代のためにも
全国的な議論を
原子力発電によって発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分は、将来世代に負担を残さないためにも今、日本全体で議論していかなければならない、待ったなしの課題です。私ども原子力事業者も国やNUMOと連携して、4町村にとどまらず、広く全国の皆さまに関心を持っていただけるよう、引き続き対話活動や情報発信に取り組んでまいります。
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日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター
国内「最深」で「最新」知見集積
①多様な研究を同時並行で展開する調査坑道 ②壁の向こうには実物大の人工バリア(ガラス固化体は模擬)が埋設されている ③ゆめ地創館に併設する地層処分実規模試験施設(原子力環境整備促進・資金管理センター所管)では実物大の人工バリアが見学できる
日本で人が立ち入れる最も深い場所は北海道幌延町にあります。日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターは地上から最大深さ510mの立坑と、そこから水平に伸びる調査坑道があり、海抜ベースで「国内最深」。世界でも希少な環境で、高レベル放射性廃棄物の処分技術をより高度なものにするための調査研究を行っています。
地層処分において高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)は、それ自体が放射性物質をガラスで閉じ込め、さらに厚い金属製の容器に封入、水を極めて通しづらい粘土「ベントナイト」で覆う3重の「人工バリア」で外部影響を遮ります。これを火山活動や地殻変動の影響が小さい地域の地下300mより深い場所に埋設し、岩盤が物質を閉じ込める力「天然バリア」を活用します。
これらは地上での研究や机上のシミュレーションで、長期にわたり地下水などの影響が極めて小さいと分かっています。ただ、深地層では深さにより岩盤層の質や温度、圧力などさまざまな条件が異なります。実際の深地層で知見を高めることが一層安全・安心で、効率的な処分につながります。
機械音が響くひんやりした立坑を専用エレベーターで降り、調査坑道を歩くと多様な研究が目に入ります。その中の一つに壁でふさがれた坑道がありました。実は壁の向こうには実物大の「人工バリア」が2014年から埋められています。地元との取り決めで放射性物質は実験に用いないため、ガラス固化体を模擬したヒーターを使用し、それ以外の温度や質量などを再現。各種センサーにより内部の状態を約12年記録し続けており、さらに今年度からは人工バリアを埋設した坑道に新たな坑道を貫通させて直接内部の状態を調べる予定です。
このほか、地震影響の調査や、岩盤中の物質の移動を把握する技術、掘削機械の開発のための研究なども展開。世界的にも先端を走る施設であり、英国やドイツ、韓国など海外機関との共同プロジェクトで技術者・研究者の育成拠点にもなっています。舘幸男所長は「最終処分事業や国の安全規制に資する成果を創出し、原子力利用の持続可能性へ貢献していく」と力を込めます。
