FOCUS
「原子力政策の方向性と行動指針」改定
必要な建て替え基数を明記
政府は7月に開催した原子力関係閣僚会議で「今後の原子力政策の方向性と行動指針」を改定しました。原子力発電所の建て替え(リプレース)について、2040年代までに約2~5基(約220万~550万kW)、2050年代までに累計11~14基(約1270万~1600万kW)が必要と明記。次世代革新炉の社会実装への取り組みなども掲げました。新しい指針は、8月に決定したエネルギー安全保障と脱炭素を両立するための「エネルギー需給構造強靱化パッケージ」にも反映されています。今号では、指針の主な改定ポイントを解説します。
DX、GXによる電力需要
地政学リスクなど反映
「今後の原子力政策の方向性と行動指針」とは、今後の原子力政策に関係する主要な課題と、その解決に向けた対応の方向性や関係者の行動の指針を示す文書です。政府と事業者などが取るべき具体的な行動指針として一元的に整理・集約し、2023年4月に初めて策定されました。初となる今回の改定では、2025年に策定した第7次エネルギー基本計画で「再生可能エネルギーや原子力を最大限活用していく」方針が示されたこと、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の進展による電力需要の増加見込み、中東をはじめとする地政学リスクの高まりによるエネルギー安全保障の重要性増大などを踏まえました。
今回の改定の特徴は、発電所の将来の建て替えの必要性について定量的に示したことです。具体的には2040年度時点の発電電力量を1.1兆~1.2兆kWhと仮定し、第7次エネルギー基本計画でのエネルギーミックスで設定された「原子力が供給の約2割を担う」との目標を考慮。既設炉が現行ルールに従い営業運転開始後60年で廃止すると仮定すると、既設炉が漸減し設備容量の低下が見込まれるため、2040年代までに約220万~550万kW、2050年代までに2040年代分も含め約1270万~1600万kWの建て替えが必要になるとの見通しが示されています※。原子炉1基の出力を120万kWと仮定すると2040年代までに約2~5基、2050年代までに累計11~14基の建て替えが必要となります。
2026年6月5日 第49回原子力小委員会資料を基に作成
※:建設中のJパワー(電源開発)大間原子力発電所、中国電力島根原子力発電所3号機、東京電力ホールディングス東通原子力発電所は「既設炉」として計上
政府、事業者が連携
6つの柱に取り組む
この実現へ向けて、新たな行動指針では6つの柱が掲げられました。主なポイントは次の通りです。
1
原子力を長期的に活用していく上での
大前提
事故のリスクを数値化する「確率論的リスク評価(PRA)」の高度化などを進め、得られたリスク情報を活用し安全性向上の観点から何へ重点的に対策を講じるべきかを、合理的に判断する仕組みの導入・定着に取り組むなど、不断の安全性向上に努めます。また、脱炭素電源地域の発展を念頭に置いた取り組みを強化するとともに、大規模な自然災害と原子力災害との「複合災害」を想定しつつ、住民避難や屋内退避、避難道路の整備など防災体制の充実に向けた支援を強化します。
2 再稼働の加速・既設炉の最大限活用
電気事業連合会の「再稼働加速タスクフォース」などの取り組みを通じ、産業界全体での人的・技術的な相互支援、技術知見の蓄積・継承の強化を行い、再稼働の加速につなげます。また、既設炉の運用高度化を進め、安全性向上や設備利用率の維持・向上に努めます。具体的には、夏季・冬季の需要ピークにおける定期検査の回避による安定供給や、発電所間の定期検査の重複回避にも資する運転期間の柔軟化(PWR=加圧水型軽水炉への15カ月運転の導入の実現など)に向けた技術的検討を、原子力エネルギー協議会(ATENA)を中心に進めます。運転している発電所を止めず、安全性を確保した上で点検・修繕を行う「運転中保全」の実機導入や、その対象を広げるための課題整理を事業者、電力中央研究所原子力リスク研究センター(NRRC)、ATENAなどが連携して進め、規制当局と協議します。
3 次世代革新炉の開発・設置
2026年4月に公表した「次世代革新炉開発ロードマップ」※に基づき、革新軽水炉、SMR(小型軽水炉)、高速炉、高温ガス炉、フュージョンエネルギー(核融合)といった炉型の開発段階に応じた課題に対応し、開発と設置を進めます。開発に向けては規制基準の明確化のため、規制当局との共通理解の醸成に取り組み、次世代革新炉を社会実装するための制度や支援措置の在り方も検討を進めます。
※:経済産業省の有識者会合が取りまとめた次世代革新炉の5つの炉型それぞれの技術開発の進展、社会実装に向けた課題を考慮し、開発具体化への道筋を整理した工程表
三菱重工業と北海道、関西、四国、九州電力が共同開発を進める革新型軽水炉「SRZ-1200」の概念図(三菱重工提供)
(注)本概念図は公開当初、掲載していた画像に誤りがありましたので、10月7日付で正しい画像へ差替をしました。
4
核燃料サイクル・廃炉・最終処分の
プロセス加速化
核燃料サイクルの推進に向けて、六ヶ所再処理工場、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場の竣工と操業環境整備に官民一体で取り組みます。今後、六ヶ所再処理工場が稼働していく中、地元理解に向けた取り組みや審査対応の円滑化に向けた連携・協力を図り、プルサーマル※の推進を強化します。また、原子炉などの解体作業の本格化が見込まれる中、廃炉に関する知見の蓄積・共有、廃炉工程全体を円滑化・効率化するための取り組みなどを進め、低レベル放射性廃棄物の処分促進に努めます。高レベル放射性廃棄物の最終処分実現に向け、一層の文献調査地区拡大へ、地元発意のプロセスだけでなく、国の責任で地域に申し入れを行うなど、原子力事業者・国・原子力発電環境整備機構(NUMO)が連携し取り組みます。
※:使用済燃料をリサイクルして原子力発電所で再び使うこと
5
事業環境整備、サプライチェーン・
人材基盤の維持・強化
国による将来にわたる電力安定供給や脱炭素電源の確保、国民負担の抑制といった政策目的を踏まえ、原子力の建設や安全対策への投資を後押しする電力市場制度の具体化を図ります。バックエンド事業に関係する予見性や持続可能性の向上に向けた措置を着実に実施し、脱炭素電源である既設炉、次世代革新炉への投資を民間が判断できる事業環境整備を進めます。具体的には「長期脱炭素電源オークション」の活用・改善、企業の脱炭素ニーズに応える「コーポレートPPA(電力購入契約)」の促進、英国における資金調達「規制資産ベース(RAB)モデル」の事例を踏まえた対応などを検討します。
国内サプライチェーンと人材基盤の維持・強化に向け、機器や部材などの供給途絶対策や事業承継をはじめ技術・技能の継承・進化、若い世代に原子力に興味や魅力を感じてもらう仕組みづくり、産官学横断的な司令塔機能を立ち上げ、実効的・戦略的な人材確保・育成につなげます。こうした取り組みを通じ、国内での建て替えを効率的かつ迅速に実現する、持続可能な産業体制構築につなげます。
6 国際的な共通課題の解決への貢献
米国、英国、フランスなどとの連携を強化し、次世代革新炉や既存炉の安全性向上に向けた共同研究開発を進めます。国際連携も含め、ウラン濃縮などの技術維持や、六ヶ所再処理工場で回収されるウランの有効活用策の検討・具体化など、国と事業者が一体となり核燃料サプライチェーンを強化します。
将来にわたる活用へ
重要な一歩踏み出す
高市早苗首相は「原子力発電への投資を確実に進めるべく、内閣として、原子力政策を前に進める」としており、「事業者の予見性を高め、研究開発や投資判断を加速する措置の具体化」などに取り組む方針です。
今回の改定で建て替えの必要性が言及されたことは、国として将来にわたり原子力を活用していくという力強いメッセージであり、重要な一歩と受け止めています。この方針を羅針盤として、原子力事業全体の人材やサプライチェーン、必要な技術力の維持・確保に向けた好循環が生まれていくと考えます。
改定された指針は、8月に開かれたGX実行会議で決定した「エネルギー需給構造強靱化パッケージ」に反映。安全を大前提とした原子力の最大限活用や、次世代革新炉の早期導入は、国際情勢の不確実性やAI・半導体産業の成長や電化の進展にも貢献する取り組みと位置づけられました。取り組みは多岐にわたりますが、新たな政策の実現に向け産学官連携の下、着実に推進します。