2022.02
地球温暖化防止について世代を超えて語り合う
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池辺 篠田さんとは同じ九州生まれということで、お会いできるのを楽しみにしておりました。
篠田 こちらこそ、よろしくお願いします。
池辺 AKB48では主要メンバーとして活躍されていましたね。
篠田 実は私、最初はオーディションに落ちたんです
池辺 ええっ。
篠田 それで、「AKB48劇場にあるカフェのスタッフ(カフェっ
娘 )としてどうですか」とお話があり、東京に出てきてそこでアルバイトをしながら、次のオーディションを待っていました。池辺 何期生とかありますしね。
篠田 でもメンバー入りできたのは、オーディションとは別のファン投票のおかげです。ファン投票の対象も本当はメンバーに限りますが、ファンの方がカフェっ娘の私にも投票してくださって。当時はまだグループが売れる前で、プロデューサーの秋元康さんもどうしたら売れるかファンの方にお話を伺っていました。その中で、カフェっ娘がメンバーになったら面白いのではないかということになったそうです。
池辺 夢を形にするためにはそうしたご苦労もあったのですね。今、健康のために水泳をやっていて、音楽を聴きながら泳いでいるのですが、AKB48の曲も流れています。
篠田 ありがとうございます。
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池辺 和弘
Kazuhiro Ikebe
電気事業連合会 会長PROFILE
1958年、大分県生まれ。東大法学部卒。81年九州電力入社。執行役員、取締役常務執行役員などを経て、18年6月から同社社長。2020年3月から電気事業連合会会長を務める。篠田 麻里子さん
Mariko ShinodaPROFILE
1986年、福岡県生まれ。AKB48のメンバーとして活動後、女優、タレント、モデルとして幅広く活躍。公式YouTubeチャンネル「篠田麻里子ん家」では、日々の育児の様子などを配信中。2021年第13回ベストマザー賞「芸能部門」を受賞し、同年に日本マザーズ協会公認「子育て応援・ママ応援大使」就任
CO2排出量を実質ゼロに
池辺 ご実家は福岡ですよね。
篠田 はい。3カ月に1度くらい帰っています。実家は屋根に太陽光パネルを付けていて、太陽光発電を利用しています。
池辺 そうですか。太陽光発電は二酸化炭素(CO2)を出さずに電気をつくる再生可能エネルギーですから、地球にやさしいですよね。今の時代、再エネを利用して生活することはとても大切なことです。
篠田 電気代が少しでも節約できればと思って始めたことなのですが、地球にやさしいと聞くとすごくうれしいですね。
池辺 今、世界中がカーボンニュートラルに向けて動いていますよね。カーボンニュートラルとはCO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる、つまり、排出量を実質的にゼロにすることです。大気中の温室効果ガスの濃度が高くなると、太陽光で暖められた地表が放出する赤外線を温室効果ガスが吸収して宇宙に出ていくのを防ぎ、地表が温室のように保温されてしまいます。
篠田 地球温暖化ですね。現在も世界のCO2排出量は増え続けているそうですが、このままいくとどうなりますか。
池辺 このまま対策をとらずにいるとさらに温暖化が進み、2100年までに平均気温が2.6~4.8℃上昇するといわれています。そうなると台風や洪水、高潮などの災害が頻発するほか、植物や動物にも大きな影響が出ると予想されます。そこで、地球温暖化を防ぐための重要な取り組みがカーボンニュートラルです。日本は2020年10月に「2050年にカーボンニュートラルを実現する」ことを宣言しました。また、昨年のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)において、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求することについて参加各国間で合意されました。

国立環境研究所「2019年度の温室効果ガス排出量(確報値)」をもとに作成
篠田 だから世界中でCO2を減らす努力を行っているのですね。
池辺 日本の年間CO2排出量は約11億トンですが、そのうちの4割は電気をつくる過程で発生しています。日本で使う電気の約8割(2019年度は76%)を火力発電で賄っているからです。火力発電で石油や天然ガス、石炭などの化石燃料を燃やすとCO2が発生します。電力業界ではこれを抑えるため、発電の低・脱炭素化に取り組んでいます。具体的には、発電時にCO2を出さない太陽光や風力、水力などの再エネを最大限導入することや、同じくCO2を出さない原子力の活用です。火力発電についても、発電効率を高めてCO2の排出をなるべく減らしたり、排出したCO2をより分けて回収・貯留する技術の開発に取り組んでいます。
脱炭素と利便性を高めた家
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篠田 私は今、環境省の「みんなでおうち快適化チャレンジ」のアンバサダーを務めています。最近、自宅で過ごす時間が長くなっていますよね。そうした「おうち時間」を脱炭素で快適、健康、お得なものにしていくことを呼びかけるキャンペーンなのですが、実はここで、私が考えた「環境にやさしい理想のおうち」を公開しています。
池辺 篠田さんが考えた理想のおうちとはどんなものですか。
篠田 断熱や省エネにより消費するエネルギーを抑え、太陽光発電などでつくるエネルギーを多くすることによって、年間に消費する住宅のエネルギー量の収支をゼロにすることを目指したZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のしくみを取り入れています。断熱壁や二重サッシで断熱性を高めて部屋ごとの温度差を少なくし、一年中、エコで快適に過ごせる工夫をしています。太陽光発電を利用し、設備も高効率なものを取り入れてエネルギーを上手に使う工夫もしました。
池辺 CO2を出さない太陽光発電を使いつつ、おうちの断熱性を高めるなどして電気の使用量を抑えるのは、とてもいい取り組みだと思いますよ。
篠田 デザイン的には、主婦として、また母親として、家事をするのに動きやすい動線を特に意識しましたね。例えば、アイランドキッチンにするとお料理中もキッチンから子どもの様子が見えるので安心です。
池辺 アイランドキッチンはIHですか?
篠田 そうです。IHだと掃除が楽ですし、火を使わないから安全ですよね。
池辺 IHだけでなく、ヒートポンプを使った空調や給湯は高効率ですし、電化とZEHは相性がいいんですよ。2階に行く階段がリビングにあるのもいいですね。子ども部屋が2階だったら、子どもが帰ってきても見えますよね。
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環境省「みんなでおうち快適化チャレンジ」ホームページより
篠田 やはり、家族みんなが集まる場所、通る場所を生活の中心にしたいですね。電気を使うのもそこだけで済みますし。
池辺 最近、「クールシェア」や「ウォームシェア」という言葉を聞きますが、みんな一緒の部屋で過ごして、涼しさや温かさをシェアするという発想はとても素敵なことですよね。
篠田 家事で言えば、私は仕事も家事も子育てもすべてきちんとやりたい性格なのですが、最近は便利な電化製品が家事の負担をかなり減らしてくれています。
池辺 例えばどんなものでしょう。
篠田 電気調理鍋は便利ですよ。煮物やカレーなど、材料と調味料を入れたら全部つくってくれます。火加減を見る必要もないんです。今、2歳の娘がちょうどイヤイヤ期で、一緒に遊んでほしい時間がとても多いのですが、これを使うと、料理中に火の周りにいる必要がないので、つくっている間にも別の場所で遊べます。
池辺 子育て世代にはうれしいですね。
篠田 そして、車は電気自動車(EV)。災害時には非常電源にもなりますし。自分の家に電気がたまっているというのはかなり安心感があります。水などもそうですが、やっぱり備えは必要ですね。
池辺 最近、台風や大雨といった災害が激甚化していますから、とてもいい考えです。そうすると、篠田さんのご家庭は、エネルギーに電気を使う場面がどんどん増えていますね。
篠田 そうですね。これからももっと増えていきそうです。
あらゆる分野の電化がカギ
池辺 電気が果たす役割はまだまだあります。日本のCO2排出量の残り6割は家庭や商業施設などの民生部門、自動車利用などの運輸部門、工場などの産業部門から出ています。2050年カーボンニュートラルの実現には、これらの排出をなくしていくことが欠かせません。そのためのカギとなるのはエネルギーに電気を使っていく「電化」です。
篠田 電化がカギになるとはどういうことでしょうか。
池辺 篠田さんが電気を使うときには、もちろんCO2は出ませんよね。発電によるCO2の量も、再エネや原子力を活用することで減らすことができます。ですから、家庭やオフィス、工場などのエネルギー源を可能な限り電気に置き換えていくのです。例えば、篠田さんの理想のおうちのように、調理や給湯を電気で行い、車はEVにする。オフィスや工場も、大気中の熱を効率よく利用できるヒートポンプに切り替えるといったことでCO2は減らすことができます。
篠田 確かにそうですね。エネルギー分野だけでなく日本全体の努力で目標を達成する必要があるわけですね。
池辺 そうです。もちろん、社会に電気をお届けすることが私たち電力業界の使命ですが、そのうえでCO2を出さない努力を続けていく責務があります。
篠田 今後、火力発電に代わるCO2を出さない発電方法が増えるといいですね。

資源エネルギー庁公表 2019年度エネルギー需給実績より算出
池辺 そのために再エネの導入や原子力の活用に取り組んでいます。ただ、太陽光発電は昼間しか発電しませんし、曇りや雨の日も発電量がとても少なくなりますよね。太陽光発電や風力発電などの再エネはどうしてもお天気任せで不安定な面があるので、火力発電で補う必要があります。そのための取り組みが、火力発電の燃料転換です。今、電力業界では燃やしてもCO2が出ない水素やアンモニアを活用して発電する研究を懸命に行っています。
篠田 では、これから新しい発電技術が出てくるということですね。そうした将来のための研究があるということは楽しみですね。ワクワクします。
新しい電化のかたち
池辺 ところで、篠田さんは動画サイトによる情報発信に取り組まれていますね。
篠田 子育て紹介をメインとしたチャンネルです。
池辺 芸能界も新型コロナウイルスの影響で情報発信の仕方が変わっていますか。
篠田 そうですね。記者会見はオンラインで開催しますし、テレビ収録や打ち合わせもオンラインがすごく増えました。
池辺 企業でもリモートワークが広がるなど、私たちのライフスタイルも一気に変わりました。
篠田 そうせざるを得ない感じですね。
池辺 ただ、こうした状況の中で改めて考えさせられたのが、人の移動というのはものすごくエネルギーを使うということです。例えば、私が福岡の九州電力本店から東京・大手町まで公共交通機関を使って往復するとCO2を約180キログラム出す計算になります。これが3時間のリモート会議だと約40グラムで済むというのです。
篠田 私たちのライフスタイルの変化が地球温暖化防止に貢献しているという一面もあるわけですね。
池辺 IoTが私たちの暮らしに浸透し、社会のデジタル化が進むことで、人が移動するのではなく、情報が移動する時代に変わっていきます。そうした社会を支えているのは、実は電気であり、これも電化の一つと言えます。エネルギー源を電気に置き換えることだけでなく、それによって生み出されるライフスタイルの変革も「電化」による効果だと言えます。
自分事として考えることが大切
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池辺 2050年というと、お子さんは30歳ぐらいでしょうか。
篠田 そうですね。ただ、30年前に今の世界は全く想像できませんでしたから、その頃はさらに自分たちが想像つかないものができているだろうと思います。
池辺 IoTの進化はその代表的なものでしょうね。
篠田 それと、地球温暖化が進んでいますから、娘の未来が自然災害におびえる世界になっていたらとても恐ろしいとも思っています。ですから、私たちにできることは資源をできるだけ節約するとか、ゴミをなるべく減らすとか、日常の行動の中にそうした意識を持つことではないかと考えます。
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池辺 それは大切なことです。自分ができることをやる。つまり、自分事として考えないと、地球温暖化防止にしても環境汚染防止にしても前に進みません。篠田さんがおっしゃるように、自分ができることをまずやっていくことが未来を切り拓く第一歩だと思います。
篠田 当たり前のように使っている電気をつくっている会社が、こんなにも将来のことを考えていらっしゃるということをお聞きできて、今日は本当にいい機会でした。エネルギーを使う側の私たちも頑張っていかなければならないですね。
池辺 みんなでよりよい社会をつくっていけるのはとてもうれしいことだと思っています。本日は、ありがとうございました。