• 社会保障経済研究所
    代表
  • 石川 和男Kazuo Ishikawa
VOICE

2020.11

2町村の受け入れを進展の起爆剤に
最終処分場は地元の誇りになりえる

寿都町と神恵内村の意思表明によって、最終処分事業が大きく動き始めました。これから事業をどのように進めていくべきか、進展によって地元地域にはどんな影響が起こりうるかといったことについて、エネルギー関連政策に詳しい石川和男さんに伺いました。

北海道の寿都町と神恵内村が文献調査の受け入れを表明しました。結果的にほぼ同じタイミングになりましたが、どちらも以前から時間をかけて勉強・検討していたと思います。原子力に関する声が挙げにくい雰囲気が続いていますが、それを乗り越えて前向きな話が出てきたことで、非常に大きな起爆剤になりえます。原子燃料サイクル政策を進める政府としても、両町村の英断を大事にして次につなげていかなければなりません。これまで文献調査を水面下で検討してきた自治体はほかにも全国にあるはずで、今回2町村が手を挙げたことで、これに続く自治体も出てくると思います。

原子力発電から発生する廃棄物は、原則として自国内で処理、処分するのが国際的な約束事です。高レベル放射性廃棄物は地層処分が最も妥当という見解で国際的に一致しています。高レベル放射性廃棄物のガラス固化体は、埋設できるようになるまで30~50年の冷却期間が必要で、日本で処分施設が必要になるのはまだ先ですが、施設の建設までにも時間がかかります。今から準備して早いということはありません。

文献調査は約2年間の予定ですが、現地で実際に調査するわけではありません。この期間は調査そのもの以上に、地元と国・原子力発電環境整備機構(NUMO)とのコミュニケーションを密にし、意思疎通を円滑にしていくことが重要になるでしょう。賛成・反対で住民が分断され、後々まで傷跡が残るようなことがないよう、国が前面に出て対話を重ねていく必要があります。

文献調査が始まれば、現地には海外からの視察が多く訪れるでしょう。概要調査に進めば、測量や工事などで国内からの人の出入りも増えます。さらにその先の段階では、現地が産業や研究の拠点になっていく可能性が高く、また国や電力業界はそうなるように提案を行っていくべきです。

最終処分場は単なるゴミ捨て場ではありません。それは最先端の科学技術の集大成です。安全確実でクリーンな地層処分を可能にするため、どれだけすごい科学技術が活用されているかを将来世代をはじめとした地元の皆さんに知っていただき、誇りを持てるようになってほしいと思います。

(2020年11月10日インタビュー)

PROFILE

1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策や産業保安政策などに携わる。2007年退官後、内閣官房企画官、政策研究大学院大学客員教授などを歴任。政策アナリストとして、社会保障関連産業、エネルギーなどについて積極的に政策提言・研究を行っている。現在、経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザーを兼任。