• 東京大学大学院
    工学系研究科 特任教授
  • 鈴木 俊一Shunichi Suzuki
VOICE

2020.03

福島廃炉の“魅える化”不可欠
知の力終結し若者が集まる地域に

福島復興を見据え、福島第一原子力発電所の廃炉研究に取り組む東京大学の鈴木俊一特任教授。学生と接する中で感じたことや、廃炉と復興の実現に向けた課題などについてお話を伺いました。

福島第一原子力発電所の廃炉を完遂するため、将来起こりうる事象・対策のシナリオ評価を行っています。若い学生と接する機会が多いのですが、ある学生から「東京電力に就職したい。廃炉の仕事をしたい」と相談を受けたことがありました。軽い気持ちでできる仕事ではないので何度も意思を確認しましたが、「国家の難事業なので、どうしてもやりたい」と言います。そうした気持ちを抱いている学生は結構多いと感じています。彼らより上の世代では、福島復興に対し「マイナスになったものを元に戻す」という意識を持ちがちですが、事故当時まだ中学生だった学生たちは復興を「ゼロからの挑戦」と捉えています。若い人が感じているそうした思いを大切に育てることが重要であると思います。

そのためには、福島廃炉に取り組むことを社会が肯定的に見てくれるような土壌づくりが欠かせません。福島廃炉の実現にはエネルギーや原子力に関する研究だけでなく、復興学や社会科学、ロボット・AI技術、土木建築、化学、材料など多種多様な“知の力”を結集する必要があります。そこで得られた知見を、逆にそれぞれの分野に広く展開することで、廃炉を魅力ある分野にする、すなわち“魅える化”していかなくてはなりません。

福島復興においても、負の遺産をプラスに転ずる発想が大事です。現在、国や県の主導で産業誘致や地域インフラの復興が進んでいますが、それに加え、国内外からの“知の集積”と地域内での“知の強化”が必要だと思います。「廃炉と復興」をテーマにした東京大学のプロジェクト研究に参加した学生たちの議論では、こうした“知の力”を生かし、次世代を担う若者を地域に集めるような戦略が必要だという問題意識が出されました。また、福島に関係する方々を対象に我々が行ったアンケートでは、「復興に必要なもの」として、主に若い世代から「福島のブランドイメージ」や「新しい形の雇用」といった回答が挙がりました。これらは、負のスパイラルを正に転換していくためのヒントだと思います。負から正への転換点を学生たちは「社会的発火点」と名づけました。外から火をつけるのではなく、自ら燃え始めるような形で、若い人たちが集まり、復興が進んでいくことを願っています。

(2020年2月13日インタビュー)

PROFILE

1982年東大工学部卒、東京電力入社。福島第一原子力発電所事故の際は、技術開発研究所材料技術センター所長として水素爆発の原因調査や海水による腐食対策、汚染水処理対策などに尽力。震災後は国際廃炉研究開発機構(IRID)の研究推進部長、開発計画部長を歴任。2015年4月から東大大学院工学系研究科特任教授。専門は原子力材料評価と廃炉技術全般。