• ユニバーサルエネルギー
    研究所
    代表取締役・工学博士
  • 金田 武司Takeshi Kaneda
VOICE

2020.06

新型コロナ感染拡大がエネルギー業界にもたらすもの

新型コロナウィルスの蔓延はとどまるところを知らず、全世界で370万人が感染し、26万人が命を落とし、かつてない大恐慌により全世界の労働者33億人の8割以上が失業するなど深刻な影響を受けるといわれています(2020年5月6日現在)。

世界経済が減速する中、必須な物資を同時に求めれば奪い合いが生じることは歴史が教えてくれます。まずは、日本にとって自給できない食料とエネルギーが心配ですが、すでに食料については輸出制限による国内価格の安定化を図る国が出ています。さらに、エネルギー資源は食料のように生産することができません。頼みの綱「LNG(液化天然ガス)」は長期貯蔵することもできません。

コロナウィルスの蔓延によりLNGの世界市場が暴落・乱高下する中、世界最大の輸入国である日本は、長期高値で購入し続けなければならない宿命を負っています。したがって、経済の停滞により電力需要は激減していますが、余剰のLNGを売却すれば逆ザヤを生みます。また、新エネルギーは自給エネルギーですが、導入はFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)が原資で、本来の電気代に上乗せして集めた賦課金(2019年度は2.4兆円、国民の追加的負担)により成立している限り、日本経済を後押しする産業に成長しているとは言い難い現状です。結果として、深刻化する経済危機の中で国民への巨額な追加負担を強いる新エネルギーの導入政策については明確な軌道修正が必要と考えます。

ちなみに、「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ大統領は9.11以降の中東政策を引き継ぎ、原油の中東依存からの脱却を基軸とし国産石炭の活用(クリーンコール)と同時にCO2(二酸化炭素)を排出しない原子力発電の拡大を図るエネルギーの自立政策を進めています。日本にも、1970年代の石油ショック後、中東原油に極度に依存していた産業構造を大転換し、エネルギーの安定的な自給を最優先として原子力発電を推進し、経済復興・成長を成し遂げた歴史があります。

新型コロナウィルスの感染拡大はあらためて日本にエネルギー資源をはじめとする必須物資自給の議論を投げかけています。まさに、原子力発電が長期停止していること、石炭への投資が停止していることのリスクがコロナ危機により顕在化したと言えるのではないでしょうか。日本経済再生に向け、早急な対応と改善に向けた議論が待たれます。

PROFILE

東京都生まれ。東京工業大学大学院エネルギー科学専攻博士課程修了。1990年三菱総合研究所入社。同社エネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長などを務めた。2004年ユニバーサルエネルギー研究所を設立。国内学会や政府、自治体の委員など公職を歴任する。