• 芝浦工業大学
    建築学部長 教授
  • 秋元 孝之Takashi Akimoto
VOICE

2021.05

民生部門のCO2排出量ゼロは不可欠
ZEH、LCCM住宅の標準仕様化目指す

脱炭素社会の実現に向けて需要側である産業・運輸・民生各部門の取り組みも加速しており、民生部門では特に住宅分野の脱炭素化による効果が期待されています。建築設備が専門の秋元孝之・芝浦工業大学建築学部長に最新の動向について伺いました。

菅義偉首相の「2050年カーボンニュートラル」宣言は、従来の省エネルギーや脱炭素化に向けた気運や取り組みを後押しするものです。産業・運輸・民生の全ての部門で相当な努力が必要ということに変わりはありませんが、経済と環境の好循環を進める絶好の機会と捉えるべきだと考えます。

国内の部門別CO2排出量の中で、民生部門では「業務部門」が約17%、「家庭部門」が約15%を占めていますが、これらをゼロにすることが目標達成のためには欠かせないと考えています。そのためには再生可能エネルギーの最大限の導入や電化の推進、水素、蓄電池の活用といった対策を進めることが極めて重要です。

特に住宅の脱炭素化による効果が期待されており、それを実現するZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅の普及に、国全体で取り組んでいます。ZEHは住宅の断熱性能と設備効率の向上、再エネの導入により年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指すものです。一方、LCCM住宅は建設時から運用時、廃棄時にわたる住宅の生涯を通じたCO2の収支をマイナスにするものです。第5次エネルギー基本計画でも、2030年までに全ての新築住宅で可能な限りZEHの実現を目指す目標を掲げており、関係省庁が支援事業を行うほか、ハウスメーカーや工務店などが連携し、販売数拡大と認知度向上に取り組んでいるところです。

ZEHやLCCM住宅は今の建築技術で十分提供できる仕様で、価格帯も一般住宅にかなり近づいてきました。今後、注文住宅だけでなく、建売住宅、さらには既築住宅にまで展開していくためには、こうした技術を標準化していくことが課題です。省エネや環境負荷を低減する住宅の標準仕様とはどういうものかを知っていただき、特長である経済性、快適・健康性、災害に対する強靭性を、より多くの一般消費者に実感していただく機会を作っていく必要があります。

2050年を見据え、IoTやAIを活用した超スマート社会「Society5.0」の実現に向けた動きも進んでいます。住宅においても同様で、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)をはじめ、テレワークの普及といった人々の様々な行動変容にマッチした機能が進化します。こうした社会でのエネルギー活用についても真剣に考えていく必要があるでしょう。

地球温暖化問題は世界全体の課題であり、その中で住宅は、脱炭素化の面でも人々の生活の面でも重要な部分を占めています。ぜひ自分事として考えていただきたいと思います。

(2021年4月5日インタビュー)

PROFILE

1988年早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。カリフォルニア大学バークレー校環境計画研究所に留学。博士(工学)、一級建築士。清水建設、関東学院大学教授を経て、2007年から芝浦工業大学教授、2021年より現職。建築設備が専門で、空気調和設備および熱環境・空気環境を中心に研究している。