• 株式会社ウエカツ水産
    代表取締役
  • 上田 勝彦Katsuhiko Ueda
VOICE

2022.03

海流や海底が生む福島魚の美味しさ
日常的に食べられることが復興の支えに

漁師、水産庁の官僚を経て漁業・魚食の伝道師として活動する上田勝彦さん。福島の漁業復興にも震災直後から深く関わってこられました。福島の、そして日本の魚が再び日常の食卓で存在感を増すにはなにが必要か、お話を伺いました。

福島の海は、黒潮と親潮が交わり栄養が豊富という恵まれた条件になっています。加えて海底にも非常に栄養豊かな優れた泥があります。おかげでヒラメやカレイといった底ものをはじめ、たくさんの種類の味わい深く濃厚な魚がとれます。

福島に深く関わるようになったのは震災後でした。被災地全体の生産基盤が失われたのを見て、「これは長期勝負になる」と感じました。その間を支え続けるには、電気を享受してきた国民一人一人が魚を「買って食べて支える」ことが必要だと考え、そのための体制づくりの活動をすぐに開始しました。

今は港などの設備の復旧に加え非常にしっかりした放射性物質の検査体制ができ、再び流通し始めた福島の魚は「日本一安全」と言ってもあながち大げさではありません。ただ、被災地の漁業が止まっている間に別の仕入れルートができてしまうと、水揚げが復活しても以前と同じように買ってもらえるかわかりません。復活した水産物をちゃんとした値段で買ってもらい、消費できるようになってはじめて、復興が完結したといえます。復興支援も一過性のイベントのような「非日常」の取り組みだけでなく、少量でも毎日売り場に置かれるような「日常」に落とし込む工夫が必要です。

水産庁を退職して立ち上げたウエカツ水産の社是は「サカナ伝えて、国おこす」です。昔は地域の魚屋が食べ方などを伝え、お客さんを育てながら商売していましたが、今はそうした魚屋が少なくなってしまいました。魚のことを伝えて生産と消費の循環をつくるためには、漁業者、加工流通業者、小売り、飲食店、家庭の食卓という魚に関わる人たち全体を育成していく必要があります。

いろいろな取り組みをやっていますが、今、力点を置いているのはスーパーです。ほとんどの人が魚を含む食材をスーパーで買う中で、生産者と消費者の間にいる役割を考え、理解してもらう。その役割を果たすために技術や知識が知りたいというところにはどんどん教えに行きます。どう魚をお客さんに伝えて売るかという、情報の伝え方の話などもします。

福島の復興支援の中で感じたのは、情報として「真実を伝えれば相手は納得する」というものではないということ。距離感のある言葉では真実でも共感は得られません。共感を生む伝え方とは何か、真剣に考える必要があるでしょう。

(2022年1月31日インタビュー)

PROFILE

長崎大学水産学部在学中から漁師としても活動。1991年卒業、水産庁入庁。漁師への活け締め技術の普及など、現場に根差した仕事に尽力したほか、東日本大震災後には復興支援組織「Re-Fish」を立ち上げた。2015年退職し、ウエカツ水産を設立。漁業・魚食 文化の振興に精力的に取り組んでいる。