- ジョンズ・ホプキンス大学
高等国際関係大学院 - ケント・カルダー氏Mr.Kent Calder
2022.09
エネルギー確保に原子力は不可欠
日本も安全保障の議論深化を
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、世界中が安全保障やエネルギーなどに関する重大な問題に直面しています。複雑な情勢の中、日本はどのように対応していくべきでしょうか。東アジア情勢などに詳しいケント・カルダー氏に伺いました。
原子力の再評価が必要
1990年代初頭に冷戦が終結しましたが、様々な国際問題やエネルギー問題がなくなったわけではありません。現在までにグローバル経済は大きく発展し、世界のエネルギー需要も増大する中、地政学的にも世界情勢は一見して安定しているように見えました。しかし裏では不安定要素の種がまかれていました。
その一つは中国が台頭し、各地で自国の立場を強化していること。もう一つがロシアの存在です。ソ連崩壊を経て国力が衰え、プーチン氏が大統領に就き再興を図る中で、軍事的な行動がしばしばみられるようになり、今回のウクライナ侵攻に至りました。
ウクライナ侵攻の影響によって世界はエネルギー危機に直面しています。日本では東日本大震災後に原子力発電所を停止したことでエネルギーの選択肢が狭まった結果、LNGへの依存度が非常に高まり、この影響を大きく受けています。日本に限らずロシアからの資源輸入を減らしたい欧州なども含め、エネルギー政策を見直さなければならない時期が来ています。
根本的な対策として、ロシア依存を低減しつつエネルギーを確保していけるよう、新しいエネルギーを模索していくことが必要です。もちろん太陽光などの再生可能エネルギーや電化の推進なども重要ですが、効果的な供給量拡大という意味では原子力発電所の稼働が非常に重要であり、エネルギー政策における原子力の役割を改めて考えるべきでしょう。
ウクライナ侵攻で、世界が地政学的につながっているということを日本の皆さんも実感されたと思います。また、日本が位置する東アジアには中台問題をはじめ、依然として危険な状況が横たわっています。こうした中で日本の皆さんには、日米同盟の強化も含め、国家安全保障に関する議論をより深めてほしいと考えています。
来年に広島で開催されるG7では、日本がリーダーシップを見せる機会があると思います。特に非軍事的な側面で力を発揮し、米国を中心とした安全保障の枠組みを補完するような形で貢献することができるのではないでしょうか。日本はエネルギー資源を輸入に頼っている一方で、効率的なエネルギーの利用や再生可能エネルギーなどの面で高い技術を持っており、米国と補完関係にあります。日米はパートナーとして、今後より関係を強化していくことができると思います。
(2022年7月19日インタビュー)
PROFILE
ハーバード大学大学院修了。エドウィン・ライシャワー氏のもとに学び、日米関係や東アジアの政治経済の専門家として米国戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長などを歴任した。近著に『Global Political Cities』、『スーパー大陸』など。2014年旭日中綬章受章。