• エネルギー経済社会研究所
    代表取締役
  • 松尾 豪氏Go Matsuo
VOICE

2022.11

再エネの導入で供給構造に変化
バランスの取れた電源構成を

今夏の電力需給ひっ迫に続き、今冬の電力供給も引き続き厳しい状況が想定されます。需給ひっ迫、供給力不足の顕在化の本質的な要因を踏まえ、今後の電源構成をどのように考えるべきなのでしょうか。国内外のエネルギー情勢、電力制度に詳しい松尾豪さんに伺いました。

電力の需給ひっ迫の背景には、電力の供給側で生じている大きな変化があります。その一つが、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入拡大が予想以上に早く進行したことで、稼働率が落ちて固定費を回収できなくなった火力発電所の休廃止です。

さらに、小売全面自由化以降、小売事業者が発電事業者と相対契約を結ばずとも電力を調達することができる卸電力取引が拡大し、電源投資の予見性が低下したことが、休廃止に拍車をかけることになりました。その結果、2016年から2022年にかけて2,000万㎾超の供給力が減少しています。

この火力発電所の休廃止による供給不足の常態化は短期的に解決できるものではなく、この冬の電力需給も綱渡りの状況であることに変わりありません。一時の見通しから予備率は改善していますが、東日本では大型電源が仮に2基脱落すれば相当深刻な事態になると予想されます。厳気象期の供給力の確保については、予備電源といった形で国の審議会でも議論が進められているので、充実した制度設計に期待したいと思います。

2050年カーボンニュートラル実現という野心的な目標に向けて、再エネのさらなる導入拡大は優先すべき課題です。しかし、今後の電源構成を考えるうえで重要なのは、社会経済の持続可能性を維持しながら、いかに化石燃料から移行していくかということです。

そのためには、短期的には火力発電の維持・リプレース、中長期的には火力発電のゼロエミッション化も着実に実行しなければなりません。その制度設計や技術開発も進んでいますが、火力発電への投資意欲は低下しており、それをもう一度喚起する仕組みづくりも必要になります。

また、原子力発電は、安定供給の確保に加えて、電気料金の抑制や環境適合性に資する電源です。今後、関係者の責任分担を明確にしたうえで、再稼働・新増設を進めていく必要があります。

世界的なカーボンニュートラルの潮流の中、「環境適合性」に対する意識がやや先行し過ぎていたことは否めません。激動するエネルギー情勢も踏まえ、これまで以上に、S+3Eのバランスが求められるのではないでしょうか。

(2022年10月20日インタビュー)

PROFILE

大学在学中の会社起業を経て、2012年イーレックス入社。アビームコンサルティング、ディー・エヌ・エーなどを経て、2020年にエネルギー経済社会研究所を設立。CIGRE会員、電気学会正員、公益事業学会会員、エネルギー・資源学会会員。専門分野は国内外の電力市場や電力制度。