- 三菱総合研究所
政策・経済センター
主席研究員・研究提言チーフ - (情報通信)
- 西角 直樹氏Naoki Nishikado
2025.05
今後の社会に不可欠なAI
ワット・ビット連携などで電力安定供給を
今後生成AIの計算量の飛躍的な増大に伴い、データセンターの電力需要が急増すると言われています。情報通信分野の専門家である三菱総合研究所の西角直樹氏は、技術開発により電力消費が抑制できる可能性がある一方、技術の進展には不確実性があると指摘します。今後のAI社会に必要な電力の安定供給のためには、ベースロード供給力の底上げとともに、電力供給とデータ処理需要の地理的・時間的な不均衡の解決に向けた「ワット・ビット連携」※が重要になると強調します。
※電力と情報通信のインフラ整備を一体的に進める戦略
現状、生成AIによる電力需要は基盤モデルをつくる「学習」向けの割合が大きいですが、今後は学習させたAIを実際に利用する「推論」での電力需要が増加していきます。推論による計算量は、基盤モデルの大規模化などにより今後飛躍的に増大すると言われており、電力効率が一定と仮定すれば電力需要も比例して増大します。
一方、用途に特化した小型の基盤モデルの使用や、電力効率を高めた半導体演算装置の開発、電気信号を光に置き換える「光電融合」による消費電力の抑制などの技術開発により、電力効率を向上させることが期待されていますが、早期に普及するかという点については不確実な面があります。
また、データセンター立地の希望は都市部に偏りますが、再生可能エネルギー(以下、再エネ)などの電力供給力が豊富なのは地方という「地理的」ミスマッチも課題です。加えて、24時間365日稼働するデータセンターには安定的な電源が必要ですが、再エネは自然条件に左右されるため出力変動があり、「時間的」なミスマッチもあります。
このような課題には、電力供給側(ワット)とデータ処理側(ビット)が連携することで改善が期待されます。AIの学習のような、実施地域・時間帯についての制約が少ない処理は、ビット側は都市部ではなく、電力供給力が豊富な地域・時間帯にて行うといった手法が考えられます。自動運転など即時性が求められる推論も考慮して、ワット側は系統増強や、出力変動の激しい再エネを安定化させるシステムの整備などが必要です。
人口減少社会で社会インフラの担い手を補完することが期待されるAIは、地域を維持するための必要不可欠な要素といえます。そこで電力が不足しAIの学習、推論が制約されることは、社会機能の維持や産業競争力の確保という観点から、大きなマイナスとなりかねないことから、電力の安定供給は欠かせません。ベースロード向けに必要な供給力を底上げしていくとともに、ワット・ビット両インフラの整備が必要で、そのためには、AIを活用した将来のグランドデザインを明確にすることが必要です。
(2025年4月22日インタビュー)
PROFILE
1968年生。東京大学大学院工学系修了、1997年三菱総合研究所入社。情報通信分野の競争政策や料金政策などの政策立案支援、ブロードバンドやモバイルの事業戦略コンサルティングなどに従事。現在は研究提言チーフとして情報通信分野の自主研究や大学などとの共同研究、政策提言の取りまとめを担当。NHK「クローズアップ現代」などメディアを通じた解説も行っている。
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