• 日本政策投資銀行
    執行役員(電力・エネルギー担当)
    企業金融第5部長(当時)
  • 伊東 徹二氏ITO TETSUJI
VOICE

2025.07

金融の視点からも重要な予見性
環境変化に応じ制度に磨きを

日本政策投資銀行の伊東徹二執行役員(電力・エネルギー担当)企業金融第5部長(当時)は、長期脱炭素電源オークションを「国として必要な電源に『お墨付き』を与える制度であり金融の観点からもポジティブ」と評価します。一方で適切な構成の電源整備へ、電源ごとのリスク特性を踏まえたリターンの設定など制度の改善も必要と指摘します。今後も金利上昇などの環境変化が見込まれることから、持続可能な安定供給へ議論を重ねることの重要性を強調します。

長期脱炭素電源オークションは「この電源は国として必要である」との明確なメッセージを示す制度であり、金融機関がファイナンスを支援する際、重要でポジティブな判断材料になります。第2回入札は制度改定によって募集量を上回る応札があり、非常に評価できます。

ただ結果を見ると、落札電源が蓄電池に偏る傾向が残り、課題も見えてきました。電源開発に最も大きな投資回収リスクは「完工前」にあります。工事遅延、建設コストの上振れ、制度変更のリスクなどの不確実性があるためです。

蓄電池、火力、原子力といった電源種によって工事金額や期間などは異なり、投資回収リスクも大きく異なります。それぞれのリスクに見合ったリターンを設定することが、金融の観点からも幅広い投資家を呼び込む観点からも重要です。「他市場収益の9割還付」ルールがリスク・リターンのバランスを踏まえてどうあるべきかといった議論も今後必要と思われます。

今年2月に閣議決定した第7次エネルギー基本計画は2040年を見据えた供給力確保の道筋が明確に示され、前向きに捉えています。電力需要が大幅に伸びる想定であり、原子力の安全投資、送配電網の高経年化や再生可能エネルギー導入拡大に向けた対策などが今後必要になります。

ただこれらはいずれもスケールが大きい一方、即座にはキャッシュを生まないものが多く、こうした課題に対応するにはデット(融資・社債)やエクイティー(株式)、オフバランス化や国の支援などを組み合わせた多様な資金調達が必要です。

長期脱炭素電源オークションを含む各種制度で、投資回収の予見性は高められます。一方、金利上昇や人手不足の課題のほか、想定する電力需要の下振れなど、様々な不確定要素が考えられます。環境変化に応じ、制度や市場をブラッシュアップしていくことが大切です。

安定供給と脱炭素の両立は、国民生活と経済活動を支える上で優先すべき課題です。現状の安定供給は「電力会社の矜持」に支えられる面もありますが、これを持続可能にするにはコストをどう社会で分かち合うかの議論も重要です。私たちも電気事業を「需要の伸びる成長産業」と捉え、金融の立場で支えていきたいと考えています。

(2025年6月19日インタビュー)

PROFILE

1971年生。1995年東京大学法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米スタンフォード大学アジア太平洋研究センター派遣などを経験。海運、航空業界を担当する企業金融第4部や、電気、ガス、石油業界を担当する企業金融第5部などで要職を務め、2023年に執行役員。2025年6月からは常務執行役員として製造業(輸送用機械、電気機械)や航空、宇宙関連産業を担当する。大学卒業まで野球に打ち込み、現在も幅広く観戦し英気を養う。

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